第31話 後編14 弘子⑥

「姉ちゃん、今まで本当にありがとう。それで……俺……。敦ちゃんと一緒に行くよ」


 なんとなくそうなるんじゃないかと思っていた。

 いや、私自身、むしろそうなるように行動していたかもしれない。


 ずっと手のかかる弟だった。両親が事故死した時に、最初に考えたのは、弟の事だった。

 この子を立派にするまでは、結婚できないなと、当時中学生の私は思ったものだ。


「信太朗。行っておいで。あっちで本当にやりたい事、できたんだろ?」


 やはり弟と二度と会えないというのは寂しいものだ。


「姉ちゃん。姉ちゃんも一緒に来てくれると、俺たちすごくうれしいんだけど」


 鼻の奥がツーンとする。やばい。


「私に敦ちゃんの時代でできる事はないよ。私の事は気にしないで。扶養家族がいなくなって、気兼ねなく研究に打ち込めるってもんだよ」


 それだけ言うのが精いっぱいだった。


「弘子お姉さま。今まで、本当にありがとうございました」


 敦ちゃんが頭を下げる。

 本当に可愛い子だ。自慢の嫁だよ。


 隣にいた蛭尾所長が声をかける。


「3人とも、わかってるよね。タイムマシンの起動は構造上今回で最後。もう戻ってこられないんだ。もう二度と。それでもいいのかい?」


 二人がうなずく。


「所長、若い二人の旅路ってやつですよ。私らがなんか言うのは野暮ってやつですよ」


「弘子君、君は……」


 それから私たちは黙々と荷物を詰め込んだ。


 敦ちゃんが運転席に、信太朗が助手席に乗り込む。


「二人とも頑張ってね。精いっぱい生きるんだよ」


「姉ちゃん、行ってきます。蛭尾教授、姉ちゃんをよろしくお願いします」

「お二人ともありがとうございました。さようなら。またいつか……」


 瞬間、青白い光が周りを包んだ。

 タイムマシンは無事発動して、目の前から消えた。

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