第26話 後編09 信太朗⑫

「で、その少数精鋭の輩ってのが、俺たちってえわけか。」




「兄上、これは思った以上に需要な任務ですよ。」




「それでは俺たちはこれから熊谷郷に行き、合流して義経公を討ちに行くのか?」




「与一殿。与一殿には前にも何度も説明したでしょう!」




「そう怒るな。それに『与一』でいいってば。話しがすんだら、さあ曽我十郎。手合わせと行こうぜ!何にする?剣か、棒術か?弓はやめとこうか、おれが絶対勝っちゃうからな、はっはっはっ!」




「何言っていやがる。それじゃあその弓で勝負だ、那須与一!」




「私も混ぜてください兄上!」




 3人はもう庭に出て弓勝負の準備をしている。


 こいつら大丈夫か、と思いながらも、俺は頼もしさを感じた。


 隣を見ると、敦ちゃんが何かソワソワしている。




「信太郎さま……。」




 何かをねだるような顔つき。可愛いけど、何だろう?




 ああ!そうか!




「いいよ。参加しておいで敦ちゃん。」




 敦ちゃんは嬉しそうに笑うと与一たちの方へ走っていった。




「おーい。私も参加するぞ~!」




 曽我荘で突如行われた武芸大会。


 参加者は以下のメンバー。




①弓の達人、那須与一宗隆。下野国那須神田城出身、16歳、男性。




②相模の怪童、曾我十郎祐成。相模国曽我荘出身、14歳、男性。




③天才少女、曾我五郎時致。別名とら。相模国曽我荘出身、12歳、女性。




④平家の貴公子、平朝臣敦盛。別名敦ちゃん。山城国京都出身、16歳、女性。




⑤大学生、信太朗。東京都出身。




「え?俺も出るの?」




「そうですよ、信太朗様も修行の成果をみんなに見せてあげてください。」




 見せてあげてくださいて言っても、俺のはちょっとインチキ入っているからな……。


 まあいいや、いい機会だ。これから仲間になるんだから披露しておこう。


 俺はリュックサックからクロスボウを取り出し、スコープを取り付けた。




「なんだ、信太朗その弓は?俺もいろんな弓を見てきたが、そんなの見たことがないぞ。」




  与一が反応する。




「私は書物で見たことがあります。石弓ですね。それ。」




 とらは、物知りだ。




「さすがわが妹。何でも知ってやがんな。賢いし可愛いし最高だな。」




  十郎はちょっとうるさいな。






  第一回戦は弓術だ。


  30メートル程離れた板の的に、10発づつ射る。


 的に当たった回数で勝負。




「ちっ、少し外しちまったぜ。」




 十郎は10発射って的中8だった。




「うう。兄上に負けてしまいました~。」




 とらは的中7。


 悔しがり方が可愛い。




「まあこんなもんですかね。」




 敦ちゃんは的中9。


 嬉しそうだ。




「南無八幡大菩薩、我が国の神明、日光の権現、宇都宮、那須の湯泉大明神、 願はくは、あの扇の真ん中射させてたばせたまへ。」




 与一は全発的中。さすがだ。


 しかし、射るたびに「南無八幡……」とやるから、少しイライラした。




「さあ、最後は信太朗様の番です。」




  俺は立ち上がり、クロスボウを構える。




 アンダーソン少佐の言葉が頭をよぎる。




「シンタロー。味方や敵に舐められないためには、最初にガツンとかましてやるのが肝心だ!」




 スコープで的を合わせる。クロスボウの引き金を引く。




 放った矢は、初速300FTS(秒速90メートル)で飛ぶ、的の板には惜しくも当たらなかった。


 しかし矢は勢いそのまま、数メートル先の土壁まで飛び、壁に深く突き刺さった。




 既に威力を知っている敦ちゃん以外の面々が、驚きで目を見開いている。




「兄上……。あれは石弓……ではなさそうですね。」




 第二回戦は剣術だ。




 俺の提案で、棒を使っての勝負となった。




 勝ち抜きトーナメントのくじ引きの結果、俺は十郎とあたった。




「信太朗様、ファイト!」




「ふぁいとって何ですか敦盛様。」




「がんばれってことよ、とらちゃん。」




「へえ。兄上!ふぁいと~!信太朗さんもふぁいと~!」




 いつのまにか敦ちゃんと、曾我五郎時致とらは仲良くなっている。




 試合は、始まって早々、俺は十郎の棒で、しこたま頭を叩かれ敗退した。




 メガネを外しておいてよかった。


 あんな早いのよけられないって。




 なんだかんだで、トーナメント決勝戦は、十郎ととらの兄妹対決となった。




 ふたりが相対し構える。




 十郎の方が、とらより20センチほど上背があり、普通に考えると十郎の圧勝なのだが……。




「はじめ!」




 与一が号令をかける。




 次の瞬間、十郎は脛をかかえ、地面を転がっていた。




 とらの勝利だ。




「見えた?敦ちゃん。」




「いえ、見えませんでした、早すぎます。私との対決の時も、一瞬でした。」




 俺も全く見えなかった。


 十郎もだが、この兄妹の腕はえげつない。




「やったー!わたしの勝ちだ~!」




「いやあ、相変わらずとらは強いな~。」




 十郎は負けたのになんか嬉しそうだ。




 ちなみに与一は、俺を負かした十郎と戦い、接戦の末敗北している。




「では日も暮れたし、そろそろ夕餉にしようぜ。明日からは熊谷郷に向かい当分旅の空の下だから、腹いっぱい食ってくれよ。」




 十郎が俺たちを邸内に案内した。




 それにしても頼もしい仲間たちができた。




 与一の弓と。曽我兄弟の剣術。




 それに俺の近代兵器と、熊谷家の武力が加わって、源義経を討つ。




 あの日話した蛭尾教授の作戦が現実味を帯びてきた。


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