第12話 音割れ黒羽さん

「これはマズイ」


 俺の外部講師作戦は、成功したには成功した。

 黒羽さん曰く、相当渋い反応だったらしいけど許可を貰えたなら御の字だ。勝てば良いんだよ勝てば。

 

 ただ──


「一週間で200か……。さすがにそれは無理があるんじゃねぇか。いや、それだけ黒羽さんが大事なんだろうな」


 運営から出された一つの条件。

 それは、一週間で200万再生を超えなければ、再びのコラボを禁じるというものだ。

 これには難色を示した俺と黒羽さんだったが、相手の意志は相当硬いようで、どうにもこうにもならなかった。


 ……あ、ちなみにうちの事務所は『ん? 相手の事務所がオッケーならいいよ。あと面倒な手続きとかは色々やっとくから』って社長直々に言われた。  


 いや、あんたフットワーク軽すぎだろ。


「ぐぬぬぬぬ。200万……200万か……。配信で200万……」


 単発企画の動画なら、もしかして、というのはある。

 だけども、配信で200万再生は相当難しい。色んな人を巻き込んだ大規模コラボでも、それなりに時間はかかるし、場合によっては100万再生にも届かないことがある。


「俺の素バレ配信が現在540万再生。多分この数字を見て決めたな……」


 確かにあの配信では、一週間で200万再生を超えることができた。Vtuber界隈でも、早々ないバズり方だったからな。

 だけど、あれは特殊だからノーカンだろ!!

 どれだけ尊厳捨ててもあの数字を超えることは無理に等しいわ。


「でも、やらなきゃな。俺だけじゃない。二人で作り上げるんだから」


 俺一人じゃない。黒羽さんもいる。

 勝ち目はあるはずだ。


 今回のコラボはただ単に普通のコラボじゃない。   

 社長からは遠回しに言われたが、24じとライブエアーを繋ぐ重要なコラボでもあるという。

 この結果が、これからの関係に響く。


 いや、そんな重要なことを俺に任せないでくれない!?


「まだ話題性のある俺と、元から人気を誇る黒羽さん。更に24じとライブエアーのコラボ。色々含めたら同接8万は堅い……! 後はそれを再生数に繋げる必要があるな。公式切り抜きを雇ったり、運営には全面的にバックアップをしてもらおう」


 勿論、俺たちが大成功を収めるのが一番いい。

 だが、こういう細かい努力が実を結ぶこともある。

 やらないでする後悔よりも、やってからする後悔の方が何倍もいいに決まってる。できれば後悔はしたくないけど。



 

☆☆☆


「それで、どういった流れにするんですか?」

「え、何も決めてないわよ。しいて言うなら無策」

「バカですか?????」


 やばい終わったかもしれない。

 コラボの打ち合わせのために電話をかけた俺は、開口一番無策を披露した黒羽さんの姿に項垂れた。

 

「だ、だって、今までコラボ相手に全部任せてたもの! 別に私はアドリブで何とかなるし。私天才だもの!」

「それは同事務所コラボだったからでしょうに……。良いですか黒羽さん。今回の配信は、黒羽さんのチャンネルで行います。つまり、チャンネル主は黒羽さんであって、俺じゃない。しかも、体裁上俺は外部講師です。だから、黒羽さんが司会進行を務める必要があります。ここまで理解できますか?」


「ええ、それは分かってるわ。

──でも……外部講師が司会進行したらダメというルールはないはずよ!!!」


「何言ってんだこの人」


 ダメだろ。

 お前何出しゃばってんねん、って黒羽さんリスナーに燃やされるわ。

 あかん。この人根本的にコラボのことを把握してない。


 ……コラボしたことない俺の方が詳しいってどういうことだよ。


「良いんですか? 俺が司会進行したら黒羽さんのチャンネル乗っ取っちゃいますよ? 完璧で究極(笑)なんですよね? 良いんですか?」

「わざわざ(笑)で口で言わないでちょうだい! ……ぐぬ、一理あるわね。分かったわ、司会については何とかしてみる。けれど、肝心の内容について、田中にビジョンはあるのかしら?」


 叫んだ後に一呼吸を置き、黒羽さんは真面目なトーンで聞いてきた。

 そう、そこが重要な点だ。


「何が視聴者にとって面白いか、って考えた場合、俺たちって我が強すぎて企画モノをすると互いの良さを消し飛ばす気がするんですよね。だから、あくまで外部講師としてイメージチェンジ講座を行いつつ、面白い会話に持ち込むのが正しいとは思いますけど」

「面白い会話ってなによ。そのニュアンス、関西人に何か面白い話してよ、と同じ雰囲気感じるのだけれど」

「まあ、それっす」

「適当!?」

「いや、黒羽さんは存在がそこそこ面白いんで」

「そこそこってなによ!? せめて面白いで終わって欲しかったわ!!!」


 こういうところなんだよな。

 本当に配信映えする性格だと俺は思ってる。だからこそ、問題なのはあくまで俺。

 

 

「うーん、こういう会話するだけで視聴者からは新鮮だと思いますけど、俺がそれをして炎上しないかだけが心配ですねぇ」

「そんな厄介リスナーは私のとこにはいないわ!!」

「いるんだっつーの」

「うぇ!? ……でも、多少のリスクは織り込み済みよ。危険でもやらなきゃ前には進めない。いざとなったら全ての責任は私が取るわ」

「炎上した場合責任取るの俺なんですけど!!」

 

 格好良いセリフだけど、間違いなく一番被害を被るのは俺。……まあ、元よりそれは覚悟してることだし。

 アトウェルさんに近づくためなら、こんな炎上にビクビクしてる場合じゃない。


「黒羽さんからしたら俺は乗り気じゃないように見えますけど、俺だって黒羽さんとコラボしたい。人気になるための踏み台なんて一度も思ったことはありませんし、純粋にあなたの言葉に絆されたから受諾したんです。だからこそ……本気でやりましょう。目指しましょう、200万再生」


 声に熱が籠もっていることが自覚できた。

 けれど、こういうことは伝えておくべきだと自分の勘が囁いた。


 2秒、3秒と経ち、スマホ越しに聴こえたのは──



「そうね……め゛ざ゛す゛わ゛よ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ──超絶音割れボイスだった。


「うわっ、うるさっ!!!!???」


 ……何とかなりそうな気がしてきた。

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