第8話 かからない魔法

 日に日に魔法が使えなくなってきた。かからない魔法が増えた。このことを誰にも相談できない。

どうしよう。もうこれはトールのことは好きではないと思うようにした。サリアをのことを好きなトールなど好きではないと思うようにした。


 でもかえって逆効果だった。言葉に出して言えば言うほど、心は意識してしまうのだろう。魔法はどんどん弱くなっていった。でもどちらも諦めたくない。魔法は小さい頃からの夢。家のためにも自分自身のためにも諦めるわけにはいかない。


トールのことは忘れようとしても忘れられない。まだ二人は付き合っていないのだから、トールのことを思うのは悪いことではないよね。と心に言い聞かせた。


 絶対魔法も恋もうまくいく世界があるはずと思い今まで以上に勉強に力を入れることにした。しかし何だか気が散ってしまう。この魔法の勉強も、魔法が掛からなければ意味がない。何のための勉強になるのだろう。疑問にも思うが、もう何もしなくてじっとしていることなどできなかった。



「テリアちゃん、ちょっといいかしら。」


「ごめんなさい、お母様。明日の魔法の試験の対策をしなくてはいけないのですが、急用でしょうか。」


「いや急用というほどではないのだけれど、何だか最近顔が険しいなって思って。」


「ごめんなさい、お母様。少し試験のことで頭がいっぱいなのです。終われば元に戻りますよ。」


「そう?それならばいいのだけれど。」


 最近お母様が話しかけてくる。私としては放っておいて欲しいのだけれど、そんなに厳しい顔しているのかな。私も試験が終わったら元どおりに魔法が使えたらどんなにいいだろう。このまま魔法が使えなくなったらどうすればいいのだろうか。お母様やお父様に何と言えばいいのだろうか。


 心がトールで満たされている。もうこれはどかしようがない。どうしても動かせなかった。それにもまして魔法がなくなるという不安で心が埋め尽くされてきた。いちばん辛いことは、誰にも話せないことだ。今まで自分一人で決めてきたというのもあるが、誰にも話していないしできはしない。


 心が言葉で埋め尽くされるなんてことあるのだろうかと思っていたけれど、今はそれがよくわかる。胸の内側からあふれる言葉が自分の胸を傷つけていく。少しでも外に出せれば楽にはなるのだろうけれどそれはできない。ただただ暴れる胸の奥の痛みが治るのを待つしかないのだ。待つしか。


 下弦の月が昇る真夜中にそんなことを考えていた。

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