文寄せて誓ふ手管は見返りのたよりなくこそ風に吹かるれ


文寄せて誓ふ手管は見返りのたよりなくこそ風に吹かるれ



 引き続き遊里を題材の一首。

 遊女の手練手管の一つに、ふみを送るというものもあった。

 前回言及した、熊野権現の御札に誓いを書くよりも大分気楽な趣向である。

 その分、客にしてみれば、ありがたみが薄く、相方の自分に対する思いもこの程度のものかと思えば、返事すら書かぬこともあったであろう。

 そこはそれ、花街かがいにおける虚実綯交ぜとなった駆け引き。見返り柳の枝垂れが風に吹かれるように、空しくはかないことの方が多かった。

 因みに、手練手管の中で、より真実味をいや増す方法としては、段々とわが身を傷つける方向へとエスカレートせざるを得ない。

 断髪(女の命とされた髪を切って馴染に贈ること)、彫物ほりもの(相手の名前を入れ墨にすること)、放爪ほうぞう(自らの爪をはがして贈ること)、貫肉かんにく(刃物をわが身に突立てて思いの強さのあかしとすること)、指切ゆびきり(己の指を切って贈ること)など。

 その最たるものが、心中である。

 もちろん、実際にそんなことをしていては、文字通り身が持たぬので、例えば、指切りに関しては、糝粉しんこ細工で拵えた作り物の指を相手に贈ったり、ホラーじみた話になるが、埋葬されたばかりの墓をあばいて死人の指を切ったりすることも、あったとか、なかったとか。




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