第7話 心はVtuberなんです。知らんけど
隣に陣取って怪しい笑み(当社比)を浮かべる女性だが、この講義に関してはむしろ幸運なのかもしれない。
何せ同業だと分かれば、堂々とVtuberのことに関して考えることができる。バレても問題ないからな!
と、いうわけで、こちらをチラチラ見てくる女性を無視して、俺はノートに企画案をメモし始めた。
……運営主導の企画モノしかしてこなかった弊害で、自分で考えるとなるとどうにも難しい。
妙案を思いつきたいところだが。
ペンが『企画案』、と銘打ったところで止まってしまった。いっそのこと凸待ち……いや、凸してくれるほどの関係性を持った人が0人だわ。無理に決まってる。
ペンを片手にうんうん悩んでいると、不意に腕を突かれる感触を覚えた。
「……悩んでるのかしら?」
とてもニヤァと、悪い笑みを浮かべる女性と目が合った。「私が何とかしてあげようか」とでも言わんとしているような笑みだ。非常にムカつく。
無視!!!!!!!
「ちょ、ちょっと……」
無視!!!!!!!
「む、無視しないでよ」
無視!!!!!!!
「お、怒るわよ」
無視!!!!!!!
なおもツンツンされる右腕の感覚が煩わしくなってきたころ、ふと隣を見たら、涙目で袖を引っ張る女性の姿がいた。
「なんですか」
「な、なんで無視するのよぉ」
「授業中ですし」
「授業と関係ないことしてるじゃない」
「知ってますか。講義ってどれだけ必要な情報を取捨選択してテストを楽に乗り切れるかが勝負なんですよ」
「取捨じゃなくても全部捨じゃないの……!!」
小声で怒鳴る、という珍しい芸当を披露してみせた女性は、ぷりぷりと怒りながらも本題を説明し始めた。
「今、企画を練っているのでしょう? ちょっと貸しなさい」
「あ」
女性に、俺が書き上げていたノートを奪われる。
ニュアンス的に何かアドバイスをくれそうなものだが、本当にまともなアドバイスをくれるのか些か信じられない。
普通にう◯この落書きとしかしてきそう。いや、それは失礼すぎる。悔い改めとくわ。
「ふふんっ、これでどうかしら?」
「はぁ」
やけに自信満々に手渡されたノートには、ものの5分ほどで幾つかの記述がされていた。
ーーー
・自分の配信を見てみた
・キルする度に声の音量を上げていくFPS
・大人気Vtuberとコラボしてみた
〜などなど色々なことが書かれている。
ーーー
「テンプレだけれど、踏襲しても問題ない企画を選んだわ。これをもとに自分色を出して行動するのよ」
……おぉ、思ったよりも真面目な提案が出た。
「すみません。変なこと書くかと思ってました」
「変なことってなによ……」
「う◯こあたり書くんじゃないかと」
「あなたの中での私、なんなの……っ!?」
その叫びに、俺はノートにあることを書いて指差す。
『誰が見てるか分からない場所で、Vtuberであることをバラす結構やばめな人』
「それは……ッ!! 何も言えないわね。私も退学しようかしら」
潔くて草。
それはそうと、さすがに色々と言い過ぎた。こうやって真面目に提案してくれたんだし、それは感謝しないと。
「企画のことに関してはありがとうございます。参考にしますよ」
「そ、そう。それなら良かったわ。うん」
明らかにニヤニヤした顔を隠して、女性は呟くように言う。なんかチョロい気配を感じる。
それきり女性はそっぽを向いて何も言わなくなったため、俺は視線を外して講義に集中(大嘘)し始めた。
☆☆☆
「さあ、行くわよ!!」
「急に元気になった……こわ」
講義が終わって少し経つやいなや、立ち上がって宣言する女性。どこに行くのか分からないから結構怖いんだけど。
「私が案内するわ! 付いてきなさい!」
「りょうかいでーす」
扱いがぞんざいになってきた節はあるが、そうでもしないと胃が死ぬ。敬うべき人を敬うから、正しい敬語を使うのであって、初っ端の印象が最悪な人を敬うかといったら別だよな。
「この先に個室の喫茶店があるの。そこで話しましょう」
「個室……」
嫌な予感しかしないな。
まあ、もう逃げれないしなるようになれ!
先導する女性の後をついていくこと5分。
路地裏にある店とも分からない扉の入り口を、慣れた手付きで開けた女性は、現れた店員に諸々を説明した。
予約もすでに取ってあることから、今日という日を狙い撃ちにしてきたのは明白だ。
今日俺が大学に行かなかったらどうしてたんだよ。
「さて、これでゆっくり話せるわね」
「壺は買いませんよ」
「まだ疑ってたの!? だーかーら! 美人局じゃないってば! ……そうね、改めて自己紹介しましょう」
女性は、バッ! と立ち上がって、メガネをクイッとして言った。
「ライブエアー所属、3期生の
そこで一度切ってから、女性……改め黒羽詩織は、俺をビシッ! と指を指して告げる。
「田中・エリオット・毒沼。あなた、私と一緒にVtuber界の天辺を目指さない?」
──その問いに俺は────
「嫌です」
そう、笑顔で告げたのであった。
「どうしてよぉぉぉぉぉおお!!!」
いやだって、あんたの事務所、アイドル売りしてるとこじゃん……。
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