幼い少女

新幹線はやぶさが発車されてから一時間半を過ぎ、移送計画の現在の状況には大きく事態が深刻と化していた、「バタン!」 四号車の扉が閉まり、吾妻と葛城は緊張状態の中で車内へと入ってきた、突然のテロ事件に騒然とした三号車にいた乗客はパニックで既に四号車は少人数でしか残っていなかった、「あの…前の車両で何かあったんですか?」車両に残っていた一人の女性が二人に不安げな様子で問いかけてきた、「警視庁の葛城と申します、実は特例でもしもの事態に備えた訓練を行っておりまして、申し訳ないのですが安全の為、後部の車両へと移動をお願いします。」 葛城は吾妻と静かにアイコンタクトを取りながら、冷静さを装って女性に避難するよう呼び掛けた、しかしその時、「人が殺されているのに訓練とはわ冗談でも笑えねぇぞ、葛城さん」 そう言葉を発してきたのは、同じく四号車に留まっていた記者の男であった、その人物の発見に葛城はつい頭を抱えた、「え?殺人…一体どういう事ですか!?」 「殺人鬼が乗っている、この列車には猟奇的連続殺人犯が乗っているんだ!」 女性の不安を気にする気遣いをせず、単純な応えをその女性に返した、「待って下さい吾妻さん!、そんなことを口にした更に乗客へ不安を仰ぐ事になってしまいます」 「事態は既に危険と化している、乗客が前の車両に来ないようこの方法がうってつけだと思う」  「ですが、この事が世間に知れ渡れば…」 すると葛城は突然口を摘まんだ、「これ以上知られないよう極秘で、彼女を救い出させます、吾妻さんもこれ以上は足を踏み込まないようお願いします、」そう葛城は吾妻に言い放つと、何者かに電話をかけ始めた、その時、「バタン!」 5号車の扉が開き騒がしくこちらに数人が入ってきた、「待ってください、お母さん、娘さんは汲まなく探していますから」 そう話してきたのは、蛭間の人質に囚われている少女の母親であった、その母親の後ろには、後部車両で待機していた同じく特別警護班のメンバーの一人である山崎と、最初に吾妻が座っていた6号車の中にいたあの親切な同年代の女性であった、「あのすいません!私の娘の緋梨を見ていませんか?」  母親は始めに葛城へ問いかけに来たものの、こちらの存在に気がつくと、必死な様子で吾妻に問いかけてきた、「私の緋梨を見ませんでしたか!?」母親の表情はじっと涙を堪えて娘を見つけ出そうとしている心情がひしひしと伝わってきた、しかし吾妻は母親へ簡単に応えを返すことが出来なかった、「お願いします!娘がどこにいるのか、僅かなことでもいいので、私に教えてください」 すると吾妻は一度視線を葛城の方へと向けた、お互いに険しい表情を浮かべると、葛城は黙り込んだまま吾妻に相槌をうった、「お母さん、私警視庁特別警護班の葛城と申します。恐らく娘さんは今、」すると葛城は母親に耳打ちをしながら視線を三号車の扉へと向けた、母親もそれに連れて視線を向けたその時、自分の娘が今、どのような状況に陥っているのか理解すると、じっと抑え込んでいた感情が抑えきれず、その場から崩れ落ちるように叫びながら膝を着いた、「イャアァーーーーーー!、緋梨ーーー!」  

四号車の車内にいた者達は母親の叫び声に胸が締め付けられた、「お母さん!今中に入ったら危険です!」 そんな時、聞き覚えのある声が耳に入った、「あの、逃げた人はどうしたんですか?、もしかしてその人が、緋梨ちゃんを」 そう吾妻に話しかけてきたのは、同年代の女性であった、「あ!、、実は彼の正体を探る前に、」  「テロリストに殺害されました、」突然葛城が口を挟んでそう応えた、「殺害された!?、やはり何かあったんですね、6号車にいた皆さんが心配なさっていたので、そうですか残念です。すいません挨拶が遅れまして、私、矢部と言います」

「いえ、そうでしたか。吾妻と言います、この事はなるべく後ろの車両に避難した、まだ気づいていない人達には内密にお願いします。」  そう言うと矢部と名乗る女性は不安げな様子を浮かべながらも了承した。「おい葛城!、2号車にいた奴らはどうしたんだ?」まだ状況を呑み込めていない山崎は焦る様子で葛城に問いかけてきた、「小遊鳥と神室警部達は恐らく、何らかの事態で

全員が蛭間に殺害されたのだと思います。」葛城も険しい表情を浮かべながらじっと山崎の顔を見ながらそう応えた、「班長は今どこにいる?、」山崎がそう告げると、葛城は思い出したかのように慌てて班長である清原に連絡をかけた。





警視庁刑事課の部署を飛び出し、廊下を足早に歩く岡元警視正の隣で必死に着いていく、管理監の

高村は深刻な様子であった、「清原の報告では、現在被疑者は人質を取り、2号車から3号車の間で立て籠っているとの報告が上がりました」

「特別班の被害はどうなっている?」

「2号車内で蛭間を監視していた、警護班1名、神室、緒方、佐藤が殺害されたと思われます。」そう高村が話した報告に岡元警視正は落胆したのを隠しきれない苦い表情を浮かべている、「高村管理監、すぐさまテロ事件特別対策チームを整えろ、それと、メディアに情報が漏れるのは時間の問題だ、今回の失態が漏れる前に事件を片付けろ、最悪の場合、被疑者の射殺もやむを得ない事とする。」 岡元は重圧をかけながら高村にそう命じると、そのまま足を止めること無く、上層部が集まる会議室の扉の前へと歩き続け、中へと入っていった、廊下に残された高村は思わず息を吐くと、急いで対策チームの設立へと走り出した。




その頃、はやぶさ二号車内では、人質に捕らえられた幼い少女である緋梨は、蛭間の手によって、大人しく近くの座席へと座らせられていた、その時蛭間は右手で銃を握りしめた状態のまましゃがみこみ、自らの手によって射殺した男の懐を漁っていた、終始蛭間がその死体へと目を向けている隙に、緋梨は四号車の方に視線を向けると、突然蛭間は立ち上がり、緋梨は慌てて視線を前へと向けた、すると蛭間の左手には男の携帯が握られていた、蛭間はじっと携帯の画面を見詰めながら緋梨とは逆の座席へと腰を卸すと突然、視線を向ける事無く握っていた銃を緋梨の方へと銃口を向けた、幼い少女にとって計り知れない恐怖が襲い続けている、グッとこの恐怖感を必死に我慢して緋梨はじっと目を閉じた。

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