肉を咋み齒を血りつゝ婪れる妻子らを見れば愍し愛し
スズメやツバメなどの身近な小鳥たちは、僕達にとって非常に可愛らしい隣人であるけれど、彼らに捕食される虫たちにとっては、世にも怖ろしい鬼や化物のような存在であろう。
可愛らしいさえずりさえも、虫たちには猛獣の咆哮のように聞こえているに違いない。
今朝、テレビを見ていたら、非常に可愛らしい子牛の姿があった。
大きな目で、興味深そうに人間の方を見ていた。
しかし、考えてみれば、彼らは僕ら人間に食べられるために養われているのである。彼らが好い具合に成長したら、僕らは躊躇なく殺してしまうに違いない。
更に残忍なことには、僕らの大半は、生あるものの命を奪う汚れ仕事を、涼しい顔で当然のように他者に押し付け、大した苦労も葛藤も無いままに、口の周りを脂で光らせながら、その肉をむさぼっているのである。
「やった! 今日の晩ごはんはハンバーグだ!」
無邪気に大喜びしている子供の笑顔は実に愛らしいものだが、その子の口にハンバーグが届くまでに、どのような犠牲が払われ、どのような光景が繰り広げられたのかについて、僕らはあまりにも無頓着である。
菜食を常とする人たちの中には、このような怖ろしくも忌まわしい現実に、無頓着ではいられないという気持ちが動機となっている人も少なくなかろう。
ただ、植物たちも生き物であることには違いはない。
たとえヴィーガンと呼ばれる完全菜食主義の人にしても、生あるものの命を奪うことなしに、生きながらえることはできない。
いずれにせよ、僕には菜食どころか、肉食という滋味を放棄し得る信念も、覚悟もない。
今朝のテレビに出ていたあの愛すべき子牛などにとって、人間とは世にも怖ろしい鬼や化物であるという、忌まわしくも不都合な事実。
常にそこから目を離さずにいるということが、僕にできるせめてもの務めである。
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