第12話 前編10 弘子④
2か月が過ぎた。
今日は父母の命日だ。
二人はあの日、交通事故で突如命を落としてしまった。
「そして、今年がその十三回忌というわけなんだよ」
「お辛かったですね。弘子お姉さま、信太朗様」
「まあ昔の話だしね」
敦ちゃんも信太朗も、喪服を着ている。
敦ちゃんは、例によって私のお下がりだ。
私は敦ちゃんを連れて叔父と叔母に挨拶した。
叔父は私の父の兄だ。
うちの家はそこそこ由緒ある家系の分家らしく、叔父が跡をついているそうだ。
敦ちゃんのことは、私の友人が手伝いに来てくれたということにして紹介した。
会場は以前と同じく、近くのお寺で行った。
参列者も七回忌のときより少なく、お坊さん含めて12人、女性は私と敦ちゃんと叔母の3人だ。
私と叔母、そして敦ちゃんは、台所で配膳の準備をしている。
「敦ちゃん悪いね、いろいろ手伝わせちゃって」
「いえ、私は居候の身なので、こういう時に働かせてもらって、とてもうれしいです」
本当にいい子だな。このまま信太朗の嫁にきてくんないかな。
私が家を空けて、信太朗と敦ちゃんを二人きりにさせているのには、私自身が多忙だからだが、二人がそうなって欲しいという密かな希望もあるのだ。
その時は戸籍とかどうしようか?蛭尾所長に相談してみようか?あの人は裏の社会ともネットワークありそうだし。
そんなことを考えているうちに会場の部屋からお香の香りが流れてきた。
いつもお世話になっているお寺の住職さんは、お香が趣味で、葬儀中3種類くらい順番に焚く。
法事のたびに聞かされるので、私も詳しくなっていた。
これは3種類目、白檀びゃくだんのお香だなと思っていると、後ろ皿の割れる音がした。
振り向くと、敦ちゃんがしゃがみこんでいた。
「敦ちゃんどうしたの。具合悪いの?」
返事がない。彼女の額は汗ばみ、眼は固く閉じている。
「叔母さんごめん。私この子奥で休ませる。式は任せちゃっていい?あと信太朗呼んできて下さい」
叔母は了解してくれた。式はほとんど終わっているから大丈夫だよと言ってくれた。
お寺の台所に飛んできた信太朗と一緒に、敦ちゃんを隣の空いている部屋まで運んだ。
布団にねかせ、タオルで顔の汗をぬぐうと、ようやく敦盛の息が落ち着いてきた。
「とりあえず様子を見よう。もうちょっと様子をみて意識が戻らなかったら……救急車を呼ぼう」
なんで急に倒れたんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます