第2話 にぎやかな街
私は家にいたくなかったので、外に出る事にした。しかしお母様に見つかってしまった。
「テリアちゃん、今からどこへいくの?」
「お母様、実はサリアに誘われて、今日のハロウィンの祭りに行く事になったの。」
私は嘘をついた。
「そうなの?そんな事ぜんぜん言っていなかったじゃない。」
「私も昨日急に言われたのでどうしようか迷っていたのですが、サリアがどうしてもというので行く事にしたのです。」
「そぉ。じゃ遅くなる前に帰ってくるのよ。じいに送らせましょうか。」
「いえそれには及びません。途中で待ち合わせする事になっているので大丈夫です。もし何かあったら魔法でなんとかしますから。」
「そうね。テリアちゃんは魔法が使えるから大丈夫よね。じゃあ気をつけていってらっしゃい。」
「はい、お母様。いってきます。」
私は嘘をついてまでして外に出た。かといって行き先もない。まずは街に出てフラフラして、しばらくしたら帰ってこよう。あんまり心配かけるのもいいことではない。ただ、このごちゃごちゃした心を落ち着かせたいだけだった。
街はお祭りのせいでにぎやかだった。魔界のものもいるせいもあるのか、こんなに人がいるのかと思うぐらいにぎやかだった。そんな街の様子とは裏腹に自分の心は沈んでいた。つい思い浮かんでしまうトールのことを思うとますます沈んでいった。
魔法も恋も何一つ得ることはできずにいる自分をどうしていいかわからず、ただぶらぶらしていた。いろんな屋台が出ていた。食べ物だけではない、マッサージや魔法で探し物をするサービスなどもあった。私はただ呆然とそれをみながら歩いていた。そのとき、
「彼〜女、一緒に遊ばない。」
と数人の男の人に声をかけられた。私がびっくりしていると、いきなり腕を掴んで引っ張ろうとする。肩を組んで、
「あっちにいいところあるから行かない?」
などと言っている。どうしていいかわからず連れて行かれそうになったとき、
「こら、何やってんのあんたたち!か弱い女の子に何してんの!」
と威勢のいい声がした。
「やべ、グランマじゃねぇか! 逃げたほうがいいぞ。」
そういうと男たちは散り散りにいなくなった。
「大丈夫、あなた?何かされていない?」
「はい大丈夫です。ありがとうござます。」
私は胸がドキドキしながらもお礼を言った。
「ちょっと落ち着いたほうがいいわね。私はそこの屋台で占いをしているの。そこで少し休んで行きなさい。」
「ありがとうございます。何から何まですいません。」
そう言って、占いのテントで休ませてもらった。
「大丈夫、はいお水。なんだか元気ないみたいだけれど。」
「そうですか?ちょっと気分が優れないもので。」
「それだったら早く家に戻ったほうがいいわよ。お祭りなのにそんな暗い顔している人はなかなかいないわよ。」
「そうでしたか。」
苦笑いするのが精一杯だった。
「私ね占いやって長いの。でもね占いって絶対じゃないのよね。いい占いが出て何もしないと悪い道に行くし、悪い道に行ったとしても、幸せに暮らしていくこともできるのよね。あくまでも指標。それからどうするかは自分次第。だから辛いことがあっても心の持ちようよ。」
「そうなんですね。」
「そうよ〜、長く生きているといろんな人の人生見るわ。人の人生っていつもたくさんの分岐があって、それをどう選ぶかで決まっていくものなのよ。だからこうしてあなたと出会えたのも何かの縁ね。よろしくね。」
「ありがとうございます。」
今、優しさに触れたからだろうか涙が出てくる。
「あらあら、心が少し弱っているのね。泣きたい時は泣いてもいいのよ。」
なぜだろうしばらく涙が止まらなかった。しばらくすると涙もおさまった。
「大丈夫です。少し落ち着きました。」
「じゃあ少し占ってあげる。」
「すいません。今お金持っていないので、代金を支払うことできません。」
「いいわよ気にしないで。ではそこに座って。」
そういうとグランマと言われたその人は瞑想し始めた。何か気が集まってくるのが見える。そんなにたくさんの魔力ではないのだが、とてもしっかりとした魔力を感じる。そこでぼそっと、
「月蝕の魔女」
とだけ言った。私が、
「それは一体どういうことでしょうか?」
と尋ねると、あなたが将来「月蝕の魔女」と呼ばれているところが見えたわ。あなた魔女見習いでしょ、良かったじゃない将来魔女になれるわよ。」
そんなことはない、もう今にも魔力が尽きようとしているのに魔女になれるわけがない。きっとこのお婆さんの占いは当たらないんだ、と思った。
「ありがとうございます。よくわからないのだけれど何かの暗示かもしれませんね。そのときが来たら思い出すようにします。」
「ごめんね。あまり私の占い役に立たなそうね。」
帰ろうとテントから出ると向こうのほうからトールがやってくるのが見える。少し喜んだが、隣にはサリアがいた。仲のいい二人の姿を見て、二人には会いたくないと思った。早々に占いのおばあさんにお礼を言ってその場を離れた。
するとそこにじいがやってきて、
「お嬢様、こちらにいらしたのですか。お迎えに参りました。」
といった。
とにかくそこから離れたかったので、
「ありがとう、すぐ帰るわ。」
と言って車に乗り込んだ。たぶん私がいたことは気付いてないと思う。トールの顔を見られたのは嬉しかったけれど、今サリアには会いたくない。ただそれだけだった。今日は満月、月は満ちているけれど、私の心は空っぽだった。
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