第3話

【名前】

エリン・フォン・オルレアン男爵令嬢


【年齢】

5歳


【所属】

ムスタール王国・オルレアン領・領主次女






おー。ちゃんと表示されてる。これは一体どんな仕組みなんだろう。ま、考えても分からない事はおいといて、文字の読み書きできるようになっといて良かったよ。早速もう1つの表示を見てみよう。





【種族】人間【祝福】1


【筋力】3【堅牢】2【俊敏】2【体力】4【魔力】2【器用】14【知力】34


【技能】体術1・算術42・速読9・真理1・魔力制御1・設計レシピ1・刻印1・雷魔術1




え?何このステータス?知力が高いのは多分前世の記憶のせいだ。農民の男性の平均が10位って言ってたけど、私のステータスは多分毎日特訓してるからだ。そして問題はスキル。



真理とかよく分からない物もあるけど、設計レシピや刻印や雷魔術は前世のゲームでエリンが所持していたスキルだ。まさか、本当に使える?良く分からない。でも使えたら嬉しい。



前世でやってたゲームとは全く異なる世界だけど、レベルみたいな概念の【祝福】がある。困難な事に挑むと成長する仕組み。ゲームの様な経験値とは違い、本当に経験することでレベル(祝福)が上がる仕組み。確か成長期は祝福が上がらない変わりに身体能力や技能が上がりやすいって言ってたっけ。



この体、歳の割にはスペック高いなとは思ってたけど、意識して行動する事で成長しやすいのかもしれない。



算術とか数値おかしいよね。最初は足し算するにも四苦八苦する体だったのに、今では前世よりも遥かに速く計算出来るようになったし。



この世界の事は良く分からない事ばかりだけど、努力が目に見えるってのは有難い。一部ゲームみたいな所がある世界だけど、かなり現実的な仕組みになってる気がする。



そう言えば、【祝福】は日頃の行いや努力を認められ、神様からの祝福により神の使徒へと至る唯一の道とか何とか言ってたっけ。まあ自分なりに考えて、いつか自分が納得出来る答えが出せれば良いよね。



それから先ずは特訓を朝にする事にした。この体は朝に弱い。だから目を覚ますついでに特訓する事にした。



腹筋と腕立て伏せと前に進む反復横飛びと足を前後に入れ替えるスクワットを30回。これだけでヘトヘトになる。ランニングより遥かに体力も使う。ホント辛い。でも頑張る。自分を守る為にも。何が起こるか分からないし、私可愛いし。男に襲われるとか考えたらホントに死にたくなる。マジで。割りと本気で。だから頑張る。頑張って強くなって返り討ちにしてやる。



そうやって気合いを入れて、休憩が終わったら目を閉じながら体を動かす訓練。



鏡の前で目を閉じたまま手を広げて水平にしたり、目を閉じたままその場で足踏みしたりする。



人間は自分が思ってるよりも自分の体を上手く動かせていないらしい。目を閉じたまま手を水平にしてるつもりでも、若干斜め上だったり、斜め下だったり、左右で角度が違かったりする。



目を閉じてその場で足踏みしているつもりでも、目を開けてみると立っていた場所からズレている。



こうして感覚のズレを意識して修正する事により最適化されて行く。何事も意識する事が大事。これは前世での経験。



そして次はゆっくりと体術の形をなぞる。鏡で動きを確認しながらゆっくりと。動かす筋肉を意識しながら拳を突き出して引く。歩幅と足の長さを確認しながら体の柔軟性を意識して体を捻って蹴りを放ち最高到達点で少し止めて戻す。



最後にストレッチをして、メイドに体を拭いて貰って朝の支度を済ませてご飯を食べる。食べ終わると勉強タイム。文字の読み書きは出来るけど、綺麗な文字が書きたいから頑張って練習中。可愛い子の字が汚いと少しショックじゃん?だから頑張る。



算術はまあ楽勝です。免除されました。有難い。



次は歴史と地理。歴史はまあ物語を聞いてるみたいで面白いけど胡散臭い。宗教の話が入り交じってて理解出来ません。



地理は自国の地域や領主の名前や特産物。他の国の簡単な成り立ちや特産物など。



それが終わると法律の勉強。近隣諸国の特徴的な法律も少し習う。



それが終わると礼儀作法。美しい所作。素敵です。可愛い私に相応しい授業です。頑張ります。



そしてお昼ご飯。相変わらず美味しくない。不味くは無いけど食べるのが面倒くさくなってくる。前世ではご飯食べるのが面倒くさいって女の人がいたけど、その時は信じられなかった。私にとっては唯一の楽しみだったから。でも今なら分かる。楽しくない。でも美しい所作は忘れない。何故なら私はパーフェクトビューティーになる。



それから軽く庭を散歩して隠れて技能の訓練。雷は静電気位の威力しか出ない。しかもよく失敗する。難しい。設計レシピは簡単な物の設計図や料理のレシピや薬のレシピが頭に浮かんでくる。それを地面に綺麗に書いて消す。思い浮かぶ設計図やレシピは少ない。まあ使ってればその内増えるさ。



多分。



図書室で本を読んでご飯を食べて夜の支度を済ませて就寝。寝る前には必ずステータスをチェックする。



ハードだぜ。お嬢様ってこんなに大変なんだね。



そんな忙しい日々の中6歳になったある日、私は食の改善に乗り出す事にした。レシピにあるのは前世の料理ばっかり。そしてこの領地では手に入らない食材ばっかり。そこで考えた。現地の料理を学べば現地の食材のレシピが思い浮かぶのではないかと。



思い立ったが吉日。そのまま厨房へ突撃。



「マーク。私に料理を教えて」



「お嬢様。また言葉使いが荒くなってますよ。それに料理は私達に任せて下さい」



「身内なんだから良いのよ。それより私に料理を作らせなさい。それが無理なら外で作ります。サーシャ。買ってきて欲しい物があるんだけど」



「分かりましたお嬢様。また悪い癖が出てますよ。最近は屋敷の中で皆話してますよ。お嬢様が突然思い付きで暴走しだすって」



「別に良いでしょ。普段は誰よりも頑張ってるんだから。やりたい事もさせないなんておかしいわよ。私は敷地の外にも出れないんだから」



「まあ当主様のお気持ちは分かりますよ。お嬢様は目立ち過ぎます。見た目が良すぎるんですよ。だから少しでも外に出すと心配で仕事も手に付かなくなるんですよ」



「それぐらいは分かってますよ。それでもお父様もお母様もお兄様もお姉様も心配し過ぎです。子供はいつか旅立つ物なんですよ」



「まあ言ってる事は間違ってないんですが、内容が違うと言いますか。お嬢様は今疲れていて正常な判断が出来ないんじゃないですか?少し休みましょう」



「疲れているから料理でストレス発散するのよ。取り敢えずパンの作り方教えて」



「分かりました。ではこちらをお使い下さい」



最近私はストレスで爆発してます。何故なら特訓と勉強でとても忙しいのに、何をしようとしても皆が止めて来るのです。買い物したいから外に行きたいのに外はダメ。もの作りをしたいのに危ないからダメ。剣術をしたくて木剣を使おうとしてもダメ。料理も危ないからダメ。ストレスで爆発しても仕方ないよね?



「お嬢様。これが小麦粉で、こっちが塩です。この容器に小麦粉を入れて塩を少し入れて水を少しずつ入れてかき混ぜます。ある程度粘りがでて来たらムラが無いように根気よくこねるんです。結構体力が必要ですよ」



「ねえ。ジャムってある?出来れば痛んでる物も全部持ってきて」



「え?ジャムなんて何に使うんですか?」



「良いから持ってきて。必ず全部持ってきなさい」



「分かりました。見習い。ジャムを全部持ってこい。痛んでるやつも全部だ」



「はあ。分かりました」



それから見習い君がジャムを運んで来てくれた。



「これで全部です」



「ありがとう」



目の前には瓶に入ったジャムが24本並んでいる。その中に2本だけ白く変色してる物があった。ラッキー。



「この2つ以外は戻して良いわよ」



「はあ。かしこまりました」



私が蓋を開けて味を確かめようとするとマークに止められた。



「お嬢様。味を見るなら私がします」



するとスプーンで少量すくって口に運んだ。



「どんな味?」



「何か腐ってるのとは違いますね。酸っぱくてお酒の味に似てますが、お酒では無いですね」



「そう。なら当たりね。もう1つも確認して」



「こっちも同じですね。お嬢様。これは一体」



「これは酵母と言って体に悪さをしない生き物なのよ。倉庫に閉まってた場所が良かったようね。これはパンに混ぜるとパンが柔らかくなるのよ」



それから前世のパンの発酵のさせ方を思い出しながら作ってみた。



「出来たわ。後は焼くだけね。焼くのは任せるわ。上手く焼けたら夕食に出して頂戴。酵母の増やし方は後で書いて渡すわね。あーすっきりした」



「凄いですね。こんなに膨らむとは。焼くのはお任せ下さい」



私はメイドに体に着いた小麦粉を拭いて貰い部屋に戻った。こねる時に思いっきり叩き付けたり、殴り付けたりしてスッキリした。良いストレス発散になったわ 。



すると新しいレシピが頭の中に浮かんで来た。



やっぱり。



技能レベルだけではなく、私がある程度経験する事も条件なんだ。予想はしてたけど。



これは尚更両親を説得して物作りをしなくては。それがこの領地の役にもたつんだから。



夕食では私が作ったパンを皆で食べた。皆「柔らかくて甘くて美味しい」って喜んでくれた。やっぱり美味しいご飯って大切ね。



その後マークにレシピを渡して就寝。今日は久しぶりにぐっすり寝れそう。とても良い気持ち。


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