風を鬻く女喚きて風を召せ風はよしやと翔り行き過ぐ


風をひさをみなをめきて風をせ風はよしやとかけり行き過ぐ



 世に商賣しやうばい數多あまた有りと云へども、鬻風女かぜひさきのをみなと云へる商估しやうこも珍なる活計たづきではあらう。

 背丈よりも遙かに大いなる、丸丸膨れた袋をふうはりとかつぎ、短裳みぢかもから、張りのある蘿蔔すゞしろはぎあらはに、をめをめきもてかけり行く。

 そもそも、風なんぞをあがなはんとする物好ものずきがあるものだらうか?

 すなはち、殼斗科かくとくわ楊柳科やうりうくわ禾本科くわほんくわなどの風媒花やら、蒲公英たんぽゝ蘿藦がゞいもなんぞの風散の果實くわじつ遊絲いうしを棚引かせる蜘蛛の子と云つたやうな向きには、それなりの需要はあらうが、果たして、かれらに、對価たいか支拂しはらふべき能力がそなはつてゐるか否かは、はなはいぶかしい所である。

 



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