心理戦

マスコミが大勢集まる会見場に、一人の職員が焦った表情で、突然足早に駆け込んできた、「バタン!」会見場の扉が閉まり、その職員はすぐに鈴木達上層部が座る壇上の上へと駆け上がってきた、「大事な会見中だぞ!何があった?」鈴木はマスコミからの厳しい追及に疲労を隠しながら、職員に問いかけた、「一課長、緊急事態が起きました。列車が爆破されました!」 そう職員の言葉が告げられると、鈴木は衝撃を受けて一瞬だけ頭が真っ白になった、「まさか、本当かどうか、事実を確認しろ!」   「現場近くにいた市民からそう情報が送られてきたんです」 鈴木はふと報道陣の方へと目線を向けると、自分は何も動けないことを悔やみながら、どうにか気持ちを切り替えて、報道陣に爆破について、報告し始めた。



列車の脱線事故から10分後、ゆっくりと目を開けた吾妻は、爆破事故によって線路の外へと吹き飛ばされた影響で、車内にはガラスの破片が散らばり、停電した暗闇の中から吾妻はゆっくりとテスリに掴まりながら立ち上がった、すると、強く肩を殴打したのか、左肩から激しい痛みが伝わってきた、「はぁ…!」目の前映る車内の景色は、荒れ果てた悲惨な光景であった、吾妻はゆっくりと足を引きずりながら歩き始めると、その時、「ブー!ブー!」車内のどこからか、着信の音が聴こえてきた、吾妻は気になってすぐさま音のする瓦礫の方へと駆けよった、「グフッ、!」 音が鳴る近くには負傷している神室が倒れている、神室は微かに目を開けながら、こちらを睨み付けていた、やがて瓦礫を退けてようやく着信のする携帯を見つけると、どうやら携帯の持ち主が神室の物だと言う事がわかった、すると吾妻は神室に目線を向けながらゆっくりと神室の携帯の電源ボタンを押して、通話の画面を開くと、着信を応答にして耳元に添えた、「なんだ…てっきり事故で死んだかと思ったが、生きていて安心した。蛭間にファイルの居場所は聞き出せたのか?、神室?、」 携帯から聴こえてくるその発言に、吾妻は静かに黙り込みながら耳にした、「何か応答しろ、神室?、神…?……………………お前、誰だ?」 電話の向こうから怪しいと感じたのか、突如口調が変わり、こちらに問いかけてきた、すると吾妻は一度深く息を呑むと、電話に応答した、「お前が佐原だな、」その返答に、電話の相手である佐原は驚いている様子であった、「どうやら計画は失敗したみたいだな、」

「お前にファイルが渡されることはない、時期に山瀬製薬の悪事は白日の物にされる、お前の負けだ」 ふと車内の窓から光が差し込み、外を覗くと、脱線した車両の回りにはパトカーが次々と到着くする姿が見えた、「諦めろ、」最後にそう言い放つと吾妻は耳元から携帯を離し、通話を切った。



その頃、自家用車の運転席にいた佐原は、電話が切られると、計画が失敗したという事実に怒りが込み上げ、思わずハンドルを叩きつけて怒りを顕した。




爆発事件からやがて数十分が経過した頃、ようやくという程、大破した車両の周囲には多くのパトカーが包囲されると、やがて一台の大きな輸送トラックの中から一斉に特殊部隊SATが列に並ぶと、指揮官の合図と共に突入を開始した、その作戦を警察車両の中から見つめていた高村はじっと険しい表情を浮かべていた。

SATが着々とこちらに向かってくる間、吾妻はずっと誤魔化していた疲労が一気に大きくなると、

近くの手すりに掴まりながら、ゆっくりと腰をおろした、ふと割れた窓から空を見ると、いつの間にか空は夜になっている、静かな時が流れ、無数にある星を何も考えることなく、ただじっと眺めていると、「吾妻…さ…ん…!…」微かに自分の名前を呼ぶ声が耳に聴こえた、疲弊する中吾妻は首だけを使って後ろを振り向くと、そこには壁にもたれ込む、葛城の姿があった、葛城は意識が朦朧とするなかで、僅かな力を使って吾妻の名前を呼び、手を差し出している、吾妻は葛城が自分を裏切った事など忘れて、どうにか立ち上がった、力を振り絞り、足を引きずりながら、ゆっくりと歩き続け、やがて葛城の近くへと来ると、その場に倒れた、「吾妻…さ…ん…、これ……」意識が遠退いていく葛城に、吾妻はやるせない感情を抱きながら、葛城の襟を掴み、葛城の名前を叫んだ、「こんなところで死ぬな葛城!、お前にはまだ、聞きたいことが山程残ってる!、死んだら…死んだらもうそこで終わりなんだよ!起きろ!。葛城!」やがて気づくと自身の頬から涙が溢れ落ちていた、「これが…きっと…ファイルのありかで…す…、、」そう話した瞬間、吾妻に一枚の紙切れを渡し、葛城は目を瞑って意識を失った、「おい…起きろ…葛城!!!」 吾妻は必死になって葛城を呼び起こそうとするも、葛城は反応をせず眠り続けた、そんな時、突入していたSATが荒れ果てた二号車内へと駆け付けてきた。




吾妻はSATに肩を寄せながら、ボロボロに大破し破壊された車両ドアの隙間から、運ばれる間、周りから聴こえてくる声が、まるで雑音かのように何も頭に入らないまま、ようやく外へと出ると、そこには大勢の警察官とカメラのフラッシュを焚き付けるマスコミ達がごった返していた、「吾妻さん!こちらに救急車があります、」吾妻のもとに駆け付けてきた警官は、必死にメディアを抑えつけながら吾妻を救急へと誘導した、その時の光景は吾妻の頭の中は真っ白であった。

やがて数分後、救急隊員の治療を終えた吾妻は車両のトランクに腰掛けていた、すると、遅れてSAT達に救出される清原の姿を見つけると、その後に続いて山崎、そして早田緋梨が助け出されていく、その光景を見つけると、吾妻はさっきまでの無の感情とは全く違う、無意識でその場から微笑んだ、「少し宜しいか?」 突然横から話しかけられると、慌てて我に返って声のする方へと振り向いた、するとそこには、「一課長から事情は聞いております。私、警視庁捜査一課の橋賀と申します、」橋賀と名乗る捜査員が吾妻の前に立っていたのだ、橋賀は警察手帳を吾妻に見せ、スーツの懐に閉まいながら、吾妻の座り込むトランクの隣へと腰掛けた、「鈴木一課長は今どこにおられるのですか?」   「現在鈴木は今回の事件について、マスコミからの対応に追われていまして、変わりに高村管理監が捜査の指揮を取っています、」

「そうですか、、それで話とは何でしょうか?」

「我々一課も、今回の不祥事について大変胸が苦しい境地に発たされました、それで、同じく乗車し殺害された葉山捜査官が追っていた、物を未だに聞き出せていない状況にありまして、何か蛭間から聞いてませんか?」  そう問いかけると、吾妻はふと橋賀から目線を外して前を見つめ、じっと黙り込むと、その数分後、吾妻は一言返答した、「私もどこにあるかわかりません。」そう橋賀に告げると吾妻はトランクから立ち上がった、「すいません用がありまして、これで失礼します」去り際に吾妻は頭を下げて橋賀にそう言うと、治療を受ける清原達の方へと向かっていった、一方の橋賀は、吾妻が去ると事故現場の近辺へと重い足取りで向かった、やがてブルーシートに囲まれた現場の中に足を踏み入れると、中にいた管理監高村のもとへ近づいた、「管理監、吾妻は何も聞き出せていないと応えました、」 高村は険しい表情で事故現場を見つめていた、「そんな筈は無い、吾妻は何か知っている!しばらく奴の行動を監視しろ」 「わかりました!」橋賀は威勢よく応えると足早に現場から出ていった。



10分後、救急車へと運ばれていく早田緋梨を静かに見送る吾妻と清原は、その場に立ち尽くしながら、疲れた様子で、段々と見えなくなっていく救急車を最後まで見届けた、「今度は守りきれたな、吾妻!」ふと横を振り向いた清原は、吾妻の目を見て、微笑みながら、吾妻の肩を組んでそう言葉をかけた、「これでやっと、過去に区切りをつけれた、」吾妻は小さく呟きながら、葛城に手渡された紙切れをポケットから取り出した、その紙切れは血で微かに汚れているが、どうやら名刺であるようだ、ふと名刺に付着した血を拭うと、松中 栄祐と言う名の男が勤める週刊記者の名刺であった、「松中 栄祐?、記者?、」何故葛城はこの名刺を渡したのか、考えたその時、吾妻は突然何かを思い出したかのように携帯を取り出し、名刺の番号に目を通した、「急に慌てだして何があった?吾妻」 清原の問いかけに応えることなく吾妻は電話が繋がるのを待ち構えた、しかし、中々電話に相手は繋がらなかった、「清原!至急本部に神室の携帯から電話がかかってきた相手を調べるよう伝えてくれ」すると吾妻はその場から走り去ろうとした、「お前はどこに行くつもり何だ?」

「山瀬製薬のファイル。在りかがわかった、」清原にそう伝えると吾妻は走り出した、その行動を遠くから覗いていた橋賀は車にエンジンかけ、吾妻の追跡を開始した。

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