第27話 後編10 信太朗⑬
「いやあ、あの時の信太朗殿の戦いは見事でした。」
熊谷小次郎直家がそう言ってくれる。相変わらずいいやつだ。
なんかすごくこそばゆい。
俺は、熊谷郷近くの盗賊との戦いで、スコップを横にして戦い、3人の賊を気絶させた。
俺の近接用武器の、軍用スコップは、アンダーソン少佐が選んでくれた。
「シンタロー。お前の性格では、刃物を振り下ろせまい。しかしこのスコップなら、相手を殺さずにノックダウンできる。スコップを横にした広い面を相手にたたきつければな。」
しかし、いつかはスコップを縦にして戦わなくてはいけないかもしれない。
「へえ、信太朗はそんなに強いのか?」
那須与一が意外そうな顔で言う。
「そうだな俺の家で手合わせした時は、棒で戦ったからな。信太朗、今度はその、ぐんようすこっぷを使って俺と戦おうぜ。」
曽我十郎は戦いたくて仕方ないようだ。ここまでの道中、敵らしい敵に出会わなかったからな。
「兄上、信太朗お兄様は今日元の世界に帰るのです。そんな時間はありません。」
曽我五郎こと、とらちゃんは、少し寂しそうに言った。
俺ととらちゃんは道中仲良くなり、いつの間には俺のことをお兄様と呼ぶようになった。
そう呼ばれるたび、敦ちゃんの眼が紅く光るように見えたのは俺の気にしすぎか。
「それでは一同。今宵、敦盛殿と信太朗が一度元の世界に戻る。我々は明日出立し、阿波勝浦へ移動潜伏する。」
熊谷次郎直実が皆をよくまとめてくれる。
「2月19日に源九郎義経公が海を渡ってくる。我らはそれを波際で待ち受け、討つ!」
皆が緊張感に包まれる。
「敦盛殿が戻られるのは20日後で間違いないな信太朗!」
「はい。それまで直実様は、この青葉の笛を肌身離さずお持ちください。」
俺は、この熊谷直実という人と作戦などを話し合ううちに、この人の人柄に惹かれて言った。
この人の元で働きたいという気持ちさえ芽生えた。
敦ちゃんがこの数か月学んだ農学の知識。彼女はそれをこの時代に役立てたいという。
俺もそれを手伝えられたら……。
「なあ、信太朗はもう戻ってこないのか?こっちで一緒にくらそうぜ。」
与一が言う。
俺は、何と答えていいかわからなくなった。
熊谷家のみなさんはみんか良い人だし、旅の仲間とも別れたくない。
しかし、元の世界にも大学のことや将来のこともあるし、なにより、姉ちゃんをひとり残していくわけにはいかない。
「信太朗様は、あちらの世界の生活があるのです。」
俺の代わりに敦ちゃんがぴしゃりと答える。
「……。」
このことは敦ちゃんとも話し合った。
結論、それぞれ元の時代に戻り暮すのが一番良いということになった。
「それではもうすぐ約束の時刻です。」
小次郎直家が言った。
すこし気まずい雰囲気で、俺たちは屋敷の外に出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます