第5話
今日の朝食はサンドイッチ。あれからマークには色んなレシピを渡して新しい料理を作って貰って研究してもらってる。料理はレパートリーが増えれば増えるほど上達していくからね。頑張って。
朝食を食べ終わるとお父様に話しかけられた。
「エリン、私達は今日から王都に向かう。しっかりと留守番するんだよ」
「はい。お父様」
「エリン、私は貴方が居ないととても寂しいわ。こんなに可愛い娘を置いて行くなんて心が張り裂けそうだわ。貴方を一人にさせてしまうのがとても心配なのよ」
思わず笑顔がひきつってしまう。
お母様は元々可愛がってくれてたけど、最近やたらとスキンシップも多いし、ずっと心配して遠くから見つめられてるのを知っている。
もう。お母様はホントに私の事が可愛くて大好き過ぎて離れられなのね。このままだとお母様が心配だわ。
「私は一人でも大丈夫ですよ。お母様。私はお母様の方が寂しくされるのが心配です。大好きです。お母様」
私はお母様に抱きついた。これで寂しくないよね。
「エリーったら。だから貴方が心配なのですよ」
え?何で?せっかくお母様が寂しくないように抱きついたのに。
「ハロルド。サーシャ。エリーの事、く・れ・ぐ・れ・も、頼みましたよ。絶対甘やかさないように。しっかりと守りなさい」
「はっ」「かしこまりました」
全く。お母様は心配性なんだから。
「お父様、お母様、気を付けて行ってらっしゃい」
「行ってくるよ。エリン」
「なるべく早くから帰ってくるわ」
行ってしまった。私も寂しいけど、暫く家庭教師はお休みだから少し庭で訓練しよう。
私はスキップしながら部屋に戻って着替える事にした。
「全くあの娘は。自覚してないのが一番の問題ね。頭は良いのに自分の事になるとどうしてこうも鈍感なのかしら。このままじゃいつまでたっても外に連れて行けないわ」
「そうだね。怪しい動きをしていた家庭教師は騎士達が捕らえてくれたけど、先生が変わっても気にした様子もないからね」
「どうしても貴方と私が王都に行かないと行けないの?」
「こればっかりは人に任せられないからね。それに第一王女様もエミリアに会いたがってるからね。今回は断るのが難しかったよ。それに屋敷にはハロルドも残して来たんだ。大丈夫だよ」
「そうね。それにしてもセシリアも変わらないわね。私が護衛に付いていた期間は短かったのに。いつまでも離れられない困った娘ね」
「セシリア姫には悪い事したね。エミリアにももう少し騎士を続けさせてやりたかったんだが」
「良いのよ。私は十分幸せよ」
「よし、今日は飛んでる鳥を打ち落としてみよう」
手に魔力を集めて手を覆う様に魔力を圧縮する。
「ライトニング」
青い稲妻が走り、空気が破裂した様な音が鳴り響き、見事に鳥に命中した。
鳥が落下した場所まで進み確認する。
「これは、死んでいるのかな。でも決めた事よ。これからの為にも勇気を出すのよ。エリン」
自分に言い聞かせながら鳥の頭を掴みながら首に短剣を差し込む。
目から涙が溢れてくる。
「名もない鳥さん、ごめんなさい。でも生きる為なの。許して」
私は泣きながら鳥の解体を始めた。
色々準備していて私は思った。いざと言う時に私は人を傷付けられるのか。殴ったり蹴ったりは出来ると思う。でも、もし武器を持っていたら?私は相手を切る事が出来るのか。
そんな事を考えると無理な気がした。だから先ずは生き物の解体をする事にした。生きる為にも肉は大事な食材。それに大抵の鳥は食べられる。無駄にせずに済む。
私が泣きながら解体していると騎士が走って来た。
「エリンお嬢様。一体何をされているのですか?いけません。解体なら私が代わりにやりますので」
「ダメよ。ハロルド。これは私が決めたの。私が奪った命なの。だから最後まで私がするわ。それが命を奪った責任なの」
「お嬢様。どうしてこのような事を」
「私は守られるだけの女になりたくないの。強く成りたいの。だから私の為に見守ってて?」
「分かりました。兵士でも初めて動物を殺した時に吐く奴も居ます。だからお嬢様は凄いです。とても立派です」
「ありがとう」
「お嬢様。血抜きも大事ですが、内臓の処理も大事な事です。無駄にしない為にも急いで内臓を処理しましょう」
「分かったわ。ありがとう。ハロルド。少し落ち着いたわ。私頑張る」
「はい。私で良ければお手伝い致します」
鳥の内臓を処理していると中から卵が出てきた。
「この鳥は魔物なのでこの卵は食べられません。処分致しますか?」
「いいえ。私が代わりに育てます。責めて生きて行ける位までは頑張って育ててみます」
「しかし、お嬢様・・・」
「分かってるわ。魔物だから危険だって言いたいのよね?でももう決めたの。ごめんなさい」
「そうですか。分かりました。でも領主様には知らせて起きます」
「ありがとう。ハロルド。迷惑かけるわね」
「いいえ。少し水に浸けてから料理長の所に持って行きましょう」
「ありがとう」
そうして私はハロルドから注意点を聞きながら解体を終えた。
私は部屋に戻ってから卵用のクッションを作って篭に詰め、その上に卵を乗せた。
魔物の卵は暖めなくても自然に孵化するそうだ。
「ごめんね。元気になったらちゃんと自然に返してあげるから」
自己満足なのは分かってる。でもそうしたいし、そうするべきだと思った。
ふと思い立ち、ゆっくりと少しずつ卵に魔力を送ってみた。すると卵が喜んでくれたような気がした。これからは毎日魔力を送ってみよう。
それから数日は自主勉強したり、特訓したり、変わらない日々を送っていた。
その日はいつもより早く眠くなって、何か変だと思いながら少しソファーに横になる事にした。
目が覚めると暗闇の中に居た。ここはどこ?
ゆっくりと周りを確認してみたけど何も見えない。
あ、手も足も縛られてる。口も何かで塞がれてる。何これ。汚い物を口に入れないで欲しい。
はぁ。私って以外と冷静だね。ピンチになると混乱してパニックになる人も居れば、極限まで集中力が高まって冷静に対処出来る人も居る。
どうやら私は後者だったようね。
これは多分盛られたね。睡眠薬かな?次からは毒耐性も頑張って鍛えよう。確かお父様が毒耐性あったはず。
取り敢えず、薬が完全に抜けるまで音を立てないようにしよう。起きてるのがバレたらチャンスを逃すかもしれないし。
それにしてもソファーで寝てた私ナイス。これがベットだったらヤバかったかも。
すると足音が聞こえてきた。
「おい。まだ起きてないか?」
「ええ。物音1つ鳴ってませんよ」
「そうか。それにしてもかなりの上玉だな。女神とか妖精って言われても信じちまいそうだぜ」
「それな。あの変態家庭教師に目を付けられたせいで情報が回って変態貴族様にまで目を付けられたんだからな。大人になればかなりの美人になると思うけど、流石にガキには欲情しないな」
「ま、その変態様のお陰で大金が手に入るんだからな。それにガキを拐うなんて楽勝よ。使用人の家族拐って脅せばイチコロよ。今頃あの世で家族と再開してるさ」
「約束守ってあの世で再開させてやったんだからホント感謝して欲しいぜ」
こいつら情報をベラベラ喋ってくれるね。バカなのか?バカなんだろうね。バカだからこんな事してるんだろうね。依頼主が貴族なら絶対生かしておくリスクは取らない。関係者を全て殺す方が安全だからね。
「一応確認しておこうぜ。流石に逃げられるとは思わないが物音一つ聞こえないのは不安になるぜ」
「そうだな。寝てるかどうかだけでも確認しとこう」
賊達が扉を開いた。
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