第5話 夜中

 寝床に入ってからふと考えてしまった。今日告白されたところを見たからだろうか?寝付けない。

よく見るとトールは優しくてかっこいい。たまにキャーキャー言われているところを見るけれど、「どこが!」と思っていた。うとうとしながら、半分夢見ているとトールが違う女の子に告白されている。


「それは嫌!」


とつい叫び飛び起きてしまった。夢にまで告白シーン出てくるってどういうこと?なんだか頭の中が整理できない。


 それから何日経っても心の中は変わらない。もうダメだ、何だか心がトールで埋め尽くされる。考えないようにしてもつい頭の中に出てくる。


「何なんだ。これが恋というものなのか。」


そうつぶやいてみたけれど、どうにも落ち着かない。


 次の日の朝、やっぱり魔法が弱くなっている。

授業中、何気なくトールを目で追っている。

トールと話していると楽しい。

トールが女の子からの告白を断っているのを見て安心した。

もし自分が告白して、トールから拒絶されるのはとてつもない恐怖。


 その夜、ひとり自分の部屋で考えてしまう。


「ダメだこれもう恋に落ちてしまっている...。」


頭ではトールのこと好きではないといっているけれど、心はトールのことが好きって言っている。

もう否定できない。


「私はトールのことが好き。」


口に出したけれど迷いはなかった。恥ずかしくもなかった。本当に心から思った言葉だからだろうか。でももし恋に落ちてしまうと、魔女への道が途絶えてしまう。どうしたらいいんだろう。


 そういえばママは魔女だ。でも今はほとんど使えない。やっぱり愛を知りパパと結婚したせいで魔法が使えなくなった。そして私が生まれた。


おばあちゃんのグランマもそうなのかな。おじいちゃんはずいぶん前に亡くなったと聞いているけれど、ママがいるんだから当然恋に落ちて結婚したということだよね。魔法は弱くなったけれど魔女だよね。


 ということは恋に落ちて愛を知っても魔女でいられるんじゃないか。でも普通の魔女よりも魔力は断然弱い。やっぱり愛を知ると魔法が使えなくなるんだ。でもママはなぜ少しの魔法でも使えるんだろう。疑問だらけだ。


いろいろママには聞きたいこともあるけれど相談できないし、もちろんトールにも相談できない。テリアにしてみようかな。いろいろ心まモヤモヤしている。いつもいっしょにいるトールが遠い。


この道を決める時が来るのだろうけれど、今はどちらも選べない。


「助けてトール…。」


とつぶやいた言葉は、新月の夜に消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る