第2話 観察
もともとサリアはあんまり勉強する方じゃない。というか一切しない。それでも魔法の力は絶大で、他の生徒では勝てたものはいない。彼女との魔法対戦で勝てたことは1度だけしかない。それもたぶんサリアが手を抜いた。他のものは騙せても私の目はごまかせない。
それで私の順位が上がりサリアと互角に戦えるのは私だけということになったけれど、確実に魔力では勝てない。そんな偽りの順位などいらない。私のプライドが許さない。悔しかった。親友だけれどいつまでたっても勝てないライバル。もう弱点をつくしかない。だからサリアを観察した。今でもサリアの魔法に勝てるとは思っていないけれど、何だかその力が弱くなっているようだった。
今まで圧勝していたものも少し苦戦するようになった気がする。あくまでも気がするぐらいなので、微かな違いかもしれないけれど、でも弱くなっている。観察だけではわからないので、サリアの幼なじみのトールに聞いてみよう。休み時間に、
「トール、ちょっと話したいことがあるんだけれど時間ある?」
と聞いてみた。
「ごめん今はちょっと忙しくて時間ないなぁ。」
困った、これではサリアのことが聞き出せない。ならば、
「じゃあ帰り一緒に帰りません?帰る方向途中まで一緒でしょ。」
と言ってみる。
「いつも車だけれどいいの?」
「たまには歩いて帰るのも悪くないわ。」
ということで帰り一緒に帰ることにした。
放課後サリアは先生に呼ばれているので遅くなる。今日トールはひとりで帰るのでちょうどいい。このトール、けっこうモテるみたいで、後輩から告白されている。それをかたっぱしから断っているから、誰か好きな人がいるのではと思われている。まあ、誰が好きかは想像はついていますけれど。
放課後、サリアが呼び出されてからトールに話しかけてみる。
「トールいっしょに帰りましょう。」
「わかった行こう。」
学校の中を二人で歩いた。何だかやけにみんな見てくるなと思ったけれど私たちは気にせずいっしょに帰ることにした。校門を出てしばらくしたあとトールが、
「話しって何?」
と聞いてきた。
「サリアのことなんだけれど…、」
と私がいうと急にこっちを見て、
「サリアがどうしたって!」
と声を高くあげて答えた。私がその声に驚いたので、
「ごめんごめん、小さい声で話すね。」
と言ってきた。そして私は話し出す。
「最近サリアの魔法がちょっと弱くなっていると思うんだけれど、トールはどう思う?」
「ほんと?」
「うん、もともとの才能で他の人にはわらかないけれど、私は魔力が落ちてると思うの。何か心当たりがある?」
こう聞くとトールが考えだし、
「特に思いつかないなぁ。いつも通りだと思うよ。」
男の子ではわからないのかな。
「最近なんか変わったことない?ちょっと元気がないとか。いつもと違うとか。」
う~んと上向いて考えているトール。
「そうだ、最近なんだかちょっとずれてる。」
「ずれているってどういうこと?」
「何だか家に迎えに行っても、支度が終わってなかったり、」
「たり…?」
「とっても眠そうにしていたり、ちょっと身だしなみがきちんとしていなかったりかな…。」
私は確信した。やはりだ魔法が弱まっている。サリアが身だしなみを整えるのはおそらく魔法。あれだけ毎日きちんとやるのは一苦労なので、きっと魔法でやっているはず。学校ではきちんとしているので気づかなかったけれど、きっと登校途中とかで少しずつ整えているのね。家を出ているところから見ているトールならではね。さすが幼なじみ。私は続けた。
「たぶんサリアは魔法に頼らないようにしているんじゃないかな?サリアのおばさまも自分でできる方がいいって言っていたから。」
「そうなんだ。僕はサリアが具合悪くなっていないか心配だったんだけれど、違うんだね。」
「違うわよ。あのサリアよ。元気ないときでも体はピンピンしているじゃない。でも本当に体悪い時があるかもしれないから、よく見てあげてね。」
「わかったよ。そのときはまた相談する。」
そう言ってトールとは別れた。
このとき私は、サリアの秘密を手に入れたと思いほくそ笑んでいたに違いない。サリアが恋に落ちている。きっとそうだと思った。では相手は誰だろう?
その疑問は簡単に答えが見つかった。トールに違いない。
サリアといつもいっしょにいて、行きも帰りもいっしょ。あれで付き合っていないっていう方がおかしい。お互いの後輩が付き合っている人いるんですか?と聞いても否定している。不思議な話だ。
でも今回はこれを利用させてもらおう。超人的な力ではなく、サリアが普通の人と同じぐらいに魔力が下がったときに、私と魔法勝負して勝ちたい。魔法の技能では私の方が上だと思っている。そこで私のプライドを取り戻したい。あんな力技で魔法を放たれたら、誰も勝てないわよ。
サリアに勝てるのではないかと思えてきた。
今日は満月の夜。魔力が月のように満ちてきた。
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