決着
その頃盛岡駅では、パニック状態のまま列車から降ろされた乗客達が、駅のホーム内でごった返し、混雑した状態が長らく続いていた、「早田さん、早田さん!、これ見てください !」 密集する列で早田と共に並んでいた矢部は、携帯のネット記事から、人質とされていた早田緋梨が救助されたと言う文面を見つけ、すぐに隣にいる母親である早田に声をかけた、その記事を見た早田はずっと恐怖と戦っていた力が抜けてその場に膝から崩れ落ち、手で顔を覆いながら号泣してしまった、「早田さん!、良かったですね!娘さん助かりましたよ」 側でしばらくの間付き添っていた矢部の心の中にもようやく落ち着きを取り戻すことが出来た、しかし一人異様な目付きで携帯を見つめる男がいた、その男は同じ車両に乗り合わせていた松中と名乗る記者であった、「あの、何かあったんですか?」 矢部は思わず気になって松中に問いかけると、松中は話しかけられた事に驚きながらゆっくりと、矢部に目線を向けると、自信のジャケットの懐から妙な1台のUSBを手にとって、矢部に見せた、「それは何です?」
「さぁ、こんな物、私は知らないぞ!?」松中は困惑しながら見覚えのないUSBをどうしようか悩んでいたその時、松中の携帯から非通知の電話がかかってきた、松中はこのタイミングで着信が来たことに、何か不安な予感を感じ始めた、二回ほど通話が鳴った後、意を決して非通知の相手に電話を出た、「もしもし、」 松中はそう話しかけると、帰ってきた返答が聞き覚えのある声であった、「吾妻だ、同じ車両に乗っていた、」
そう名前を言ったことで、松中はすぐにその声の主を思い出した、「あんた無事だったのか!、列車が脱線したと報道があって心配してたが、」聞こえてくる松中の声に矢部は思わず目線を向けた、「あの、緋梨ちゃんはどうなったんですか!?」 矢部は通話する松中の顔を見ながら問いかけた、しかし、松中は眉間に皺を寄せた表情ですぐに反応しなかった、「大事な話って、、、、、悪かったは、勝手に俺が警察に内緒で内の記者クラブに情報を流したことわ!」
「違う!そんなこと今はいいんだ、松中さん、何か見に覚えのない物とか持っていませんでしたか、例えば、USBメモリーとか」
その吾妻の発言に、松中はゆっくりと目線を矢部の方へと向けた、矢部はまだ状況を理解していない、「緋梨ちゃん、無事でしたか?」 すると、松中はでかい声でUSBを渡すよう言い放った、「急にどうしたんですか!」 「いいから早く渡せ、」 USBを手に取ると再び吾妻との通話が始まった、「何故か知らないが、USBが俺のジャケットに入ってあった、あんたこれについて何か知ってるのか?」。
その頃、吾妻は一度高架下付近の道路に車を止めて、運転席から松中と連絡を取っていた、「そのUSBには山瀬製薬の知られたくない情報が詰められている、本来なら蛭間が持っていた筈だったが、見当違いであんたの所に運ばれていた、恐らく、駅のどこかで入れられたのだろう、」
「これは、どうすればいいんだ?」 電話の奥からでも焦る様子が感じ取れる松中に、吾妻は冷静な口調で話し始めた、「いいですか松中さん、あなたは記者の筈だ、あなたでしか出来ない方法が一つだけあるんです、」
「私にしか出来ない事?」 「それは簡単な事ですよ、」 その時、吾妻の携帯から一通のメールが送られてくる通知音が聞こえた。
運転席で松中と話し込む姿を離れた距離から監視する橋賀は、じっと目線を向けたまま、管理監の高村に連絡をかけた、その頃高村達は、重症の怪我を負った蛭間が運ばれた都内の病院へと訪れていた、集中治療室の廊下で立ち尽くす刑事達の中に高村はいた、すると、スーツのポケットに閉まっていた携帯から着信が掛かってきた事に気がついた、しかし、タイミング悪く、一課長の鈴木が遅れてこちらに歩いてくる姿が見えた、高村はグッと堪えながら着信を拒否した、「お疲れ様です。一課長、」 「蛭間の様子はどうなっている?すぐにでも奴に、知っていることを全て吐かせたい」 「一課長、医者の話では、かなりの火傷を負っており、話を聞き出すのはまださきになるかもしれないです、」
部下の応答に鈴木は思わず悔しさを滲ませた、「高村、」 「はい!」 「今回の事件の裏には佐原という男が裏で絡んでいる、至急調べてくれ、」 「わかりました、」そう応えると、高村は足早に集中治療室前の廊下から立ち去るのと共に、橋賀の番号に電話を掛け始めた。
「吾妻さん、この男が佐原と言う人物だと確認が取れました、どうやら山瀬製薬の中では役員扱いの用でした、」そう吾妻と通話をするのはサイバー班副長の皆藤だった、「吾妻さんから突然連絡頂いて、こっちは大変迷惑でしたよ」 「悪かったな突然で、だが、君が優秀だと言うことは鈴木一課長聞いていた」 皆藤はデスクに置かれたパソコンを見つめながら眼鏡の位置を直すと、少し微笑みながら吾妻に応えた、「今、そちらに資料を転送します、写真に映るのが佐原です。」
すると吾妻は耳元から携帯を離し、スピーカーをONにすると、皆藤から資料が転送されてきた、すぐさま資料を開くと、そこには山瀬製薬の社員名簿の中から、取り出された男の顔が携帯の画面に映し出された、すると吾妻は驚愕した表情で携帯の画面を見つめた、「吾妻さん?、何か見覚えでもあるのですか?」 皆藤の問いかけに、遅れて吾妻は返答した、「一度だけ目にしたことがある、それも、今日にな」 画面に映し出された佐原の顔は、列車に乗り込んだ際、同じ車両に乗車し、吾妻に身体をぶつけてきたスーツを着用していた、あの男の顔であった、「こいつが佐原だったのか…!」 その時であった、「バーーーーーーーーン!」突如として吾妻が乗る車両の運転席の窓に銃弾が一発撃ち込まれてきた、「 ! 、 」窓ガラスは一気に吾妻のもとへと降りかかり、すぐさま座席に身体を伏せた、「バン!ッバンッ!バンッ!」突然の銃撃は止まらず、吾妻は必死に外の状況を確認した、すると、車体の下からガソリンが漏れていることに気がついた、「バンッ!、バンッ!、」 吾妻は窮地の状況に追い込まれた、心拍が刻々と激しく上がっている、ふと吾妻は目を閉じた、その時、頭の中で懐かしい公園の景色が浮かび上がった、次の瞬間、「ガチャン!」力ずくで運転席の扉が開かれた、「早く降ろせ!、ここで死なすと処理が面倒になる、「あー、わかってるよ!誰かがむやみに発泡したせいでこの様だ!」そこにいたのは、高村の命令で動いた橋賀と、佐原であった、「お前が例の元刑事だったのか、これは驚いた」 佐原は微笑みながら吾妻の襟元に掴みかかりながら、そう呟いた、すると吾妻は対抗するかのように、佐原の胸ぐらに掴みかかった、「お前達が、俺の家族をメチャクチャしやがったんだ!、蛭間のような猟奇的殺人鬼を利用したせいで!」 「フフッ、散々計画を邪魔しやがってただで済むと思うなよぉぉ!!!」佐原は怒号を浴びせながら吾妻の微を思いっきり殴り付けた、「ヴゥ!」
「橋賀、警察には事故死として片付けておけ、死体は海に捨てる」佐原は険しい表情を浮かべながら橋賀にそうつげた、やがて、意識が遠退く吾妻を橋賀はどうにか近くに止めていたワゴン車のトランクへと乗せた、「情報は掴んだ、後は見知らぬ週刊記者を捕まえるだけだ、」 橋賀の様子を覗いていた佐原はほっと息をつくと、山瀬社長に連絡をかけた、「刑事の先輩には申し訳ないが、この世には、もうまともな正義は残っていないんだよ、」橋賀はそう吾妻に呟き、バックドアを閉めようとしたその時、意識を失っていた筈の吾妻の右足が突然動きだし、閉まるバックドアを塞いだ、「お前が思っているほど、まだ世の中は腐っていない」 すると、前の方から佐原の声が聞こえてきた、「畜生!社長と連絡が取れない、どうなってるんだ!?」 「山瀬社長なら時期に逮捕されるだろう、」 トランクから降りて、そう言い放った吾妻の発言に佐原は動揺を隠せなかった、「まさか、今度は何をしたんだ!」佐原は怒りを露にして拳銃を取り出し、銃口を吾妻に向けた、「山郷製薬の極秘ファイルは既にマスコミの手に渡った、世間の公のもとで不正が露になる、計画はもう終わりだ」 「グッ!」 ふと佐原は拳銃を握る腕を見ると、激しく震えていた、「お前の負けだ、佐原あぁぁぁぁぁぁ!」吾妻が叫んだ次の瞬間、佐原は拳銃を投げ捨ててワゴン車の運転席へと急いで乗り込んだ、吾妻の健闘もむなしく佐原は、橋賀を置いて逃走していってしまった、しかし、吾妻はワゴン車を追いかけず、段々と姿が見えなくなるまで、逃げていく佐原を最後まで目に焼き付けていった。
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