第6話 Vtuberとしてじゃない姿。なのにアレ……?

 バイトもせずにVtuberに邁進している俺だが、リアルでは大学の課題とかレポートに追われている。

 粗方単位は取り終わったために、そこまで忙しくはないが、それでも週に二回は行く必要がある。


 ……Vtuberを本業にしたい気持ちは勿論ある。というかできればそうしたいけど、知識量とか配信の質的に大学に通っていて損はないかなと思っている。

  

 何事も知識と濃密な経験が物を言うからな。

 濃密な経験でいえば、最近色んなことがありすぎてお腹いっぱいだわ。しばらくトラブルは勘弁願いたい。胃薬が切れる。


「一回大学行ってリフレッシュして、何か企画でも考えてみようかなぁ。それこそ体を張った企画でも今なら大丈夫だろ」


 そう考えると楽しみになってきた。

 つまらない講義は内職の時間だし、テストのためにメモを取りつつ企画を練ろう、っと。


 俺はルンルン気分で、大学までの道のりを歩いた。




☆☆☆


 大学はでっっかい大講義室があって、そこで講義を行う……と思われがちだが、実際はそうでもないことが多く、中規模な講義室でレジュメやパソコンを活用して講義を聞くことがある。

 ただ、学生数が多い大学だと、かなりの確率で席に空きがないために、それなりの近距離相席状態になる。

 特に気にすることはないけど、俺の場合身バレが怖い。

 大人気Vtuber(予定)だから、見つかることはないとは思う。


 配信の時の声はほぼ地声だから少し怖いけど……まあ、大学に友達いないし。バレるバレないじゃなくて、そもそも大学で声を発した記憶があまりないし。


 も、問題ないんじゃねぇかなぁ!!(ヤケクソ)


「ふっ、俺は一匹狼という名のただの負け犬畜生……」


 誰よりも早く講義室に入った俺は、一番後ろの席を確保してニヒルに呟いた。誰もいないからこそできる謎の自虐だ。ちょっとだけ優越感に浸れる気がするけど、多分気のせい。


 すると、二人目となる女子生徒が講義室に入ってきた。

 扉の開閉音に思わずそちらを見ると、なぜかバッチリその女性と目が合った。

 それも偶然とは言えない。十秒ほど何故か互いに見つめあっていた。

 別に俺から目を逸らせば良い話だが、謎のプライドにより目を逸らしたら終わり、と感じた……のか? 知らん。


 謎のシチュエーションは、女性がフッと目を逸らしたことで終わる。

 しかし、ここで新たな問題が発生する。


 女性は、ズカズカと一直線に俺の方へ歩いてきた。

 

「隣、良いかしら?」

「え、あ、はい……」


 いや、空いてる席しか無いのに何でわざわざ俺の隣に!? 美人局!? 良く見たらくっそ美人だし、全然その可能性あるわ!!!


 え、こっわ、と思いながらチラリと横目に女性を見る。

 黒髪ロングで、恐らく伊達メガネ……? を付けたワンピースの女性。

 まさしく清楚を体現しているようであり、その顔は、すれ違えば確実に美人だと心の中で思うほどの美貌であった。


 本格的に美人局を疑うべきか、これ。



「あなたは何年生かしら?」

「あ、三年です」

「そう、一個下ね。私、再履してるの」

「そ、そうなんですね。単位が足りなかったんですか?」

「いいえ、あなたがこの講義を取っていることが分かったからね」


 イタズラっぽく笑った女性の言葉に、俺は今度こそ「ほえ……?」と放心するしかなかった。

 その物言いは、まるで俺を目的として講義を受けたと言っているみたいだ。……いや、言い方的にそうだよな。


 ……誰もいない講義室に男女二人。

 なにも起きないはずがなく。



 ────いや、これ絶対美人局だろッ!!!


 俺はその確信を持って手でバツ印を作って叫ぶ。



「お、俺! 壺とか幸運の水とか買いませんから! お金ないので!! 他を当たってください!!」

「へ?」


 俺の全力の咆哮に、女性はキョトンとした表情で首を傾げた。

 あれ……?


「いえ、あの……美人局か何かなんじゃないかと……違うんですか……?」

「ふふっ、普通それを本人の前で言わないわよ。はぁ……そう勘違いするのね。まあ、無理はないわ」

「じゃあ、一体何の用で……」


 そう言った瞬間、錯覚じゃなければ、女性の目がキラリと輝いたように見えた。よくぞ言ってくれた、と目が語っていた気がする。


「こう言えば分かるかしら? ?」


 ……ふむ。


「あ、ちょっと今から退学してきます」


「どうして!?」


 身バレパターンじゃないですか、終わったよこれ。

 Vtuberの身バレ=死だからな。状況証拠掴まれる前にさっさと逃げないと色々手遅れになっちゃうじゃん。


「では、失礼します」


 俺が席を立つと、俺の言葉が本気なことがわかったのか、急いで止めてきた。


「ちょ、待ちなさい! 私も同業者だから!」

「同業者……?」

「ええ、私もVtuberよ。ただ、もうすぐ人が集まってくる時間でしょうし、終わったらどこか移動して話さないかしら?」

「……分かりました」


 同じVtuberか……。

 そりゃ俺のこと知ってたらバレるか。やっぱり地声を少し変えるしかないかねぇ。

 ……一先ず色々と怪しい話ではあるけど、Vtuberであることがバレた以上、話に応じるしかあるまい。

 反応的にそう悪くはならないと思うけどな……。



「この後が楽しみね、田中くん」

「あなたの選択次第で俺の未来が退学か否かなので、全然戦々恐々してるんですけど」

「そんな重く捉えないで!?」


 大学内で正体バラしてくるやつが重くないとか虚言だろ。

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