極秘任務

15分後、会議室から退出した鈴木達は、同じ列車に乗り込んでいた麻薬取締官が何者であるのか、何故列車に乗っていたのかを探るため、麻薬取締部へと足を踏み入れていた、「わざわざ一課長からお越しになさるとは失礼致しました。」

「いえ、我々も急遽連絡を入れたものでしたから」 鈴木の前に言葉を交わすのは、麻薬取締部部長を勤める長谷川と名乗る女性であった、「それで、捜一が来るということは、何か大きな山でも掴んだのですか?」   「いえ、伺いにきたのは、現在そちらが遂行している事についてです」 そう応えると鈴木は後ろに立つ高村に目で合図をした、「長谷川部長、現在立て籠り事件が起きています、マスコミは恐らくもうじき事件について公表してくるでしょう、我々が聞きたいのは、殺害されたこの捜査官についての事です!」そう話した高村はスーツの懐に入れていた写真を長谷川に見せつけた、提示された写真に目を通した長谷川は、次の瞬間、驚いた表情を二人にみせた、「こ…これは、どういう事ですか!、鈴木一課長!」 長谷川の様子を見る限り、列車内で殺害されていた事を知らなかったのだと、二人は確信した、「麻薬取締部は列車から何を追っていたんですか、あの場に居合わせたのは、とても偶然だとは、どうも私には思いません、教えてください、長谷川部長、」鈴木は真っ直ぐな目を向け、長谷川にそう言い寄った、「黒色のダウンを着る写真の彼は…、葉山という、私が作戦を命じた捜査官です。」




その頃、はやぶさ列車内では、2号車には拘束された蛭間、そして裏切り者の葛城を丸腰の状態で座席へと座らせ、清原が銃口を向けたまま、列車は走り続けていた、そして、3号車にいる吾妻は、「もうすぐ母親と会えるからな、安心しろ!」蛭間の人質とされていた早田緋梨という少女に僅かな時間、近くに付き添っていった、緋梨はふと大変なストレスで疲れていたのか吾妻の手を握りながら安心しきった様子で眠りについていた、「次は必ず、守ってみせるからな、」そう心に誓いながら吾妻は立ち上がると、負傷して近くで休んでいた山崎が声をかけてきた、「おい、葛城が裏切ったって、一体どういう事なんだ?」  「どうなっているのか、知りたいのは俺も同じだ、山崎さん、この子のこと、後はお願いします」    「待ってくれ吾妻さん!、まだ話は終わってないぞ」山崎は吾妻をどうにか呼び止めようとするも、吾妻は聞き入ることなく2号車の方へと出ていった。

「バタン!」扉が閉まると、足早に吾妻が2号車内から姿を現した、「何か話したか?」吾妻は周囲を見渡しながら清原にそう問いかけると、清原の表情は険しかった、「吾妻、どうやらお前と一対一で話がしたいようだ」 「何故だ?、他の者に聞かれると何か不味いことでもあるのか?」吾妻は鋭い視線を向け黙り込む葛城に問いかけた、「吾妻、一度署に連れてじっくり話を聞かないか?」

「それでは駄目だ清原!、蛭間に殺された乗客の一人に麻薬取締官が乗っていた、蛭間を始末する他に何か目的が必ずある筈だ、今それを吐かせる」すると、沈黙を続けていた葛城が笑みを浮かべながら、吾妻に向けて口を開けた、「あんたの為に俺が提案したんだ、」 その言葉に吾妻はじっと睨み付けながら、清原に一言呟いた、「蛭間を連れて出てくれ、こいつとは俺も一対一で話をしたかった」 「いいか吾妻!、殺すなよ、」清原はそう告げると、蛭間を連れて2号車から出ていった、等々二人っきりの空間になった車内は殺伐とした緊張感が流れ始めた、その時、「ジャキン!」  吾妻は拳銃を抜き取り目の前に座る葛城に銃口を向けた、「葛城、知っていることを全て話せ…」 すると、葛城は一度目を閉じながら、ゆっくりと吾妻に語り始めた。






6年前、その夜は激しい雷雨が降り続け、小さな小屋の天井からは雨粒が強く弾ける音が鳴り続けた、そのお陰で、誰も助けに来ることなど無かった。「誰か助けてえぇぇぇぇぇ!助けてぇくれぇぇぇぇぇぇぇ!」 椅子に縛り付けられる眼鏡をかけた中年男性はロープで口を塞がれながらも、目の前で殺害される自身の子供を嘆きながら、助けを呼ぶことしか出来なかった、しかし、雷雨の音で助けを呼ぶ声は搔き消され、絶望する事しか出来なかった、「グシャァ!」白色のカッパが赤い血で染まり、子供の腕を切断したこの人物は連続誘拐殺人犯、蛭間であった、「ヴゥゥワーワーーー、ワァーーーーーー!」やがて作業を終え、血で染まった床から立ち上がると、口を塞がれながらも泣き叫ぶ男性に目を向けた、「ヴゥーーー、」蛭間はゆっくりと歩き男性の前に立ち尽くすと、塞がられたロープを剥がした、「お前は人間じゃない!こんなことをするのは、人間じゃない!、お前は悪魔だ、子供を帰せぇぇぇぇ!」 すると蛭間は、右手で男性の口を再び塞いだ、「嘆くなら、この世に俺を産んだことを、嘆くんだな、ギャハハハハハ!」 すると、そのまま蛭間はカッパのポケットに入れていたナイフを取り出した。

二時間後、小屋を出ると先程まで激しく降り続いていた雷雨は既に止んでいた、蛭間はふと後ろを振り向くと、思い出しかのように、着ていたカッパを小屋の外から脱ぎ出し、赤く染まったカッパを小屋の中へと放り投げた、蛭間が殺害した二人の死体はそのまま遺棄した状態で、近くに止めていた車に乗り込み、蛭間は走り去っていった。





翌日の朝、小屋から遠く離れた海沿いの道路に車を止めて車中泊をしていた蛭間は、窓から差し込む陽の光によって目を覚ました、目を擦りながら片手でハンドルを掴み、体を起こすと、その時、バックミラーから映る後部座席に見知らぬ人物が座り込んでいた、すぐに察知した蛭間は助手席のシートに置いていたナイフを手に取り、見知らぬ男を殺そうと動いた瞬間、見知らぬ男は蛭間の動きを痛めつけながら封じて素早くナイフを奪った、「グッゥゥ、お前、警察か?」  蛭間は殴られた鼻を抑えながら、何者なのか、後部座席にいる男に問いかけた、「まさか、殺人鬼が先に始末してくれるとはな、思いもよらなかった、」すると、男は笑みを浮かべながら蛭間に名刺を手渡してきた、困惑しながら男の名刺を受け取ると、そこに記載されていたのは、大手製薬会社である山瀬製薬の会社役員ポストに着く佐原と言う人権であった、「さっきの動き、お前ただの社員じゃないな?」    「フッ、あなたの言う通り、そこに書かれているのはただの肩書き、私は製薬会社の裏で仕事を受け持つ、簡単に言えば始末屋とでも言うのか」 その佐原という男の言動に蛭間はますます危険な香りが漂い始めた、「昨晩あなたが殺害したのは、我が社の開発部門に携わっていた研究者だ、奴は極秘で開発したサプリのファイルをマスコミに漏らそうとしていた、お陰で仕事をせずにすんだ」     「それで、俺を警察に突き出すのか?」蛭間は不安げな表情で佐原に問いかけた、「フフッ、君のような人材を警察に突き出すには勿体ない、君に一つ仕事を引き受けて貰いたい、極秘ファイルの情報を唯一手に入れた、益本という記者がいる、この記者の息子を拉致するんだ、」  訳のわからないこの男を信じていいのか、蛭間の疑いはまだ残っていた、「その代わりと言ってはなんだが、君を匿う場所を用意してやろう、フッ、フフッ」

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