Darkcyan:初対面
「ここか?」
「そうなの。すみませ〜〜〜んっ」
エレベーターが開くと、すぐに店内へ続く入り口があって、数段下に降りる階段が続いている。まだ改装途中なのだろう。間接照明はついていなかったけど、海・深海をイメージしたような落ち着きのあるハイラグジュアリー感のある作りだってすぐにわかった。
俺たちの
ここに、
ふと入り口に、赤い傘が置いてあるのが見えた。
「京香さん?」
旦那の店なのだから、京香さんが来ていたとしても不思議ではないが…。
「怖い顔してどうしたの? この傘がどうかした?」
「どうしました?」
店の奥から、いかにも内勤の偉い人っぽい男が俺たちを出迎えた。その男は俺を見て、メガネの奥の細い目をさらに細くした。くそっ。こうゆう時は真剣な顔をするべきだ。俺は咄嗟にスイッチをONにした。
「あぁ〜これはこれは、
メガネの男は、俺たちを奥に案内する。なんだかねちっこい男だ。
「邪魔をして申し訳ない。彼女が、スマホを忘れたと言うんで取りに来ただけなんです」
「あぁ〜先ほどの。途中でいなくなったものだからどうしたのかと思っていたんですよ。でもよくあることです」
とりあえず奥に、といいメガネ男は中に入っていく。
「ありがとうございま〜すっ」
「あ、おい」
店の奥はさらに豪華だった。
「あれ? トイレはあちら側だったかと思いますが?」
店の奥には、面接官らしき男と女が座っていた。その男の方が
「あ、すみません。道に迷っちゃって」
道に迷うわけないだろ!? もっとマシな嘘をつけ! この時俺はそう思ってた。
「そうでしたか。ま、座ってください。おや? 彼氏でも連れてきたのかな?」
その男の声で、入り口にいる俺に店内全員の目が注がれた。
男の横にいる女性と目が合う。
まさか…。
不思議なことじゃない。旦那が経営する店の面接に同席することだってあるだろう。ただ俺は、勝手に京香さんは森下グループのホワイトカラーの企業に勤めてるんだとばかり思っていたから、相当びっくりしてたんだと思う。
「そうなんです! 申し訳ないんですけど〜、彼とも相談して、今回は辞退させていただきたくて」
おいおい、俺はさっき会ったばかりだし、彼氏でもなんでもない!
京香さんの目が微かに見開いた気がした。驚いた時の表情だ。
「こいつがスマホを…忘れたらしくて。取りに来たんです」
「そうなんです」
「辞退ね〜。ま、いいけど。ちゃんと挨拶するのが礼儀ですよね? そこ座って」
「は、はい」
有無を言わさない男の迫力に押されて、俺たちは男と京香さんが並ぶ向かい側に座らされることになった。京香さんは履歴書に目を通すふりをして、俺を見ることはなかった。
わかった。そうゆうことだ。俺たちはここでは店のスタッフとオーナー家族、ただの顔馴染み程度の関係、それで通す。
「坂下
「は、はい」
「君はなんで、逃げたわけ?」
「えっ?」
男の声は心地よい声だった。でも圧がすごい。ビリビリと肌に刺すような緊張感が、男の声には含まれていた。
見た目は翔さんのように落ち着いた大人の男って感じだ。きっと昔はやんちゃして女を泣かせてきたタイプだろう。頭がいい、世渡り上手な感じがする男だった。
自分に強度な自信があり、人を下に見るタイプ。俺の親父にどこか似ていた。
「道に迷ったって言ってるんだから、そうなんじゃないんでしょうか?」
しまった、つい親父を思い出してムカついた口調で話してしまった。笑顔でこれはやばい。
「うん? 君は…どこかで会ったことがあるな?」
「そ、そうですか?」
「確か…。そうだ、
俺は驚いた。俺の名前を知ってるって、誰だこいつ?
「頑張って稼いでくれよ。俺も京香も君に期待してるんだ」
男が手を差し出すから、俺も握手を交わす。繋いだ手の力はすごかった。握力いったい…どんだけあんだよ。
「
「ちょっと、おじさん。私が誰と付き合おうと関係ないでしょ? 私この店で働く気持ちなんてこれっぽちもないんだから」
「おい」
俺は 興奮気味の
「
京香さんの冷たい声が店内に響いた。まじ怒ってる。
「それと、
「あ…」
完全に俺のこと怒ってる?
「オーナー、今日のところはこれで。 真島さん? 二人にタクシーを」
「承知いたしました」
オーナーと呼ばれた男は、京香さんの旦那だ。俺は初めて顔を見た。若い頃はもっとカッコよくモテていただろう。
そして俺は不謹慎にもこの二人が抱き合っている姿を想像してしまった。
すごく絵になる光景だった。
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