第21話 I
「うわーーっ!??」
全身の痛み。
まるで体が内側から爆発するようなそれに耐えられず、わたしは飛び起きる。
……起きる?
「ここは……」
白い部屋、隣と仕切るためのカーテン。腕に刺さった点滴。下を見ると着ている服も所謂病院の入院服だ。どうやらここは病院らしい。
「ほのかっ!!」
「うわっ!さやかちゃん!?」
勢いよくカーテンを開き、親友──さやかが現れる。
目を潤ませた彼女は、何かを確認するかのようにわたしの手を取った。
「ちょ、さやかちゃんくすぐったいよ……」
「良かった……無事で……。本当に……」
「……」
シーツを涙で濡らすさやか。その姿は、普段の凛々しい立ち振る舞いと違ってひどく子供っぽくわたしには見えた。そんな彼女の後ろで、再びカーテンが揺れる。
「ほのかっ!!」
「シエラちゃぐほッ!?」
カーテンの隙間から顔を出したシエラが、直後に飛び跳ね抱き着いてきた。いやまあスキンシップは嬉しいんだけど、ちょっと今は体が──。
「いたたたたッ!!」
「こら何してるんですかっ!ほのかから離れなさいッ!」
さやかの背中から伸びた機械腕が、わたしに張り付いたシエラを引きはがした。
シエラは不満そうに頬を膨らませているけど、特に抵抗はしない。わたしが怪我人なのを分かってるからだろう。
「あーもう喧しいなぁ。人が気持ちよく寝とるんやから静かにしてやぁ」
「かえでちゃん!元気そうでよかったっ!」
「これ見てほんまにそう見えるっ!?」
隣のベッドのかえでが叫ぶ。
体中に包帯を巻いたその姿は健常者には程遠い。あと心なしかツッコミにもキレがない。とはいえ最後に見た時よりは確実に元気ではある。
さやかから聞いてはいたけど、こうして目の前にすると安心もひとしおだよ。
「ほのかこそ、体は大丈夫なのですか?」
「うん。全身がちょっと、少し、まあまあ痛いけど大丈夫っ!」
「安静にしてください」
そのままさやかに寝かしつけられてしまう。
「はぁ……これが
試しに肩を回してみると、肩どころか腕全体がじんわりと痛む。
「(夢乃先輩、近接戦苦手なのにこんな魔法作ってなにするつもりだったんだろ……)」
運が悪ければ数秒で身体が壊れる。当然多用はできないし、普段使いなんてもってのほか。先輩の言う通り、よほどじゃない限りは禁術としておこう……。
そもそもっ!こんなになったのもアアルが迷宮に来たせいだ。全くもう迷惑しちゃうなっ!
──ってあっ。
「ごめんシエラちゃんっ!アアルから情報聞き出せずじまいだった!」
シエラの姉への少ない手掛かり。それを棒に振ってしまった。失敗したーっ!!
「その件については、シエラから一つ、報告があるそうです」
「ん」
シエラが自信ありげには無い気を荒くしている。
こうして交流しているあたり、わたしが寝ている間にも2人の仲が深まったのだろう。両方の友達としては素直にうれしい。
「アアル、シエラのこと生け捕りにするつもり、って言ってた。」
「……なるほど?」
「わかっとらん反応やんけ」
かえでが咳払いをする。
「つまり、シエラを人質にして姉を引きずり出す魂胆だったっちゅうわけやろ?」
「ん。多分そう」
「あ、なるほどっ!」
シエラによると、もともとアアルはシ彼女のお姉さんを探すためやって来たらしい。お姉さんは現在は行方不明だけど、おそらくシエラを逃がした後、アアルの追跡を振り切ったのだろう。目標を見失ったアアルはそのままじゃ帰れないから、シエラを捕らえてお姉さんをおびき寄せようとした……と。
「むー最低だねっ!ぶっ飛ばしてやりたいっ!」
「もう倒したんちゃうんかいな」
「それはそうだけどさっ!」
こういうのは気持ちだからさっ!
「確かに手掛かりは得られませんでした。しかし収穫はあります。これでシエラのお姉様の生存はほぼ確実になりました。それに魔法軍に囚われている可能性も限りなく低いでしょう」
「確かにっ!お姉さんを捕まえてるならシエラちゃん探す意味ないもんね」
生きてはいるけど無事じゃない!ってパターンは無さそう。別の追手が来る可能性もあるけど、アアルの時と違ってシエラの顔は知らないだろうし、直近の危機は去ったと言っていいはず。
となると……。
「シエラちゃんはこの後どうする?」
「?」
話を振られたシエラはきょとんとしている。
「アアルは倒したし、お姉さん探すなら元の世界に戻らなきゃでしょ?もちろんわたし達も協力するけど、1人の方が都合がいいとかだったら──」
「ほのか、シエラと探検したくない……?」
「えぇ!?そんなわけないじゃんっ!」
身を乗り出してシエラの肩を掴む。
わたしの動きに驚いたのか、彼女の肩がびくりと跳ねた。
「一緒に探検したいよっ!友達なんだもんっ!」
「ん、シエラも」
少女が頷く。
冷静に考えるとちょっと恥ずかしいこと言ったかも……。
シエラは続ける。
「お姉ちゃんはこれからも探す。けど、まずはこっちの世界を探す」
「あてはあるんか?」
「これ」
シエラがポケットから1枚の羽根を取り出す。
「少し暖かい気がします」
「ん。
「言われてみれば」
シエラちゃんがいたところも沢山の魔物に襲われたんだっけ。
「だから、多分お姉ちゃんはこっちの世界にいる。こっちに来てからあの
「交戦した
「羽根に残ってた魔力量が多かった。少なくとも、村を襲われた時のじゃない」
「なるほど」
それならシエラの言う通りかもしれない。つまり、シエラのお姉さんはアアルから逃げつつ、追手の
「いつか元の世界に戻るかもしれないけど……それまではみんなと一緒に居たいって、シエラは思う。……ダメ、かな」
「もちろんおっけーだよっ!みんなは?」
部長として、一応部員の意見は聞いておく。けど多分、これは意味のない問いだ。
「ほのかが言うなら依存はありません」
「右に同じ」
「みんな……」
シエラの目が潤む。
個人的にも、部活的にも、シエラとはこれからも一緒にやっていきたいと思う。彼女が来てから探検部はなんとなく明るくなった。それは多分、彼女が後輩だからかな?
「まぁそもそもシエラちゃんいなきゃ部の存続が危ういんだけどねっ!いや~
何故なら探検部は人数が足りない。シエラがいなくなったらまた要件がなんやらで廃部になってしまう。
「あ~その件なんやけど部長」
「?」
ばつが悪そうにするかえで。
え、わたし何か変なこと言ったかな……?
「
「うん。シエラちゃんの入部テストね。いや~あの魔物すばしっこくて大変だったね~」
「あれ、失敗しとる……」
「…………はい?」
失……敗……?
ふふっ。
「も~かえでちゃんっ!今そういう冗談言うタイミングじゃないよっ!」
「いえ、かえでの言う通りです」
「……」
冷汗が頬を伝う。
アアルや
「
「え、ええっと、実はさやかちゃんがちゃっかりひとりで納品してるとか……?」
「前衛が2人とも寝込んでいるのに、私がソロでは潜れませんよ」
さやかはこういう時冗談を言うタイプじゃない。
というか今のもダメ元だ。わたしやかえでが眠っているのに、友達想いのさやかが看病しないわけがない。とうぜん免許のないシエラが1人で迷宮に行ってるはずもない。
「ははっ。それじゃあまるで探検部が廃部になるみたいじゃん?」
無言。病室に訪れる静寂。
『期限は5月が終わるまで!6月入ったら先生もうお前らのこと庇えないからなっ!』
脳裏にカイ先生の言葉が蘇る。
外から聞こえる鳥の鳴き声。
窓から流れ込むそよ風で、壁にかかったカレンダーがめくれる。5月が終わり、6月──新しい月はもう始まっていた。
「迷宮探検部、廃部……ッ!?」
第一章、完
◆◆◆
最新話まで読んでいただきありがとうございます!
こちら1章のエピローグです!次回からは2章となります!
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今後とも、放課後迷宮探検部をよろしくお願いいたします!!
放課後ダンジョン探検部!!【1章完結!!】 けるべろん @keruberon
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