あの日の夜

翌日の朝、捜査一課刑事部へと高村は足早に駆け込んできた、中へと入ると、すぐに高村は、吾妻の姿を探し始めた、すると、まだ署内に残りパソコンをいじる吾妻の姿を見つけた、「吾妻!ちょっといいか?」 高村はデスクへと向かいながら吾妻の名前を呼んだ、高村の呼び掛けに気がついた吾妻は、疑問を浮かべながらこちらを振り向き、デスクから立ち上がった、「管理監、私に何でしょうか?」   「ここではあれだから、別室に来てくれ」 吾妻は何の用件なのかわからないままパソコンを閉じて、高村の後に着いていった。

やがて別室へと移動すると、吾妻にとっては思いもよらない話であった、「お前には別の事件を追って貰いたい、これは、私ではなく、上からの指示だということを理解してくれ、」  「待ってください管理監!、何で私が今回の事件から外されなければいけないんですか、理由を教えてください!」吾妻は動転しながら高村に詰め寄ってきた、「だから話したろ、上からの指示だ、後の捜査は同じ一課の神室に任せる。」 高村は重い口調で吾妻にそう告げると、別室から去る前に、吾妻の肩に手を当てた、「バタン!」

高村が退出し、吾妻一人となった別室に、吾妻は納得のいかない上からの指示に、怒りを現すかのようにテーブルを強く両手で叩きつけた、「畜生!俺はこのまま引き下がる訳にはいかない、」心の中で怒りのままにそう呟くと、ふと吾妻は突然思い出しかのように、ポケットに入れていた携帯を取り出して、電話をかけた。


一時間後、廊下を歩く高村の様子はどこか安心しきった様子であった、「これで吾妻は動かなくなる筈だ」心の中でそう囁きながら気分を落ち着かせていると、高村が安心出来たのはその僅か数分だけであった、突然高村のもとへ電話がかかり、すぐに電話に出ると、相手は厄介な人物である佐原であった、「吾妻を担当の捜査から外した、社長にはもう心配ないと伝えておいてくれ」 

「高村、その言葉は信用できないな」 佐原の思わぬ返答に高村は動揺した、「直接吾妻に捜査から外れるよう、私は告げたぞ!、お前は信用できないのか?」       「捜査から外れた?では何故今、奴は益本と接触しているんだ?」

佐原が電話をかけていた場所は、益本との自宅に近い歩道橋の上で高村と通話をしていた、その最中に佐原は、益本の自宅を単独で訪れる吾妻の姿を目撃したのだ、「クッ……、ずっと監視していたのか、?」     「そんな分けないだろ、偶然だよ、」 そして次に佐原が放った言葉に、高村の背筋が凍った、「蛭間を使って、吾妻を新たな被害者にする、では…」 そう言い放ち電話は切れた、「待て…!、佐原ぁぁぁ!」。






「悪いな、すぐ着替えてからまたそっちに行くから」吾妻は自身の車を自宅前の駐車場へと止め、車のエンジンを切ると、まだ夜分まで署内に残る葛城と連絡を取っていた、「いいんですよ吾妻さん、滅多に家族と会えていないんですから、あとの資料は自分に任せてください!」 葛城は刑事という仕事に没頭する吾妻を気遣い、そう言いかけた、「いや、俺もまだ事件について調べたいことがあるからな、電話を切るぞ、」そう告げると吾妻は通話を切って、疲れた身体を吹っ切って車から降りた、そして数分後、「ピーンポーン!、ピーンポーン!」玄関前へと着いた吾妻は家で帰りを待つ二人に向けて、二回インターホンを押した、その時、一階のベランダから不穏な物音が聞こえてきた、「?」 少し気になりながらも、中々玄関から出てこない二人に、もう一度インターホンを押した、「ガサガサ!」すると更にベランダから聞こえてくる音が大きくなっていく、異変を感じた吾妻は警戒しながらベランダの方へと歩み寄っていた、すると次の瞬間、突如自宅の内部から大きな爆発が起きた、周辺にいた吾妻は爆風によって身体を投げ出された、次に目を開けた時には、変わり果てた真っ赤に燃え上がる家が目の前にあった、「あ……ウワァーーーーーー!、あぁ……アァァァァァァ!」 吾妻の足首は負傷しており、絶望を突きつけられ泣き叫びながら地べたを這いつくばり、燃え上がる家の中にいる妻と娘を助けよとうとした、しかし、「ボーン!」更に炎の勢いは増していった。




爆風現場付近では、ガラスの破片が左腕に刺さった蛭間は、ニヤリと笑みを浮かべながら激痛に耐えて逃げていた、「はぁ…はぁ…」ふとアスファルトの下を見てみると、腕から出血する血の後が残っていた、するとその血の後の側に、爆風で飛んできたであろう、物が落ちていた、それから数分後、やがて段々と息づかいが荒くなってきている事に蛭間は気づいていた、一度近くの道路で休もうと座り込んだその時、遠くからこちらに向けて眩しい車のライトが差し込み、やがて、その黒い車は、蛭間の前へと止まった、すると、ゆっくり運転席の窓が開いていき、そこには佐原の姿があった、「楽して逃げるには今しかないぞ、」 その言葉に、蛭間は感情を一切出すことなく寡黙に黒い車の後部座席へと乗り込んでいった。

ふと思わず眠りについていた蛭間は、慌てて目蓋を開けると、その場には何故か自分の手足をチェーンで椅子に縛り付けられる光景が、反射する窓ガラスに映っていた、辺り全体が白い壁で覆われるこの場所で、何が起きているのか状況を全く把握できない蛭間は、思わず、近くにいた白衣を着た男性に問いかけた、「何してるんだ?ねぇ、まさか……僕モルモットにされるんじゃないですよね!?、ねえ!ねぇ!教えてくださいよぉぉぉ!」何の受け答えもせずただ作業をし続ける白衣を着る男性に、蛭間は完全にこれから何をされるのかを理解し、突如として暴れ始めた、「被験者を静かにさせろ、彼にも知る権利はある筈だ」 テーブルに取り付けられたマイクからアナウンスをする山瀬は実験室を上から見下ろせるテラスに居座っていた、「彼は、我々山瀬製薬が成長する為に必要な犠牲なのだ、」。






ふと葛城は目線を下にしてしいた顔を上に上げると、ようやく目を開けた、「吾妻さん、後の経緯は我々にも予想外な事ばかりですよ、果たしてどう逃げたのか?蛭間は山瀬製薬から逃げ出し、長らく逃亡しつづけた後に函館西警察署にて自首してきた」     「じゃあ、何故お前は移送する際に、全てを知っている蛭間をすぐに殺害しようとしなかったんだ?」 すると葛城は薄く微笑みながら首を横に振った、「何度もチャンスはあった筈だ、だがお前は蛭間を撃たなかった、それには何か理由がある、」

すると葛城は長く溜めなら、吾妻に語った、「吾妻さん、、奥さんと娘さんを亡くした日から、あなたは強いショックによってしばらく記憶が飛んでいた、」葛城が話す内容に吾妻の眉間に皺が寄った、「蛭間は、自宅を爆発させた後に、あなたが手に入れていた、山瀬製薬の極秘ファイルをその日に手に入れていた。初めは焼却されたのだと思っていたが、それに気がついたのは蛭間が逃げ出してからの事だ」 すると突如として吾妻は頭から激しい頭痛が走り出した、そして、爆発が起きたあの日の経緯を明確に思い出し始めた、「そのファイルは今どこにあるんだ!?」 焦りながら吾妻は強く拳銃を握り締め居場所を問いかけた、「フッ、さっき言いましたよね、もう遅いと」 そう応えると葛城は銃口を突きつける吾妻を睨み付けた、「我々が遠くの車両に乗っている間に、USBファイルは手に入れた、」 するとその時、「バーーン!」 突如放たれた銃弾は葛城の頬を微かに通過した、吾妻は一発警告の意味で発砲したのだ、「次に応えなければ、今度はお前の頭に穴が空くことになるぞ、」 そう言うと、吾妻はゆっくりと葛城の頭に拳銃を押し付けた、「話しても無駄だ!何せそのファイルをもうこの列車には無いのだから」  「なら、今誰がファイルを持っているのか応えろ、応えろぉぉぉぉ!」  吾妻は大声で葛城に訴えた、「持っているのは、さっき話した奴だ、佐原という男が、ファイルを……」  その時であった、ロックされていたままであった1号車の中から何者かが、扉を開いてこちらに歩いてきた、すぐに吾妻は警戒して1号車の見える後ろの方を振り向いた、「とんだ期待はずれだったよ…お前はいつも邪魔ばかりしやがって、吾妻!」  吾妻の目線の先に立っていたのは、死んだ筈の神室警部だった。

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