第4話

「ふっふっふっ。遂に完成して届いた私専用の製図セット。毎日お父様に突撃した甲斐がありましたよ。うふふ」



最近は前世の私と女としての私が混じり合って【今の私】が確立されつつある。前世の記憶は【私の記憶】と言うより違う人の【情報】って認識の方がしっくりくる。



そう言えばこの間、屋敷の騎士達に手伝って貰ってサンドバックを作って貰った。最近体の動かし方も理想に近づいてきた事もあり、もう少し実践的な鍛練がしたくてサンドバッグを殴る事にした。バンテージを巻いて思いっきり殴ったらめちゃくちゃ痛かった。だからスピードを意識して痛く無い程度に殴り続けた。



そしたらそれを見ていた騎士達も真似して同じサンドバックを作ってた。私は嬉しかったのに、何故かお父様が騎士達を叱りつけていた。そして私も怒られた。え?何で?



だから私はお父様にこの鍛練がどれだけ役に立つか教える為にステップをしながらサンドバックでの鍛練を見て貰った。そしたらお父様は何も言わなくなった。良かった。お父様も分かってくれた。これでひと安心だね。



それからあまりにも物作りが出来ないから、変わりに設計図を描こうと思ったんだけど、どうしても製図セットが欲しくなったのだ。だって設計レシピに製図セットの製図が出てきたんだから仕方ないよね。



って事でお父様に毎日突撃して屋敷に職人を呼んで貰い、手書きの設計図を使いながら説明。すると職人さんは喜んで引き受けてくれた。お父様にはこの画期的な道具の素晴らしさが分からないようだ。



木と革とクッションで作られた専用のケースの中に嵌め込まれた形で納められた道具達。めちゃくちゃ重いけど気にしない。だって私の相棒になるんだから。



「先ずは記念すべき最初の設計図は万年筆だ」



この世界で文字を書くのは流石に羽ペンとかでは無く、丸ペンみたいなやつにインクを浸けて書くのが一般的。そこで私は丸ペンもどきを詳しく観察した。



すると頭の中に万年筆の設計図が浮かんでくるではありませんか。これは画期的。インクを補充すればずっと書いてられるし、インクの浸けすぎで滲む事もないし携帯出来るのも素晴らしい。



「では早速作成」



丸ペンもどきを使って書くのは大変だったけど、何とか完成しました。



「お父様ーーー」



早速突撃です。



「エリンよ。大きな声を出すなんてはしたないよ。それで今日はどうしたんだい?」



何だかお父様の笑顔が変ね。でも私は気にしない。



「お父様。これを見て下さい。これは万年筆と言ってここを回して外すと穴が空いていて、ここにインクを入れるとインクが切れるまでずっと書き続けられるのです。それに何度でも補充して使えるし、インクも適量しか出てこないので文字が滲む心配もありません。それにこのキャップが付いているお陰で使ってない間もインクが乾く心配もありません。そして更に、なんと、持ち運びが出来るのです。いつでもどこでもインク瓶を持ち運びしなくても書けるのです。立ったままでも書く事が出来るのですよ。どうですかお父様?これを作りましょう。あれ?お父様?どうされたのですか?」



お父様は私が描いた設計図を見ながら何の反応もしない。



あれ?ちょっと予想外の反応です。これはインパクトが足りなかったのかしら。でもあると便利なんだけど。お父様にはこの便利差が伝わってないのかしら?



私が心の中で少し焦っているとお父様が口を開いた。



「エリン」



「はい。お父様」



私は姿勢を正した。何だろう。何かいつもより声が低いきがする。



「これがどう言う物か理解しているのか?」



「はい。私が設計した物ですから。あるととても便利です」



「はぁぁ。エリンよ。これはただ作れば良いと言う物では無い。こんな物をただ作って世の中に出してしまったら大変な事になる。お前の身も危険になる」



「え?どうしてですか?あると便利だとは思いますけど」



「お前は頭は良いけど常識が無い。これを作ったのが7歳の女の子で、頭も良く容姿も優れている。将来性もある。するとどうなると思う?」



「あー。成る程です。でも私は外に出たことが無いので常識とかは何とも。えーっと、国とかが守ってくれないんですかね?お父様」



「まあ外の人達と触れる機会が無かったのは私の責任でもある。それでだ、国がダメと言って聞くなら犯罪なんて起きない。それに護衛を着けたとして、24時間、365日ずっと護衛と一緒に居たいのか?」



「それは嫌です。お父様。ではどうすれば良いんですか?せっかく描いた設計図なのに」



「まあこの設計図の完成度も問題だが今は良い。方法は2つある」



「はい」



「まず1つはこの設計図を国王陛下に献上する方法だ。名前を伏せて献上してもこれだけの発明を献上するなら文句は出まい。それにそれなりの報償金も出るはずだ。その代わりに国の許可がないと製作する事が出来なくなる」



「はい」



それは少し寂しいな。



「2つ目は新しく商会を作ってそこで製作する。代表は私の名前にして家族全員を商会に登録する。そして製作者の名前は偽名にして売上の一部と制作費を商会から製作者に支払う。そのお金はエリンの物だ。好きに使ったら良い。それにこれからもまた作るんだろ?だから偽名を使いなさい。それとエリンが成人してある程度自分の身を守れるようになったら商会の代表をエリンに変える」



「成る程。理解出来ました。では商会を立ち上げる方でお願いします。お父様。所で職人はどうするのですか?」



「最初は領主お抱えの職人として雇いいれる。まあ当てはある。そこは心配しなくても良い。信用出来る奴だ」



それから私はいつもどうりに鍛練と勉強の毎日に明け暮れた。ただ、脅威を少し実感したことで身の安全の為にも対策が必要と感じ始めた。



「色々と考えて準備しておこう」



そしてこっそり小道具の準備を始めた。


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