第5話 日曜日

 日曜日の朝、私はバタバタしていた。メイドに着ていく服を選んでもらっていたけれど、何だか気に入らない。王立図書館に行くのだ。きちんとした格好しなくてはいけない。しかもきちんとしたトールに見合う服装にしないとトールが恥をかく。あまりにラフ過ぎでも良くないと思ったからだ。バタバタしているとお母様が


「何を朝からバタバタしているの?」


「今日着ていく服が決まらないの。」


「図書館に行くのでしょ。何を悩むのですか?」


「だって、初めての王立図書館で間違いがあってはいけないから。」


「大丈夫よ。紹介で入れるところは手前だけだから、そこまできちんとした格好じゃなくて平気よ。」


「そうなの?」


「テリアちゃんの私服ならそのままで大丈夫よ。」


「ほんとう?だって憧れの王立図書館よ。気合が入るじゃない。」


「それだけ?」


「それだけだけど、何かある?」


「何だかトールくんとデートみたいだなって思って。」


「何言ってんの、そんなんじゃない。勉強しに行くんだって。」


「はいはい、じゃあこの服でいいかな。」


とお母様が選んでくれた。


 その服を着て待ち合わせの図書館前に来た。5分前に着いたのに、もうトールは来ていた。遠くから見ているとモデルのようなトール。街ゆく女の子たちはみなトールのことを見ている。


「ごめ~ん、待たしちゃった?」


「大丈夫。僕も今来たところだから。それにしてもテリアいつもと雰囲気違うね。制服でしか会ってなかったから、誰かと思ったよ。」


「そう言うトールだって、すれ違う女の子みんな見ていたよ。」


「そう?全然気づかなかった。でもテリアだって今日は雰囲気違ってかわいいよ。」


どきっとした。「かわいい」なんて言われたことない。ちょっと顔が赤くなってしまったけれど、トールに気づかれたろうか。


その後サリアママからの紹介状を見せて図書館の中に入った。許されたところを指示されて中に入る。まるで中世の教会の回廊を歩いているようだ。吹き抜けの上の方まで全て本で埋め尽くされている。背の高い本棚に新しい本も古い本もたくさんあった。


 目的の魔法辞典を探す。ふたりで探したけれど、トールが見つけてくれた。さっそく見てみることにした。


「やっぱり土魔法でいいみたいよ。」


「でもこれ、光の魔法を足すと、別の魔法になるみたいよ?」


「でも光の魔女しか扱えないんじゃ無理じゃん。」


「星の魔女なら初めから使えるみたい。」


その本をめくっていくと、”星落としの魔法”のページがあった。


「トール、”星落としの魔法”だって。」


「ちゃんとあったんだね。でもこれって…、」


「ワガママ魔法使い!」


二人はハモってしまった。ふたりで笑ってしまった。


「そうよね。あの絵本の魔女が唱えたのが”星落としの魔法”なんじゃない。」


「きっとそうだね。ちゃんとあったんだ。」


でもこのページだけ白い。


「このページ、何も書いてないの変じゃない?」


「たぶん、誰もその呪文を知らないんだよ。サリアんとこのおばちゃんなら知っているかもしれないけれど。」


「あまり使いたくない魔法ね。星落としに失敗すると国がなくなるみたいだわ。」


「それは嫌だな。」


 魔法のことを話しながらふたりで意見を交わすのは楽しかった。まだわからない古代魔法についての本もたくさんあるので、他にもいろいろ調べるのは楽しかった。あっという間に退館時間になってしまった。まだまだ調べたいことはたくさんあるのに。


 外に出たときにはすっかり日が暮れていて真っ暗だった。三日月が見えていた。トールが送ってくれると言うので、車を呼ぶのをやめた。何となくこの時間が終わるのが惜しかったからだ。


「トール今日はありがとう。」


「いえいえ、僕も楽しかったよ。」


「王立図書館があんなに本があるとは思わなかった。特に古代魔法についての本。」


「もう出回ってないものが多いからね。」


「できれば古代文字で読めたらいいのになぁ。」


「テリア、またいっしょに図書館行こうよ。期限まで通わないかい?」


「えっ、いいの?」


私は迷った。何だかサリアに内緒で会っているみたいで。


「いいよいいよ。僕も楽しかったし。」


「今度はサリアも誘った方がいいかな?」


何となく気が引けたのでそう彼に言ってみた。


「サリアね~。たぶん来ないと思うよ。魔法の勉強嫌いだからね。」


彼がそう言うならいいか。仕方ないよねと心に思いながらいっしょに帰っていった。


さっきまであった三日月はもう沈んでいた。

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