魔法使いの憂鬱

第1話 新学期

 今日から新学期、春です。


 何もかもが新しく始まるのだけれど、私にとっては憂鬱なことが二つ。まず一つ目。最近親友のテリアがおかしい。あれだけ魔法を使いこなし魔力も大きかったはずなのに、全くと言っていいほど魔法が使えなくなってしまった。


 私と唯一互角に戦えるのはテリアぐらいだった。今ではもう魔法を放つこともできない。戦いにならないのだ。この魔法学校で魔法が使えないということは、もういつ退学になってもおかしくないということだ。あのテリアが魔法学校を卒業できないなんてありえない。


 ということで2年の最後トールとふたりで直談判に行った。初めは担任の先生、次に学年主任の先生、さらに教頭先生に校長先生。なんとか退学だけは免れたけれど、進級できるのだろうか。魔法を放てないということ以外は本当に学年トップだ。魔法の知識、放つ時の注意、出やすくなる時の詠唱の言い回しなど、あらゆることの知識は一番だ。


 でも魔法が出てこない。肝心の魔法が出てこないのだ。この魔法学校、学年が上がるごとに人数が減ってくる。というのは自分の限界を知るのだ。自分が扱える魔法はどこまでなのかを知り、それを超えられなかった場合進級できない。


 その場合留年してもう一度挑戦してもいいし、退学しても構わない。でもテリアは違う、魔力さえあれば魔法は出せるのだ。自分の中の魔力が足りないから発動できないだけだ。クラスメイトの魔力で魔法を出すことはできる。それによって使えなかった魔法が使えるようになったものもいる。


 今回、誰一人留年になるものがいないのだ。これはテリアのおかげだ。そのテリアだけ留年で、あとは進級などおかしいのだ。そんなことを考えながらトールと学校に向かって歩いていた。


「…リア、サリアったら!」 っとトールが話しかけている。考え事をしていたので聞こえていなかった。


「ごめんトール、なんだか気づかなかった。」


「サリアにしては考え事なんて珍しいね。」


「なに~、私が考え事しないと思ったの!」


「あまりないから変だなぁって思って。でもテリアのことでしょ。大丈夫、きっと大丈夫だよ。」


「そ、そうよね。あれだけ校長先生にお願いしたのだから、きっと進級させてくれるわよね。」


「お願い?強迫の間違えでしょ?」


「いじわるね~、トールは。」


「まあそれだけ力が入っちゃったってことだよね。」


「そういうこと。」


 そんなことを話しながら歩いているうちに学校に着いた。今年は桜の花の開花が遅いと言っていた。いつもは新学期始まる頃に咲いているのだけれど、まだちらほらと咲いたばかりである。


 トールと二人でクラス発表を見に行く。前には人だかりで見えない。


「トール、人で見えないよ。」


「はいはい、では見ちゃいますね~。」


 背の高いトールはそういうのは苦労しないみたい。


「どう?どうなの?」


「はい、また同じクラスだよ。」


「じゃあテリアはどう進級している?」


「今言った通り、同じクラスだよ。」


「よかったぁ、またテリアと同じクラスか。進級できてよかったなぁ。」


「ねっ、大丈夫って言ったでしょ。」


 トールの大丈夫は大抵当たって、安心できる。昔からなんか安定感あるのがトールだ。


 教室に入ると、テリアがいる。駆け寄り話しかける。


「テリア~、よかったまたおんなじクラスで。」


「サリアありがとう。」


「なになに?」


「私の進級のことでトールと色々やってくれたと聞いたわ。」


「何のこと?私たちはなにもしてないわよ。ねえトール。」


「そうだね、大したことは何もしていないよ。」


「そう、じゃあそういうことにしておくわね。今回はダメかと思ったけれど、しぶとく残ってみるものね。」


「何にせよよかった~。また色々教えてね~。」


 トールもああは言っていたけれど、実際テリアを前にして嬉しそう。何にせよよかった。動いた甲斐があった。


 そのあとの全校集会での校長先生の話ったら長いのよね。いいこと言っているんだろうけれど何一つ心に入ってこないです。


 この日は始業式なので、午後には終わりました。トールと帰ろうと声をかけた。


「トール、いっしょに帰ろう。」


「いや、今日は委員会だから先に帰っていて、新学期初めの委員会だから長くなるよ。先に帰っていて。」


「わかった。じゃあ先に帰るね。」


  テリアも他の委員会だったのでそちらの方に出るみたい。なんだか寂しいけれど一人で帰る。


 そのときもう一つの憂鬱なことを思い出した。この間ママから恋をすると魔法が使えなくなると言われた。テリアの魔法が使えなくなっているということは、テリアは誰かに恋をしているのでは?そう思った。


 でもテリアはそんなそぶりは一切見せない。恋をしたときの女の子のあの感情を外に出すことはない。むしろ何か押し込めて外に出さないようにしている感じだ。恋をしているようには全く見えない。


 家に帰りママが迎えてくれる。


「おかえり~。」


「ただいまぁ~。」


「今日進級発表でしょ。大丈夫だった?」


「何言ってんのママ、私だよ。大丈夫に決まってるじゃん。」


「へぇ~、テスト前に古代魔法の知識慌てて入れていたの誰だっけ?」


「あれは、ママの古代魔法の知識を生かそうと思って…。」


「そうだったんだ~。そうとは思えないぐらい必死だったけれどね。」


「え~、まあそういうこともあったかなぁ…。それでトールも親友のテリアも無事進級して同じクラスだたよ。」


「よかったわね~。」


「トールくんにはいつも助けられてばかりねぇ。これから先も助けてもらえるのかしら?」


「んっ、ん~、まあ、なるべく、頼らないようにするつもりだけれど、魔女になるのに必要だったら頼るよ。」


「何赤くなっているの?」


「なってないよ。」


「早く着替えてらっしゃい。」


「もぅ~。」


 ママはいつまでも子供扱いする。もう魔力も魔法も私の方が上なのになんだか上から目線が気に入らない。


 トールにメッセージ送ったけれど帰ってこない。委員会が忙しいのかな?

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