第4話






 建物から出ていくとかなり開けた空間にでた。森の中とは思えない位整備された土地に、たくさんの人たちが生活している。普通の人の見た目をした人以外にも獣が混ざったみたいな人やドワーフみたいな人などいろいろな人種がいるのがわかる。規模も町とは言えずとも村にしてはかなり大きい。



「私はソラさんの家の手配をしてきます。案内は長にお願いしますね」


「わかった。用意が済んだら伝えに来てくれ」



 そういってユキナさんは村の方へ向かっていった。



「ここでの生活では特に決まりといったものはない。周りに危害を加えてはいけないことと困っている人がいたら皆で助けるといったくらいだ。各々が自由にやりたいことをやって生活している」


「仕事とかそういったものはないんですか?」


「仕事に関しても自由だ。日用品を作って売っている者もいれば、森で獣を狩ってくる者もいる。逆にまったく仕事をしていない者もいるぞ」


「まったく仕事をしていないって…それじゃあ食べていけないんじゃ」


「そうでもない。この森は魔素が豊富で常に森の恵みがある。少し遠出して食料をとってくればそれだけで生活していける」


「さっき獣がいるって言ってましたけど危険とかはないんですか?」



 僕が召喚された時に遭遇した奴なんかがうろついていたら危なくて遠出なんてできやしない。



「ここに住んでいる大人たちはその辺の獣や魔物なんか簡単に追い払えるから特に危険でもないな。子供一人で探索するのは少し危険だが」



 魔物って僕が追いかけられた奴だろうか?どちらにせよ一人では出歩けなさそうだ。



「すみません。生まれてから一度も戦ったことなんてないんですけど」


「一度も? それなら森に入るのは危険かもしれないな、子供たちを森に入れるよう鍛えている奴がいるからお主もそこに行くといい。仕事をするにせよしないにせよある程度の力は必要だ」



 まったく自信はないけれど、戦うことができなきゃここでは生きていくことはできなさそうだ。ありがたく鍛えてもらうとしよう。


「そういえば異世界から来た者は皆かなりの魔力と異能を持って召喚されるというが…」



 そうなのか?僕もすごい魔法が使えたり特殊能力があったりするんだろうか?



「お主は魔力をまったく感じんな。この世界のあらゆるものに魔力はあるというのに」


「え?」


「これではどんな魔法も使えんな。正規の召喚対象ではなかったからかもしれん」



 えぇぇぇぇぇぇぇ!? 魔法の話を聞いて少し期待していたのに。あまりのショックにうちひしがれる。僕の落ち込み具合を見かねてフィリアさんが慌ててフォローを入れてくる。



「そ、そんなに落ち込むな。まだ異能がある。なにか特別なものかもしれないだろう?試してみるといい」


「試すって言われても、どうやってつかうんですか?」


「異能を持っているものは教わらずとも自然とわかる。特にお主はここに来るまで異能を持っていなかったのであればその違いを意識することでよりわかりやすいはずだ」



 フィリアさんに言われて自分の体に意識を向ける。少し集中しているとなんとなくわかってきた。僕の異能は超能力だ!魔法の世界観になんとなく合わない気がするけど今まで持っていなかった力にテンションが上がる。僕の変化に気づいてフィリアさんが声をかけてくる。



「どうやらわかったようだな。周囲に被害が出ないように力を使ってみるといい」


「はい!」



 わかりやすい念動力をつかってみる。落ちている小石を浮かべて僕の周囲を回転させ…る?すごいゆっくりと僕の周囲を回っている。蝶が飛ぶのよりも遅いスピードだ。思わず全力でと意識しても全然変わらない。



「あー、一体どんな力なんだ?」


「触れずに周囲のものを動かす力なんですけど…」


「それで全力か?」


「はい…」


「まあ、あまり気を落とすな」



 魔法を使えず、異能もしょぼいという事実に僕はちょっと泣いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る