第5話



異世界に召喚されてから数か月、僕は今



「おら、走れ走れ!ぶっ倒れるまで走り続けろ!」



 ひたすら走らされてます。


 僕に発破をかけてくるのは狼の獣人のウルフィンさん。村の子供たちを鍛えているという人だ。フィリアさんに紹介された際に自分も鍛えてほしいとお願いしたところ、二つ返事で快諾してくれた気さくでいい人なんだけど、教練の最中はすごく怖い。死なないようにするための訓練なんだから怖いのは当たり前なんだけど、パワハラなんて目じゃない位怖い。甘ったれてたらすぐに怒鳴られるし、蹴とばされる。


 体が動かなくなるまで訓練したら、休憩の後に座学を行う。内容は森に生息する獣や魔物の特徴、毒を持っていたり食べることのできる植物の見分け方などだ。



「よし、今日はここまでだ」


「ありがとうございます」



 終わりの合図を聞いて全身の力が抜ける。座学はともかく訓練はある程度慣れたと思ったらより厳しくなるので、訓練を始めて数か月経過した今でも終わるころには疲労困憊だ。



「ソラも最初に比べれば大分動けるようになってきたな」


「あまり自分では自覚がないんですけどね。今くらいの強さだとまだ森に入るのは危険なんですか?」


「その辺の雑魚なら問題ないだろうが囲まれたり、ちょっと強いのに出くわしたら危険だな」


「森を一人で探索するのはまだまだってことですねぇ」


「ま、あんまり焦らず地道に鍛えろ。ユキナの奴が世話焼いてくれてんだろ?何か困ったことがあったら俺らも手を貸すからよ」


「いつまでも皆に頼ってばかりというのも気が引けるんですけどね」


「気にすんな。最初は皆そんなもんだ。それに異世界人だからか知らんがお前はかなり成長が早い。あと何か月かすればある程度は森を探索できるようになんだろ」


「わかりました。あまりくよくよせずこのまま頑張ります」


「おう。んじゃまた明日な」


「はい。また明日お願いします」



 ウルフィンさんに別れを告げて家に向かう。家に着くまでの間はいつも異能の確認をしている。初めて異能を使ったときのように、地面の小石を動かす。






「一向に動かすスピードやパワーが成長しないな」






 異能の出力は初めて使った時から全く変化がない。ただ操作に関してはかなり成長した。以前に比べて精密な動きができるようになったし、集中しなくても自然に使えるようになった。これは常に行っているトレーニングのおかげだろう。異能を使って自分に負荷をかけることで肉体と異能の両方を鍛えるというものだ。異能の出力には効果がなかったが、操作はスムーズになったし、肉体は召喚される前に比べてかなり強靭になった。というより強靭になりすぎている気がする。これも異世界召喚の影響なのだろうか?


 なんて考えているうちに家に着いた。あまり広くはないが一人で暮らすには十分すぎる大きさの木造の家だ。そのまま家には入らず隣の家にお邪魔する。



「すみません、ユキナさん。ソラでーす」



 実は隣にはユキナさんが住んでいる。ここに来てから毎日ご飯をごちそうになっていて頭が上がらない。



「はいはーい。いらっしゃーい」



 今扉を開けてくれたのはユキナさんの妹のマキナちゃん。ユキナさんをそのまま子供にしたような可愛い女の子だ。



「今日もお疲れだね、毎日訓練なんて大変じゃない?」


「大変だけどさ、早く強くなってある程度は一人で暮らせるようになりたいし」



 この村の子供は皆ウルフィンさんのところで訓練しているが頻度は大体週に二回程度だ。僕みたいに毎日訓練している子はいない。



「そんなもんかなぁ? お姉ちゃんソラが美味しそうにご飯食べてくれるの嬉しいって言ってたし、ずっと面倒見てくれるとおもうけどなぁ」


「そうですよ、ソラさん。なにもそんなに急いで強くならなくても、いつでもうちに来てくれてもいいんですから」



 キッチンから出てきたユキナさんがとても魅力的な提案をしてくる。思わず頷きそうになるがそこまで甘えてしまっては堕落していく一方だろう。涙を呑んでお断りする。



「とても嬉しいんですけどさすがにそこまで甘えられませんよ」


「もう、でも一人で暮らせるようになってもうちに遊びにきてくださいね」



まだ一人で暮らしていくことはできないけれど村の皆に支えられながらなんとか平和に過ごしている。

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