蝸牛の舞はで角振る掌に闇に優りて靑き雨粒


蝸牛まひ〳〵はで角振つのふてのひらに闇にまさりて靑き雨粒あまつぶ



 「蝸牛角上かぎゅうかくじょうの争い」という言葉がある。

 取るに足らぬことで争う愚のいいだが、白樂天の七言絶句『對酒さけにたいす』の起句に「 蝸牛角上爭何事くわぎうかくじやうなにごとをかあらそふ」とある。


   對酒     酒にたい

               白居易


 蝸牛角上爭何事 蝸牛角上くわぎうかくじやう何事をかあらそ


 石火光中寄此身 石火せきくわ光中くわうちゆう此身このみを寄す


 隨富隨貧且歡樂 したがひんに隨ひしばら歡樂くわんらくせん 


 不開口笑是癡人 口を開きて笑はざるこれ癡人ちじんなり


 蝸牛かたつむりの角の上のような狭い世界で何を争うことがあろうか、火打石の火花のような短い人生だもの、富があろうが貧しかろうがとりあえず楽しもう、笑う余裕も無いというのは愚かだ、といったところだろうか。


 ただ、ファンタジーとして、蝸牛角上の戦闘や火打石の火花の中の人生を微細に想像してみると、何やら愉快な気もしてくる。


 なお、この詩にもさらに出典があり、荘子の則陽篇中の寓話に基づいているという。

 すなわち、蝸牛かたつむりの右の角の上にある国と、左の角の上にある国とが戦争をして、たくさんの人が死に、一方が北に逃げるとそれを追撃して、十五日後に戦いが終わったというもの。


 カタツムリは可愛らしい生きものだが、野菜に小さなカタツムリが付いていることを知らずに、そのままサラダや野菜ジュースにして摂取することなどで、住血線虫症になることもあるので、用心に越したことはない。

 厚生労働省検疫所のサイトには、「カタツムリやナメクジを取り扱うときには手袋を着用し、使用後によく手を洗いましょう」とある。

 読者諸賢におかれては、拙歌のようにカタツムリを安易にてのひらにお乗せになることなど努々ゆめゆめなさらぬよう、申し添える。


関連サイト https://www.forth.go.jp/useful/infectious/name/name15.html





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