乳の實の父の尊は扨措きてVirgem Mariaの灌佛會哉



ちゝの父のみこと扨措さておきてVirgemびるぜん Mariaまりや灌佛會くわんぶつゑかな


      ――― Kyrieきりや eleisonえれんず; Christeきりして eleisonえれんず; Kyrieきりや eleisonえれんず.



 前回の歌は、上代倭語と漢語との取合わせだったが、今回は更に混淆を極めて、倭語、漢語、ポルトガル語、ギリシャ語のラテン語式表記、そしてキリシタン用語を用いている。

 キリシタン用語は、キリスト教が伝わって間もない、中世から近世へと時代がうつりつつある時代の日本において、主としてキリスト教に関連するような、ポルトガル語やラテン語などを仮名文字により音写したもので、当時の刊行物としては、キリスト教の教義を記した『どちりな きりしたん (Doctrina Christam) 』が有名である。

 芥川龍之介の小説に切支丹物というジャンルがあるが、そこでもキリシタン用語が多く用いられている。


 「Virgemびるぜん Mariaまりや」とは、英語では"Virgin Mary"。

 原語を直訳すると「処女マリア」。

 日本語では「処女マリア」の語はあまり一般的ではなく、「聖母マリア」という呼び方をされることが多いが、日本以外では、キリストの母の処女性を強調したこの言い方も普通に用いられているようである。


 マリアの子、キリストは神の血筋。

 したがって、マリアの配偶者ヨセフの血は引いていないとされ、マリアは処女であるにもかかわらず懐胎したとされる。

 なぜマリアとヨセフとが夫婦の関係を持たなかったか、処女がどのようにして受胎したのかなど、いくつもの不可解な状況については、僕らのような俗物には到底理解できないような〝ストーリー〟が存在するが……

 奇跡はあると自ら言い聞かせて、尊重しよう。


 なお、ヨセフは、キリストの幼少期においては、養父かつ守護者として積極的な役割を果たしたと伝わる。神の教えに忠実な義人とされ、聖人に列せられている。


 下衆の勘繰りからすれば、ファンタジーを成立させるためのバーターともとれるが……


 ――罰当たりなので前言撤回。






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