決断

「バタン!」再び6号車へと戻ってきた吾妻は緊迫した様子で携帯を覗き、見知らぬ人物のLINEから、その場で電話をかけた、「この匿名の人間が、列車の扉をロックしていたなら、警察が乗り込む前に列車を走らせることも可能なのかも知れない、」 しばらくの間着信音が鳴り続けるなか、吾妻の心の中で様々な憶測が渦のように駆け巡った、すると、突然電話が切られ、すぐに一通のメッセージが送られてきた、吾妻はすぐに携帯を耳から離しメッセージを覗いた、「まさか、あなたから連絡をしてくるとは驚きましたよ、吾妻佳佑」 そうLINE上からメッセージが送られてきていた、すると吾妻は目付きを尖らせながら相手にメッセージを返し始めた、「お前が列車を走らせた事は等にわかっている、何者なんだ、お前は?」 既に自分以外誰も乗車されていない6号車内に携帯もって佇む吾妻には、張り積めた沈黙が流れ続けた、すると連絡が返ってきた、「それよりも他にすることがあるだろう、蛭間の復讐を果たすには、まずあの娘を解放するんだ、」 その返信を見た吾妻は、ゆっくりと携帯から目を離すと、周囲に監視カメラがないか見渡し始めた、「やはり、お前が列車を?」 

「最後に忠告しておこう、もし蛭間が生きたまま終点駅へと到着した場合、列車に取り付けられた爆弾が起動する、タイムリミットは既に近づいてる。」 そう送られてきたメッセージに吾妻の目は驚愕した。

  


「バタン!」突如として四号車の扉が勢いよく開いて吾妻が急いで駆け込んできた、その頃、負傷する山﨑の治療を行っていた葛城は、突然来た吾妻の表情を見ると、疑問を浮かべた、「何かあったんですか吾妻さん?」 吾妻は焦りを隠しきれない様子で頭を右手で抱え込みながらその場を彷徨き始めた、「吾妻さん!教えてください、何があったんです?」すると吾妻はグッと目を瞑り、足を止めると、意を決してその場にいる二人に打ち明け始めた、「終点の東京駅に着くまでに緋梨ちゃんを何とかしなければ、この列車は爆発する!」そう告げた吾妻の言葉に二人は動揺した、「そんなの、…聞いてないぞ!それはあんたのでっち上げだろ!」 肩を抑えて座り込む山﨑は怒りの表情で強い言葉を言いつけた、「大体、何で公表を極秘にしていた移送計画を知っている奴がいるんだ!」  「吾妻さん、連絡をかけてきた人物に心当たりはありませんか?、」    「いや、俺にも検討が……」  何故連絡してきた人物はこれ程までに蛭間に恨みを持っているのか、俺と同じように復讐の事だけを考えている、吾妻の口は突然止まり、ある人物の顔を思い浮かべ始めた、同じように蛭間へ大切な物を奪われた人間、「まさか…」   「心当たりのある人物がいるんですね、」葛城はグッと息を呑み込んだ、「それよりも先に葛城、どうにか俺達で緋梨ちゃんを助け出すしか他にない、」     「ですが、今蛭間に動きが張れれば、緋梨ちゃんの命が危険ですよ!」 すると吾妻は葛城の襟を掴み言い寄った、「どっちにしろ動かなければ、助かる道はない、そうだろ、」 厳しい状況に置かれているなか判断を迫られる葛城の表情は苦しかった、その時、「やってみる価値はあるかもしれない、あれを見てみろ! 」そう葛城に囁いてきた山﨑はある方向を指差した、振り向いた先にあったのは、車内の廊下へ置きっぱにされていた

緋梨ちゃんの母親の携帯であった、葛城はすぐさま吾妻の顔を見つめ静かに頷くと自身の携帯を取り出した、「まだ1号車にいる班長に連絡してきます」。





「一課長!清原から新たに報告です。どうやらはやぶさのシステムをハッキングしている容疑者がいるようです、」清原からの連絡を受け取った管理監の髙村は同じく本部に居座る一課長の鈴木にそう報告した、「やはりか、髙村管理監、すぐさまサイバー班に連絡を」  「わかりました、すぐに伝えます!」髙村は足早に本部から立ち去ると、本部のデスクに座ったままの鈴木は、周囲の視線を気にしながら携帯を開くと、メールの欄から一通の通知が送られていることに気がついた、すぐさま通知を開くと一枚の写真が添付されていた、鈴木は釘付けになって添付された写真を覗き込んだ、「D 、E、O、?」写真には謎の3文字が映っていた。







母親の携帯を床から手に取った吾妻は、一度葛城の方を振り向き、どうするべきか問いかけた、「今から話す計画は全て緋梨ちゃんにかかっています、携帯を貸してください、緋梨ちゃんに連絡をかけます」。

その頃、2号車にて蛭間の人質として捕らえられている緋梨は、じっと黙り込みながら窓の外を眺めていた、一方の蛭間は、ある男に連絡をかけ続けているものの、全く繋がる気配がなく、終始苛ついた様子を見せていた、「チッ、どいついもこいつも裏切りやがって!、ブッ殺してやる!」すると溜まった怒りを近くにあった亡骸に拳銃2発をブッ放した、「バンバーン! 」 長い時間同じ空間に居合わせる緋梨の感覚は既に麻痺し始めようている、そんな時、「ブッブーン!」ズボンに閉まっていたキッズ携帯から通知が送られてきた振動が来たことに気がついた、ふとその瞬間、恐る恐る蛭間の方を覗き込んだ、「チッ、チッ、チッ、チッ、」蛭間は通知が来たことに気付いておらず苛つきながらまだ電話をかけ続けていた、緋梨は蛭間に張れないよう音をたてずにポケットから携帯を取り出し、慎重に携帯を起動させホーム画面を開いた、すると緋梨は座席のシートの下へと潜り込み息を押し殺してLINEを開いた、LINEには母親の携帯から現在の状況を教えてくれとの連絡が送られてきていた、その瞬間、緋梨の目からは涙が溢れ落ちそうになり始めた、「ピローン!」。

「吾妻さん!」4号車内で緋梨ちゃんからの連絡をじっと待ち望んでいた3人は携帯の通知音から、緋梨ちゃんからの連絡であるということを察知すると、安心した喜びを見せた、「葛城!、彼女はまだ無事だ、今度こそ助けるぞ」  「勿論です!」 吾妻は山崎から拳銃を借りると、救出の準備に取りかかり始めたその時、妻と娘が殺されたあの日の事が鮮明に蘇り始めた、「はぁ…はぁ…!はぁ……!はぁ………!!」 気が動転し始める吾妻に葛城は言葉を投げ掛けた、「吾妻さん!、彼女はあなたの娘とは違うんです」。

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