少女の救出

それは仕事から帰宅した時の事であった、「悪いな、すぐ着替えてからまたそっちに行くから」吾妻は自身の車を自宅前の駐車場へと止め、車のエンジンを切ると、まだ夜分まで署内に残る葛城と連絡を取っていた、「いいんですよ吾妻さん、滅多に家族と会えていないんですから、あとの資料は自分に任せてください!」 葛城は刑事という仕事に没頭する吾妻を気遣い、そう言いかけた、「いや、俺もまだ事件について調べたいことがあるからな、電話を切るぞ、」そう告げると吾妻は通話を切って、疲れた身体を吹っ切って車から降りた、一方の署内にいる葛城はパソコンに目を通しながら頭を悩ませていた、「三つも事件が起きているのに、一向に容疑者の姿が監視カメラに捕まらない、一体どうなってるんだ?」葛城はタメ息をつきながら眠気ざましでデスクから立ち上がり、刑事課のテレビをつけた、「こんなにも見つからないと言うことは、誰かに匿われているのか?」次々と読み上げられるニュースを耳にしながら葛城は心の中で問いかけつづけた、「次のニュースです。◯◯大学病院内にて、入院していた患者一人が急性中毒によって亡くなりました、現在警視庁が明日から捜査する予定です」 

ふと葛城は、大きなあくびをすると、眠気を覚ますために缶コーヒーを買うため自販機へと向かって行った。

「ピーンポーン!、ピーンポーン!」玄関前へと着いた吾妻は家で帰りを待つ二人に向けて、二回インターホンを押した、その時、一階のベランダから不穏な物音が聞こえてきた、「?」 少し気になりながらも、中々玄関から出てこない二人に、もう一度インターホンを押した、「ガサガサ!」すると更にベランダから聞こえてくる音が大きくなっていく、異変を感じた吾妻は警戒しながらベランダの方へと歩み寄っていた、次の瞬間、突如自宅の内部から大きな爆発が起きた、周辺にいた吾妻は爆風によって身体を投げ出された、次に目を開けた時には、変わり果てた真っ赤に燃え上がる家が目の前にあった、「あ……ウワァーーーーーー!、あぁ……アァァァァァァ!」 吾妻の足首は負傷しており、絶望を突きつけられ泣き叫びながら地べたを這いつくばり、燃え上がる家の中にいる妻と娘を助けよとうとした、しかし、「ボーン!」更に炎の勢いは増していった。





「彼女はあなたの娘とは違うんです!、吾妻さん!」ふと我に帰った吾妻の額には汗が溢れ落ちていた、「あんた大丈夫なのか?」負傷して動けない山崎は吾妻の様子を見て不安を感じていた、「大丈夫、…心配ない!」そう応えると、葛城は山崎と違って信頼を託して二つの連絡を取り始めた。

列車の外はもうじき日が暮れて暗くなって来ているそんな時、「ブッブーン!」身体を潜めて返信を待っていった緋梨は、連絡が来ると、すぐさまLINEを開いた、送られてきてた文には、これからの動きについてのものが記されていた、「今から数分後に、列車は全てが緊急停止される、車内が暗くなった瞬間、緋梨ちゃんは急いで3号車まで逃げてくるんだ、そこにいけば、君を救出出来る、私を信じてくれ」そう緋梨にメッセージを告げた、もうじきはやぶさは終点の東京駅へと刻々と近づいてきている、吾妻と葛城、そして緋梨には緊迫とした緊張感が流れていた、ふと緋梨は、前の座席に座り込む蛭間の方を覗くと、大人しく席に座って窓を眺めていた。

4号車にて列車が停止されるのを待つ二人は、じっと拳銃を握り締め待ち構えていた、「ドクドク、ドクドク!」心臓の鼓動が高まり、息を深く呑み込んだその時、突如としてはやぶさ全車両内の電源がシャットダウンされ、辺りは一気に暗闇とかした、「ギィィィィィィィィィィィィィ!」突然電源が落ちたことで、列車は急激なブレーキがかけられた、二人は思わず、前からドアに身体を打ち付けた、一方の2号車でも、突然明かりが消え、急ブレーキがかけられた事で、蛭間の身体は前へ投げ出されパニックに陥り始めたその時、座席のシートで身を防いだ緋梨はすぐさま、座席から飛び出し、2号車の脱出へと走り始めた、蛭間は逃げ出す足音に気がつき、無我夢中で拳銃を取り出し発砲し始めた、「バーン!バーン!」逃げだす緋梨は恐怖に怯えながら急いで2号車の扉を開き、3号車へと繋がる扉を開けようとしたその時、「ガコン、ガコン!」何故かこの緊急事態時に、3号車の扉はロックされていた、その事に気がついた緋梨は力ずくで何度も何度も扉を開けようとした、「ガコン!ガコン!」その音によって暗闇の感覚を掴み始めた蛭間は音のする方へと歩み寄って来た、このままでは確実に殺される、絶望を感じ涙目になってその場に崩れ落ちた、次の瞬間、「バァーーーン!」突然背後からドアの窓を突き破って拳銃が撃ち込まれ、蛭間の頭部に弾が直撃した、すると、衝撃の銃声音が鳴り終わった次には、緋梨を後ろから抱き抱える吾妻の姿があった、「逃げるぞ!」そう告げると、吾妻は緋梨を抱き抱えながら四号車の方へ走り出した、「ブッ殺してやロォ、ブッ殺してやるよ!」蛭間は僅かに頭部へと当たらず、頭から血を流しながら何も見えない暗闇の中を無我夢中で、吾妻を追いかけ始めた、「ブッ殺す、殺す殺す!」やがて蛭間は吾妻の背に向けて拳銃を振りかざした、すると突然、列車の車内電源が復旧し、眩しい光が蛭間の視界を覆い始めたた、目を瞑った僅かな瞬間、再び目を開けると、横には蛭間の顔に銃口を突き付けた吾妻が立っていた、そして目の前には、同じく銃をこちらに構える葛城、そして人質としていた緋梨は葛城の後ろに隠れて立っていた。

「武器をよこせ、」そう言うと吾妻はゆっくりと拳銃のレバーを卸した、「早く、、よこせ!」すると蛭間は突然、不適な笑みで笑いながら両手を上げて、ゆっくり吾妻の方に身体を向けてきた、「懐かしいですよ。その顔、」蛭間は吾妻の目を見た瞬間、吾妻を嘲笑うかのように呟きだした、「確か最後にあなたの顔を見た時は、火事だったかな」蛭間はニタニタと笑みを溢しながら吾妻に詰め寄ってきた、「今すぐ黙れ蛭間!」 葛城は挑発する蛭間に警告を叫んだ、「吾妻さん!、こんな奴に耳を傾ける必要はありません!」

「・・・・!」 吾妻は蛭間の頭に拳銃を突き付けたまま、沈黙を続けた、「あなたの娘さん、フフフ、可愛い子だったなぁ」     「さっさと黙れ!これ以上喋るつもりなら、引き金を引くぞ」蛭間は葛城の警告を気にもせず、異様な目付きで吾妻の目を睨み付けた、吾妻が拳銃を持つ右手は、怒りを抑えようと震えだした、「吾妻さん!挑発に乗るな!」  そして蛭間は最後に吾妻の右手を掴んで一言放った、「あんたは何も救えなかったな、」 すると吾妻はグッと抑え込んでいた憎しみを震え上がらせて雄叫びを上げた、「ヴヴゥゥゥゥワァァァァァァァァァァァァァァ!」 

右手で握り締める拳銃を両手に変えると、吾妻は銃口を蛭間の頭部へ突くと、蛭間をそのまま壁へと押し付けた、「ドン!」 蛭間は変わらず笑みを浮かべながら床へと座り込んで、睨み付ける吾妻を見上げた、「はぁ…はぁ…!」

強く拳銃を握り締め続ける吾妻は、ふと睨み付ける蛭間から視線を外し、横を振り向いた、「お前はまだここでは死なせい。法によって裁きを受けさせる。あの日は俺は、それが残された者の唯一の復讐だからな、」 吾妻の視線の先には助け出した緋梨の姿が見えていた、「カァカァカァ!」 拳銃を卸した吾妻を見ていた蛭間は、目を瞑りながら無意味に笑いだした、しかし、その時であった、拳銃を卸した筈の吾妻は、今度は葛城に向けて銃口を向けたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る