第11話 黒羽さんとコラボするために
黒歴史振り返り配信は、俺の尊大でバカでっかい(小並感)羞恥心を捧げたお陰で、何とかバズってくれた。
元々注目度が高いだけに、素バレ系統の企画は伸びると思っていた。
逆に言えば、そのネタを捨ててもバズることができるのか。それからが勝負だと思っている。
「一先ずチャンネル登録者数30万人達成。これで目標にまた近づいた」
つい一ヶ月前じゃ考えられない数字だ。
これをデフォと思っちゃ、これから先がキツくなる。あくまで今の俺は幸運が巡ってきたと思わねば……!!
まだいける。
俺はいけるぞ……!!!!!!
と、非常に頑張っている。
今が一番モチベがある。このモチベが尽きぬことはないだろう、と言えるほどにやる気がみなぎっている。
「応援してくれるリスナーのため。激励してくれる仲間のため。そして何より俺のため」
再三言っている通り、配信者としてVtuberとして、まずは自分が楽しまなきゃ人を笑顔にすることはできない。
例えどんな内容でも、自身が笑顔であれば、それにつられて笑顔になるものだ。
──その志のもと、俺は黒羽さんと約束したタイムリミットの二週間を過ごした。
まさしく激動の日々とも言える時間は、Vtuberとしての俺を見つめ直す期間でもあり、成長するために必要な時間だった。
ある時はゲームでボコボコにされ。
ある時は黒歴史をリスナーにイジられ続け、悶絶しまくる回もあったり。
趣向を変えて特殊企画をしたら社長が乗り込んできたり。いや、マジであれは意味分からんかった。
まあ、その甲斐あって。
「チャンネル登録者数42万人。最低減の土俵には立った」
約束の期日までに、チャンネル登録者数40万人を超えることができたのであった。
一ヶ月でこのスピードは異常といってもいい。
運もあるし、自分を褒めれる部分もある。
何よりも配信を楽しんでくれたリスナーのお陰で、今の自分が形成されている。
「よし、それじゃあ黒羽さんに連絡してみるか」
善は急げだ。
黒羽さんも俺が40万人を超えたことは知ってるだろうし、許可の方は果たしてどうなってんのかな。
俺は黒羽さんに手渡された連絡先の番号をポチポチと打ち込んで、電話をかける。
……普通はメールアドレスからなんだろうけど、手渡された紙に電話番号しか描いてなかったから仕方ないんだ……!
プルルル、プルルルと2コール鳴って出た。
「はい、もしもし」
「あ、もしもし。田中です。お久しぶりですね」
「田中……そう。チャンネル登録者数40万人おめでとう。見事に有言実行したわね……」
「黒羽さん……?」
俺を祝福した声に覇気はなく、どことなく落ち込んでいるように感じ取れた。
一体彼女の身に何があったんだ。
──その答え合わせは、耳元で叫ばれた言葉だった。
「全然事務所の許可下りないのよぉぉおおおおお!!!」
「でしょうね!!!!!!!!!」
何を当たり前のことを。
☆☆☆
二、三分の間叫び続けた黒羽さんは、俺の冷静(?)なツッコミの類に、ようやく平静を取り戻した様子だった。
「取り乱して悪かったわね。……あの、石頭事務所っ! 全然許可が下りないのよ!? 炎上リスクがどうのこうのとか話題性とメリットが釣り合ってないだの……!!」
いや、全部言う通りなんだよな。
これに関しては俺が、というか根本的原因を作った上で自分の影響力を理解してない黒羽さんが悪いんだろうけどさ。
声も良いしキャラも立ってて、親しみやすいポンコツさがある。
人気にならない要素はないし、ガチ恋勢が一定数いるのも理解できる。
ポンコツキャラ……ええよな。
「まあ、事務所の運営方法的に仕方のない部分はありますね」
「私もそれは理解しているわ。実際、それでファンは増えるし、内々のコミュニティだって楽しい。けれど、それで可能性の幅を狭めちゃ世話ないわよ」
「リスク管理をしっかりしている事務所か、多少のリスクは気にせずに新しいことをし続けるか……。どれも一長一短ありますし難しい話ですねぇ」
「どうにかできないかしら……。私はあなたとコラボがしたいの。配信をただ楽しみたいだけなのに……」
色恋沙汰も何もないロミジュリみたいだな、この状況。
……配信を楽しみたい、か。
それは勿論俺だって同じ気持ちだ。黒羽さんとは会って間もないが、相性の良さとVtuberに対する熱い情熱を知った。
黒羽さんとコラボしたい、とそう思えた。
仕方がないとはいえやるせない。
どうにかできないのか。
そう思考を巡らせた時だった。
俺はとあることを思い出した。
「──外部講師」
「え……?」
「ある、あるんですよ! 比較的炎上リスクが低くてコラボできる理由付けが!!」
そうだ、忘れていた。
配信の企画として、何らかのプロを呼んでゲームをする。それならば、例え異性であっても炎上しにくい。当然、細かなところから文句は飛んでくるが、そんなことは気にしてられない。
俺たちがコラボするたった一つの理由。
俺が外部講師になるだけで全てが解決する。
しかし、黒羽さんの声音は芳しくなかった。
「でも、何を教えるのよ。あなた、特段プロといえる腕前のゲームとかあるのかしら?」
「……ふっ、何も教えることがゲームとは限りませんよ」
これが自分の身を削ることになるのは分かっている。
でも、俺の身をゴリゴリ削るくらいなら全然構わない。むしろすり下ろして欲しいわ(虚言懇願)。
そう、俺がやろうとしていることは簡単。
「イメージチェンジの講義。それで行きましょう」
「イメージチェンジ……。確かにあなたにうってつけの講義ね」
ようやく黒羽さんの口角が上がった……電話越しにそんなような気がした。
コラボの算段がついたからかもしれない。
「そこで信頼と話題性を勝ち取れば次もあります。まあ、まずは成功させなきゃいけないですけど……それは正直心配してません」
「あら、どうして?」
俺は敢えて自信満々な声音を意識して言った。
「だって、Vtuber界をひっくり返すんでしょう? こんなとこで躓いてられませんよ」
「……ふふっふふふ、随分言うじゃない。けれど、その通りね。そうよ! 私達はこんなところで躓いて良い存在じゃないのよ!! 天才で完璧なんだから!!」
「あ、いや、そこまでは言ってないっす」
「急に梯子外さないで!?!?」
この後無事に許可を取り付けることができた。
……再生回数二百万超えを条件に。
ーーーーー
昨日疲れてて爆睡してました。
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