第5話 前編03 信太朗②
僕と姉ちゃんは医者に改めて挨拶する。
この病院は、姉ちゃんの大学とその上司が関連した病院だ。
姉ちゃんに電話で指示されてこの病院へ運んだのだ。
場所も一番近かったし、大きな総合病院だから、安心だろう。
医者は彼女の状態を説明した。
命に別状はなく、脳波も正常。もうすぐ意識を取り戻すだろう、とのこと。
良かった。
僕は心からほっとした。
医者に許可をとり、病室にはいった。
点滴につながれた女の子……女武者は、まだ目をつむっている。
着ていた装束は病院服に着替えさせられ、静かな寝息をたてている。
年は僕より少し年下だろうか。端正な顔立ち。
アイドルの、なんとか坂のなんとかというのに似ている気がした。
可愛い。
僕と姉ちゃんは、病室の椅子に座る。
今日会ったことを説明する。
「うん、なるほど、お前の説明からすると、彼女はこの時代の人間ではなく、お前がその過去から連れてきてしまったんだな。」
僕はゆっくりうなずいた。
「それより姉ちゃん、やっぱりあれって、タイム……スリップ?あの車タイムマシンなのか?」
「それは……」
姉ちゃんは、スマホを取り出し、さきからなにか操作している。
誰かと連絡を取っているようだ。
不安でたまらなかった。
自分に何が起こったかの疑問もあるが、この子がこれからどうなるのか心配でたまらなかった。
姉ちゃんは、病室の隅の籠の中に入っている、彼女の持ち物を見た。
装束の他に、赤い絹袋がおいてある。
「この絹袋は彼女がもっていた物か?」
「ああ、車のなかに落ちてたから多分そうだよ」
絹袋から何かを取り出した。
「横笛……」
笛に施された装飾を見て難しそうな顔をしている。
またスマホを取り出し、写真を撮り、何やら調べだした。
「姉ちゃん、タイムマシンはなんであの時代のあの場所に飛んだんだ?」
「……」
「またすぐ動かせるんだろ?タイムマシン」
「……」
「この子は誰なんだろう。やっぱり元の世界に戻してあげたほうがいいのかな?それとも……」
姉ちゃんは僕の質問には全然答えず、女武者の顔と着ていた装束、それと横笛を写真を撮っては、どこやらに送信しているようだ。
「信太朗、今、私の研究室の所長と連絡を取って、彼女の所持品写真を送った。物理学の教授だが、歴史にもやたら詳しい。近くにいるので30分ほどで来てくれるそうだ」
「え、教授?なんで?」
「すべてはうちの所長から説明してもらおう。それまで彼女のそばにいてやろう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます