動き出す影

「これより緊急テロ事件特別対策チームの会議を始める!」会議は一課長の鈴木によって開始された、「今事件は、連続猟奇殺人犯蛭間の移送計画の途中、容疑者は何らかの方法によって複数の警護人を殺害、それによって乗客の一部がパニックとなり、早田緋梨ちゃん6歳の少女を人質に取った。」 会議室に居座る捜査員達は真剣な眼差しで本部に目を向けている、すると会議は次に管理監の高村へと移った、「現在容疑者が乗車する新幹線はやぶさは間もなく盛岡へと到着すると考えられます、我々は県警との協力で容疑者を確保もしくは、最悪の場合、射殺も厭わないと命令が下されています。」 すると一課長の鈴木は大きくテーブルを叩くと鋭い視線を捜査員達に浴びせながら立ち上がった、「何としてでも人質の解放が最優先だと考えてくれたまえ!すぐさま到着駅にて緊急配備!」 

「はい!」一斉に捜査員達は立ち上がり返事を返した。




その頃五号車内は、葛城と清原の連絡に任せる他、行動に移せることが無い状況であった、「全く、飛んだ災難だなこれは…」そう呟きながら記者の男はブツブツと呟きやながら五号車の方へと歩いていった、その頃吾妻は座席に座りじっと目を瞑りながら深く何かを考え込んでいた、そして矢部は不安に押し潰されそうになる母親に寄り添っていった、「班長、本部は何と?」 

未だ1号車内で動けずにいる清原は先ほどまで騒がしくている後ろの車両に疑問をもつ乗客の視線に、上手く誤魔化しながら葛城の通話を受けていた、「もうじき列車は盛岡駅に着く、その時に整備点検と誤魔化して岩手県警が応援に来る予定だ

」 「えぇ、」    「お前は何か言い掛かりを付けて乗客を避難させるんだ」 「了解です」 ふと葛城は携帯を耳から話すと、携帯の画面に映し出される時計を確認した、「ガタン!」

ふと五号車の連結部分から物音がした事に気がつくと吾妻は目を開けて、後ろの方を振り向いた、連結部分には見知らぬ一人の男性がトイレに入る瞬間が見えた、すると、「貴女方も、盛岡駅に着いたら降車して避難してください」 そう話しかて来たのは警護人の山崎だった、母親の少女が人質となっていることで車内の空気は重く包まれていた、吾妻は母親の方を振り向くと、母親は床に携帯が落ちているのさえ気にする余裕はなく、ハンカチで顔を抑えながら酷く悲しんでいた、そんな時、ふと隣に座る矢部と吾妻は目があった。



10分後、新幹線はやぶさはようやく盛岡駅へと到着した、ふと吾妻は窓に映る駅のホーム見ると、階段には既に何人かの警察官が到着しているのが見えた、ようやく1号車へと出ることが出来る清原は一度、状況を説明するため車掌のもとへと向かった、「塚本さん、大事なお話がありまして」清原はノックをしながら最初にそう口にした。そして四号車は、車内の扉が開くと、葛城、山崎の二人が三人を外へと促すように動き始めた、「早田さん、行きましょ、娘さんはきっと警察が助けてくれる筈です!」母親の肩を支えながら矢部は四号車へと降りた、吾妻も立ち上がり車両から降りようとしたその時、ふと物音がした五号車の連結部分に目を向けた、「吾妻さん?どうしたんです?」  「いや、気づいてない人がいるみたいだからな」 その言葉に葛城は動揺すると、吾妻は降りずに五号車の連結部分へと歩き出した、「ちょ、ちょっと何してるんですか吾妻さん!、早く降りて貰わないと、」 既に後部車両では乗客は訳がわからないまま警官に列車を降ろされている、警官の案内で列に並ばされる駅のホーム内の人集りには、6号車に乗車していた老夫婦や学生の姿が見える、葛城は困惑しながら吾妻に早く降りて貰うよう後を追いかけた、「バタン!」四号車の扉を開いた吾妻はすぐに、トイレに籠る男性へ知らせるためにドアをノックした、「コンコン!」しかし、全く反応が返ってこなかった、不審に感じながらも吾妻は再び二回ノックをした、葛城もすぐ側で疑問を浮かべながらも中にいる男性を待った、「中々出てきませんね」葛城も不安に感じて、トイレのドアをノックし始めた、「すいません、大丈夫ですか?」 しばらくの間トイレに目を向けていると、次の瞬間、「列車から降りろ!」突如列車の外から声が聞こえてきた、吾妻はすぐに声のする外を振り向くと、そこにはあの記者の男がこちらに向けて必死な様子で叫んでいた、「そこから今すぐ逃げろー!、警官が撃たれた!」 その叫び声が聞こえた瞬間、吾妻の携帯から通知音が鳴と共に、突如として列車の扉が閉まり始めた、「ガシャン!」 「おい!葛城、何か様子が可笑しいぞ?整備点検で停車するんじゃ無かったのか」  その時、トイレ内に閉じ籠っていた男が突然ナイフを所持して、扉を抉じ開けて葛城に襲いかかってきた、「ハッ!、」すると吾妻の目線の先には洋服に血潮が着いた謎の男が拳銃を所持して、吾妻に銃口を向けていた、ふと後ろを振り向くと、床に押し付けられる葛城の姿がある、次の瞬間、「バン!バン!」ナイフを所持して襲って来た男は近くにいた山崎の発砲により二発が頭部へと命中し絶命した、「吾妻さん!、伏せて下さい!」その山崎の呼び掛けと共に急いで吾妻はトイレ内へと身体を投げ込んだ、吾妻がその場から離れた瞬間、お互いに複数の銃弾が撃ち込まれた、「バン!バン!バン!バン!」 山崎の放った弾は謎の男の腹部を捕らえたものの、当の山崎も左肩を撃たれてしまった、「グフッ!」出血しながら山崎は車両の壁へともたれこんだ、「山崎!無事か!?」葛城は急いで起き上がり山崎のもとへとかけよった、「俺としたことが撃たれたちまったよ…畜生、」 

「お陰で助かった、任務が終わったら飲みにでも奢ってやるよ!」

ふとトイレ内から起き上がった吾妻は、二人の方を一度見ると、すぐに撃たれた謎の男のもとへ駆け寄った、拳銃をすぐに奪うと、吾妻は銃口を男の頭に突きつけた、「お前ら何者だ?」

吾妻は睨み付けて男に詰めよった、しかし、段々と男の目線は遠退いて行く、「お前らは誰に頼まれた!」しかし、次の時にはもう男は亡くなってしまった、すると、今度は止まっていた列車が再び走り始めてしまった、「おい待て!、まだ緋梨ちゃんは取り残されてる!止まるんだぁぁ!」 しかし、吾妻の意思とは空しくはやぶさは次の駅へと走り出した。





「取り逃がした?、一体どう言う事だ!」本部に居座る鈴木の無線からは、乗客のほとんどがはやぶさから降りたものの、人質に捕られたままの緋梨ちゃんの救助は成されず、再び列車が走り出したという報告であった、「我々の計画では、整備点検を偽りS・A・Tを送る筈であった、だがそれが実行される前に列車は走り出した、」鈴木は深く眉間に皺を寄せながら考え始めた、「一課長、次に停車される駅で警察の配備が間に合うのは大宮駅だと考えられます、すぐさま埼玉県警へ緊急配備、」

「待て、高村管理監。」 突然鈴木は片手を上げて高村の話を遮った、「恐らく列車は東京駅まで止まらないだろう…」 その発言に高村は動揺した、「それはどうしてですか?」   

「何か妙な感が働いてな、もしかすると警察内部に裏切り者がいるかもしれん」 鈴木はそう呟いた。




「吾妻さん!、あの男は?」吾妻のもとへと駆け寄ってきた葛城は、吾妻の表情を見ると嫌な予感を感じた、「素性を聞き出す前に亡くなった、」そう吾妻は呟くと、亡骸となった眠りにつく男の方を振り向いた、「どうして突然新幹線が走り出した?」   「私にもわかりません、本部からは盛岡駅にて蛭間に対処すると報告があったのに、何があったのかさっぱり?」 すると吾妻は前の車両を鋭い視線で睨み付けるように目を変えると、困惑している葛城に一言放った、「一人心当たりのある人物がいる」 その言葉に思わず葛城は驚いた表情を見せた、「それは誰ですか吾妻さん?」 葛城が問いかけるも吾妻は返答せず険しい表情のまま誰もいない6号車の方へと戻っていった、「しばらくここを離れる、」吾妻はそう言うとすぐさま携帯を取り出しながら葛城のもとへと去っていった、起動させた携帯の端末からは

蛭間の情報を差し出してきた、あの見知らぬ相手のLINEが映っていた。

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