心の闇

「皆逃げろぉぉぉぉぉぁぉ!」葛城が車内で放ったその叫び声で、一斉に周りにいた乗客は血だらけな状態の緒方の方へと視線が向けられた、その瞬間、一気に三号車は一人の女性の叫び声と共にパニックと化した、「キャーーー!」 「皆後ろへ逃げろぉ!」三号車に乗っていた乗客は一気に四号車へと繋がる通路へと走り出した、その時葛城は、三号車の前席へと残ったまま、すぐさま拳銃を抜き取った、「これはとんでもない事になったぞ、」そう呟きながら薄ら笑みを見せて座席へと残っているのは例の記者であった、記者もすぐさまカメラを取り出すと、葛城の後ろ姿をシャッターで撮った、「助け…て…くれ……!」這いつくばりながら必死に葛城へ手を伸ばそうとしたその時、「ブスッ!」 ゆっくりと近付いていた蛭間がガラスの破片で緒方の首を切りつけてしまった、その瞬間、緒方は帰らぬ人となってしまった、殺害される瞬間を目の当たりにした葛城は、怒りが込み上げ、拳銃のレバーを下ろし、銃口を蛭間の顔へと構えた、「貴様💢今何をした?」

「ヘッ?何?」 蛭間は薄ら笑いをしながら葛城の方を振り向いた、「何をしたのか、今すぐ応えろぉぉぉ!💢💢」    「だってこいつ目障りだったから、へへッ、」  そう応えると蛭間は葛城を嘲笑うかのように笑い始めた、「貴様……!」次の瞬間葛城は、蛭間を取り抑えようと迫っていった、それを察知した蛭間はすぐに右手で持つガラスの破片を握り締めて、葛城に向けて、その凶器と化した刃物を葛城に向けてきた、「ブン、ブン!」大きく振りかぶりながら刺し来ようとするのを葛城は交わすと、破片が葛城の頭上へと向かってきた、「グギャゥァァァァ!」葛城は両手でどうにか蛭間の右腕を握り締めた、「ギャハハハハ!」蛭間は何がなんでも力ずくで葛城を刺し殺そうと反動をつけながら、襲い続けた。



「早く逃げろー!」叫び声と共に多くの乗客が四号車へと避難してくることに吾妻は何が起きているのかわからなかった、その時、目を離していた黒のダウンを羽織る若い男が、逃げる乗客の間をすり抜けて四号車へと逃げ出していった、「おい、待て!」吾妻はその事に気がつくと慌てて逃げていった三号車の車内へと人混みを掻き分けて入り込んだ、「ガキン!」その時、葛城は車内の壁に蛭間の持つガラスの破片を弾かせて、何とか危機を回避していた、武器を失い右手が血だらけとなった蛭間に、葛城はすぐに関節技を決めて蛭間を床にねじ伏せた、「大人しくしてろ、ありかは誰が持っている、今すぐに答えろ!」葛城は強く力を入れて蛭間の腕を下へと押し付けた、「おい誰だお前!写真が撮れねぇじゃねえかよ、」ふと声のする前方に顔を上げると、そこには例の記者を押し倒して、拳銃を持って歩いてくる若い男が向かってきていた、「おい待て!まだ話しは終わってないぞ」その男の後ろから追いかけてきたのは葛城がよく知る男であった、「吾妻さん?」

突然自分の名前を呼ばれた吾妻は、動揺しながら声のした方へと歩いていった、「お前…葛城か?、」するとこちらに気づいた葛城は薄く笑みを見せながら頭を下げて挨拶をしてきた、「ご無沙汰しています、ところで、どうしてここに吾妻さんが?」 吾妻がまだ刑事として働いてい現役時代、最後に相棒を組んでいたのは、かつてまだ若手の立ち位置にいた葛城であった、葛城からの問いかけに吾妻はすぐに応えられなかった、そんな時、先に吾妻の前へ歩いていた若い男が、持っていた拳銃を葛城に向けてきた、「ジャキン!」

勢いよく振り上げた拳銃にやがてレバーが卸された、「何してんるんだ?あんた!」突然葛城に銃口を向けた事で記者の男は大きく動揺し始めた、「この男、一体何者ですか吾妻さん?」 葛城は若い男を睨み付けながら冷静に手を上げて立ち上がった、「私の携帯から連絡をしてきたのは、やはりお前だな、」そう吾妻は発言すると、若い男は不審な様子で問いかけてきた、「連絡をした?それは何の話だ、とにかく今は大人しく蛭間以外の人間はここから退出しろ!」強く拳銃を握りしめながら若い男はそう言い放った、「素性の知らない人物にイカれた野郎を野放しにさせるか」

葛城は屈すること無く徐々に若い男へ詰め寄ってきた、「ヒィィィィィ!」すると、この緊張感に耐えられなくなった記者は怯えながら四号車へと逃げていった、「さぁ…お前達もあいつの様に出ていけ」 若い男は拳銃を使って出ていくよう促した、その頃、床にうつ伏せの状態になったままの蛭間は、何も考えること無く周りの会話を聞き流していた、すると、たまたま見えた視線の先には、座席の下に怯えながら身を隠す少女の姿を見つけた、その瞬間、蛭間の口元がニヤケた、「今から3秒後にでなければ、お前の頭へ引き金を引くぞ」 等々若い男は、葛城の頭部に銃口を突きつけた、しかし、後ろにいる吾妻に突如衝撃が走りだした、「避けろぉぉぉ!」そう叫んだ瞬間、葛城の後ろにいた蛭間は起き上がり、腰に戻していた葛城の拳銃をそのまま奪い取った、「バァァーーーン!」 蛭間は何も躊躇することなく、目の前にいた若い男に向けて引き金を引いた、「ヴゥッッ!」どでかい発砲音と共に、若い男の持っていた拳銃は列車の床へと落ちて行き、撃たれた腹部を抑えながら意識を失って倒れた込んだ、蛭間は次に再び吾妻に向けて銃口を突き付けようとしたその時、咄嗟に動いていた吾妻は、蛭間の両手首に掴みかかり拳銃を奪い取ろうと抵抗し始めた、「葛城!抑えつけろぉぉ!」  一瞬何が起きたのか理解が追いついていなかった葛城は、吾妻の叫び声によって慌てて吾妻と共に蛭間から拳銃を奪う事に協力した、激しい揉み合いと化しながら、天井に二発、弾が暴発する事態となった、「このゲス野郎がぁぁ!」 葛城がそう強い言葉で蛭間に言い放った瞬間、ようやく二人は蛭間から拳銃を引き離すことに成功した、「ドサッ!」大きな力で振り払われた蛭間は座席の方へと投げ出されて体を打ち付けていった、「はぁ…はぁ…、今すぐこの男を拘束します、吾妻さん拳銃を渡してください」 荒い息づかいをしながらそう話すと、葛城は吾妻に手を差し出した、ふと拳銃を見つめた吾妻は、渡す前に一度蛭間の方を振り向いた、蛭間は焦りを感じさせない不吉な笑みを浮かべてこちらを見ていた、その時、「ガチャリ、」 吾妻は持っていた拳銃を葛城には渡さず、銃口を蛭間の方へと向けた、「何してるんです吾妻さん?」 葛城の問いかけには応えず、吾妻はじっと黙り込み、蛭間に向けて銃口を構えながらゆっくりと歩み始めた、吾妻の異変に気がついた葛城は必死に言葉をかけた、「止めてください吾妻さん、その男は我々警察の手で裁きを受けさせます!復讐は決して奥さんと娘さんも望んでいませんよ…」 しかし吾妻は足を止めることなく拳銃を構えたまま蛭間のもとへと歩み寄った、「あなたは…もう…もう…あの頃の刑事じゃないのか!?」   

その時吾妻の足が突然止まった、可笑しなことに、この状況の中で、見覚えのある少女が窓越しから奥の車両内で、背中姿を見せながら走る姿が吾妻の目の前に映り込んできた、その背中はやけに懐かしさを感じるものであった、「吾妻さん!」 葛城の叫び声にふと我に返った吾妻は、視線を再び蛭間の方へと合わせようとしたその時、まさかの事態が発生した、「吾妻さん!早く私に拳銃を渡してくださいぃ!」 蛭間は車内から逃げ遅れ、座席の下にずっと隠れ続けていた、列車が発射する時に一度吾妻と出会っていた、あの時の少女が蛭間の手にかかってしまったのだ、「その子をどうする気だ!」 吾妻は心に閉じていた憎しみが込み上げ、激しい怒りで蛭間にそう言い放った、「別にどうもしませんよ、そこに落ちてる銃ありますよね?、それ、渡してくれません?」 凛とした口調とは裏腹に、蛭間は右腕で少女の首を力ずくで絞めようとしていた、その様子に吾妻は言葉が出なかった、「あの笑笑、お宅耳聞こえてます?、早く!ほら銃を渡して」 「はぁ…はぁ…はぁ…!はぁ…!はぁ…!はぁ…ー!」 吾妻の鼓動はみるみると高まって行く、吾妻は冷静さを失い拳銃のレバーを下ろした、その時であった、「ガチャン!」 突然吾妻の後ろから要求されていた銃が前へと放り投げられた、ふと後ろを振り返ると、葛城が困惑した様子でこちらを見つめていた、「ここで撃てば、彼女に当たる可能性があります、…」 涙目になりながら拳銃を強く握り締め、ふと既に射殺されて眠りにつく若い男の方を俯くと、そこには気になる文字が黒いダウンのポケットに隠されていた、「ジャキン!」 そんなことも束の間に、蛭間は床に置かれた銃を再び手にして、銃口を少女の頭に突き付けた、「御苦労さま、で、す、ククク」  少女は恐怖で怯え、涙を溢しながら恐怖に我慢していた、その少女の目付きが吾妻の脳裏に深くダメージを負わせたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る