第32話 精霊祭



 ララノアとミーリエルに連れられ、俺は先程の大広場に戻って来ていた。


 「おお!さっきの誰かの葬儀の装飾とは違って、一気に祭りっぽい飾りつけになったな!誰かの葬儀とは違ってな!」


 『う、うるさいわよ勇者!私だって、こんな大事になるなんて思ってなかったのよ!』

 

 『うふふ。勇者様、あまりお姉ちゃんをいじめないで下さいね。あっ!お父様の挨拶が始まりますよ!』


 さっきまで祭壇があった場所に、メネリオン王とアルディス王妃、そしてエルフの戦士達が立っていた。


 

 『我がアラシュザムの民達よ!これより、我が娘達の無事な帰還と!それを手助けしてくれた精霊王と勇者殿一行に感謝を捧げる為の祭り……精霊祭を執り行う!スプラ・ディクトィル精霊に祝福あれ!』



   『『スプラ・ディクトィル精霊に祝福あれ!』』



 数千ものエルフによる歓声と口笛、それに無限に打ち上げられる魔法の花火により、精霊祭の開始が告げられた。



 「おお!ララノア!ミーリエル!これは凄いな!』


 俺はその光景に目を奪われていた。


 『ふふん!当たり前じゃない!エルフと言えば祭り好きなんだから!でも、年々派手になって行くわね……』


 『それよりお姉ちゃん、それに勇者様。私、お腹が空いちゃいました。屋台にいきませんか……?』


 この食いしん坊エルフが!


 「エルフの屋台か……。さぞ美味しい物があるんだろうな。よし行くぞ!案内するんだララノア!」


 『はい!こっちです勇者様!』

 『ちょ!待ちなさいよー!ララノアー!』


 


 それから屋台や出店が立ち並んだ通りに到着した俺は、期待に胸を膨らませていた。

 

 いや膨らませ過ぎて、風船みたくなっていた。


 「ララノア!お前のおすすめを教えてくれ!さぞかし素晴らしい物なんだろうな!」


 『はい!少しお待ち下さいね。あのー、フランシェビートルの姿焼きを三つお願いします』


 ララノアは屋台のお姉さんに注文をしに行った様だ。


 いやー、楽しみだな!前の世界のエルフ料理も美味しかったからな!



 おっ、ララノアが帰って来たな。

 どれどれ、一体何を……。


 『お待たせしました!フランシェビートルの姿焼きです!外はサックサク、中はとろーりとしていて最高なんですよ!』


 『ララノアは本当にフランシェビートルが好きね!まぁ、私もなんだけど。はい勇者、早く食べ……勇者?』



 俺は死んだ振りをしている。


 何故なら、ララノアの手にはマルッとした芋虫が串に刺さっているからだ。


 『勇者様!大丈夫ですか!?体調が優れないのですか!?』

 『ゆゆゆ勇者!大丈夫よ!私に任せて!これを食べれば治るわ!』


 やめろ!馬鹿ミーリエル!それを近づけるな!


 「待て待て待て待て!俺は昔から虫だけは……や、やめろ!何が悲しくて虫とキスしなくちゃ……や、やめ……!おぎゃーー!」


 

 『なによ!元気じゃない!心配して損したわよ!それともフランシェビートルのおかげかしら?』


 『うふふ。きっとそうよお姉ちゃん!だってこんなに美味しいんだもの!』




 …‥俺は思い出した。


 まだ勇者になりたてだった頃によく味わった……敗北の味を……。



 そう、あれは我が師であるリーンザイルに、地獄の稽古と称してやりたい放題された、苦い敗北の味によく似ている。



 腕を切り落とされ、足も切り落とされ、脇をコショコショされ、寝首をコショコショされ、料理を作らされ………。



 「…………う、うーん。し、師匠……これ以上は、む、無理だ……うーん」


 『ゆ、勇者!大丈夫なの!?さっきからブツブツ言ったり、うなされたりしてどうしたの!?』


 『も、もしかして無理矢理祭りに連れて来たから、怒ってるんですか?ゆ、勇者様……』


 ち、ちがーう!そこじゃなーい!


 「ララノア、別に怒ってなんかいないさ。ち、ちなみに他にも美味しい料理はあるんだろ?ま、待てララノア!名前を教えてくれるだけでいいぞ!」


 すかさず屋台に走るララノアを、どうにか止める事に成功した。


 『あはは。私ったら、慌てちゃいましたね。えーと、他には……パチパチアントの素揚げに、キングバッタの佃煮に……でも、やっぱりフランシェビートルが一番かな……』


 ……もういい。


 『ちょ、待ちなさいよララノア!スイーツカマキリの鋏の部分も最高じゃない!』


 もういいって言ってんだろが!!


 「虫、虫、虫、虫。この国は虫しかいないのか?ダ、ダメだ……この国に恐怖と絶望を与えなければ……」


 俺のそんなダークサイドの一面が、顔を出し始めてきた。


 『パリパリ……ごっくん。あ、あれどうかしました勇者様?あ、これ食べます?パリパリアントですよー。我慢出来なくて買って来ちゃいましたー!』


 NOooooooooo!!!


 『うーん!やっぱりスイーツカマキリは最高ね!』


 もうやめて!勇者のライフはもう53万よ!


 「ララノア!ミーリエル!そこに正座しろ!」


 俺はエルフの食文化を変える事を決意した。


 『な、何よ急に……怒ってるの?』

 『ゆ、勇者様……。ララノアが何かしましたでしょうか……』


 いつもなら優しく説明してやるのだが、今はそんな余裕は無い!


 「いいか!お前ら二人は今日、この国の人達に多大な迷惑を掛けた……違うか!?いや違わない!ならば償う必要がある……そうは思わないか?」


 『そ、それは……そうだけど……。何すればいいのよ……』

 『ゆ、勇者様……。何かいい案を教えて下さい……』


 ふふふ。なんて扱いやすいエルフなんだ。

 

 「俺に任せておけ。死んだ魚は水をはねない……殺るんだよ、虫料理を出してる屋台を……。じゃなかった。やるんだよ!俺達も屋台を!みんなに本当の美食を味わって貰うのだ!」


 完璧だ……。いやパーペキだな。


 『で、でも私……料理なんかできないわよ!』

 『私もです……。簡単なのなら何とか……』



 お前等の返事は一つ……『はい、勇者様』それだけだ。


 「お前達二人は黙って俺に着いて来ればいいんだ。確か祭りは三日だったな?ならば実行は明日の朝からだな……。よし!そうと決まれば、早速情報収集だ!行くぞお前達!」


 流石に今日は祭りを楽しませてやるか……。


 『ま、待ちなさいよ勇者!置いてかないでよ!』


 『ま、待って下さい勇者様ー!あっ、キングバッタも美味しそう……。じゃなくて、待ってー』


 

 それから俺達は、祭りを楽しみに楽しんだ。


 途中から合流したブリガーに火の輪くぐりをさせたり、ブドウジュースの一気飲み大会など、様々なエルフと交流が出来た、至福の一時となった。


 

 でも、ペリンコのやつ何処行っちまったんだ?

 まぁいいか。


 



 さーて、明日の屋台が楽しみだぜ!


 


 

 

 


 


 

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