第30話 御霊返しの儀


 俺達がエルフの街、レシュノルティアに入ると、そこには壮大でとても美しい街並みが広がっていた。


 まるで自然と文明が一体化したような、そんな既視感を覚える街の作りになっている。

 

 『おお!メッチャ凄いっすね勇者さん!こんな綺麗な街見た事ないっすよ!』


 落ち着けペヤングリン。


 「なぁララノア、あんな巨大な樹なんかあったか?空からじゃ全く見えなかったけどな」


 街の中心辺りに、天にも届かんとする大木がそびえ立っていた。


 『はい勇者様。お母様が言うには、この木の結界には、この街全体を覆い隠す効果があるらしいのです。ですから空から見ても分からなかったのではないかと……』


 なる程な……。

 確かにあんな巨大な樹があったら、バレバレだもんな。


 「それにしてもララノアは真面目で優秀だな!これじゃぁ、どっちがお姉ちゃんか分からないって、よく言われるんじゃないか?」


 ミーリエルはまだ気絶から目覚める事なく、ブリガーの口に咥えられて、運ばれている。


 『……いえ、いや偶に言われますけど……。それでもたった一人のお姉ちゃんなので尊敬しています』


 「そうか……。変な事言ってすまないな。それにしても住人の姿が一人も見えないが、この時間はいつもこうなのか?」


 『いや、違うみたいっすよ勇者さん!あっちから大量の煙が上がっています。それに大勢の人の気配もしますよ!』


 なに!本当かペウナタリア!


 『……あっちは国の祭事に使われる大広場がある所ですね。でもこの時期にあそこを使う様な行事は無かったような……』


 「なに、行けば分かるさ!行くぞお前達!」


 俺達は大急ぎで大広場へと足を急がせる。


 大広場に着くとそこには、数千の民衆が白の礼服らしきものを身に纏い、皆一応に涙を流していた。


 遠くに見える祭壇には、この国の王族らしき人達が立ち並び、神父様らしき人の祈りの聖句を聞いていた。


 俺は恐る恐る、民衆の一人に話しかけて、何をしているか聞いてみた。


 「あ、あのー?これは一体何をしているのですかね?」


 すると涙を流しているせいか、コチラを見る事無くエルフの一人が答えてくれた。


 『うぅ……。何ってお前。ララノア様とミーリエル様の葬儀じゃないか……。うぅ……。おいたわしや。家出して二週間も行方不明になって、遂には見つからずじまいだよ……。うぅ…』


 ララノアー!ミ、ミーリエルー!原因はお前等じゃい!


 「どどどどどどどどどどうすんだよララノア!今更、『生きてました!』なんて言える空気じゃないぞ!」


 『わわわわわわ私、どどどどどどどうしたら!勇者様助けて!』


 『これはやばいっすね……。ゆ、勇者さん!腕の見せ所ですよ!


 て、てめぇ!ペルキス!俺に押し付けるな!


 そんな事を話していると更に悲しみの声が広がっていった。


 『嗚呼ぁぁぁぁ!ララノア様ー!ミーリエル様ー!神様ー!二人を返してー!!嗚呼ぁぁぁ!』

 『あんなに森に愛された二人がー!!!!』

 『見て!精霊も泣いているわ!!』

 『王様の馬鹿!喧嘩なんかするからこんな事にー!』


 俺は死んだ振りをする事にした。


 『ゆ、勇者さん!現実逃避してる場合じゃないっすよ!言うなら早く言わないと!取り返しがつかなくなりますよ!』


 『ふふふ……勇者様。ララノア、良い事を思いつきました。皆さんでタイムマシーンを探しましょう。ええ、早く探さないと……』


 ラ、ララノア!戻れ!正気に戻るんだ!


 「お、俺に任せろ!勇者に不可能は無い!」


 俺はまずミーリエルに回復魔法をかけて意識を取り戻させる。


 『あ、あれ?ここは何処?私、食べられたはずじゃ……』


 「起きたかミーリエル……。いいか?今俺達は、人生の危機ってやつに直面している。だから俺を信じて、身を任せてくれないか……。頼む!」


 『な、何よ勇者……。そんな真剣な顔して…。わ、分かったわよ!一度だけなんだからね!』


 「よし!それじゃあ行くぞララノア!それにミーリエル!」


 俺は二人を両脇に抱え込み、空高く飛翔する。


 飛んでる間、ミーリエルにザックリとだが今の状況を説明してやった。



 そして、神父様が最後の黙祷の挨拶を終えるまで待つ。


 『全員‥‥静かにお願いします。二人の魂が無事に大地に帰れる様に、五分間の黙祷を捧げ…御霊返しの儀を終了致します。……黙祷』


 全員が目を瞑り、下を向いた瞬間に俺は行動を起こした。


 「いいか二人とも、ちゃんと皆んなに謝るんだぞ!俺が出来るのは盛大に誤魔化すだけだからな!」


 『はい……。こんなに皆が悲しんでくれるとは思いませんでした。ちゃんと謝ります……』


 『ふ、ふん!私は悪く無いけど……ララノアの為に謝ってあげるわよ……』


 よし!素直ないい子だ!


 「行くぞ!神滅光滅勇者式降臨法精霊王!力を貸せ!」


 突如として降臨する、光の精霊王[ルキスデウセス]が辺り一面を照らし出す。


 その光を見ても目を痛める事は無く、逆に身体と心を隅々まで癒してくれそうな温かさがあった。


 "な、なんだ!この光は!"

 "み、見ろ!精霊だ!光の精霊だ!"

 "あの御姿……精霊王様なのか……"

 "一緒に誰かいるぞ!三人だ!"

 "光で見えない!一体誰なんだ"

 "えー、サングラスが今なら5ギル!5ギルだよー!"

 

 

 

 光が収まり、精霊王が帰還する。


 

 俺達は急に祭壇に現れた様に見えるだろう。

 

 そう、全ては精霊王が助けてくれたと言う事にするのだ!

 

 これなら民衆も強くは二人を責めないだろう!

 ハハハハハ!自分が天才過ぎて怖いな!


 「エルフの皆様!このララノア様とミーリエル様はこの勇者と光の精霊王が救出した!だから二人を許して欲しい!」


 『み、みんな!心配をおかけして、ごめんなさいです!この罪は一生を賭けて償います!本当にごめんなさいです!』


 『ち、違うのみんな!ララノアは悪く無いの!だから罰するなら私一人なの!パパ!ママ!ララノアは私について来ただけなの!ララノアだけは許して!うえーん!』


 

 二人の謝罪が終わると、民衆のエルフ達から歓声と、祝いの魔法の花火があちこちで鳴り出した。


 "うおぉぉぉぉ!ララノア様ー!"

 "ミーリエル様も生きてたよ!"

 "馬鹿王様ー!子供に先に謝らせるなー!"

 "そうだ!二人に土下座しろー!"

 "そんな事はどうでもいい!今日は祭りだー!"

 "今日は新たに国民の休日にしろー!"


 

 『……静まれ!』



 一生続くかと思われる程の騒ぎだったが、聖樹の王冠を被ったエルフが一喝すると、先程の騒ぎが嘘みたいに収まった。


 王様と思われるエルフが、抱き合って泣いているララノアとミーリエルに近づいて行く。


 俺はその王様の顔を見て全てを察し、静かに見守る事にした。


 『ひっ!パパ!ご、ごめんなさい!私が悪かったの!だからララノアは怒らないで………えっ?』


 王様は二人を強く抱きしめ、涙を流していた。


 『違う‥‥全てはわたしが悪かったのだ……。謝るのは私の方だよミーリエル。それにララノアも……よく生きててくれたね』


 『パ、パパ!うう…ごめんなさーい!うえーん!』

 『お、お父様!ララノアもごめんなさいです!うぅ……』


 それから暫くは、抱き合う親子を眺める時間が続いた。


 奥の方を見ると二人にそっくりな母親らしきエルフも号泣していた。


 勇者もなんか泣けて来た。


 俺達が親子の様子を涙ながらに見守っていると、王様が抱擁をやめて、俺達に大きな声で宣言した。


 『これより三日の間、祭りを執り行う!各々全ての仕事の手を休め、族長の指示に従い、準備に取り掛かる様に!……スプラ・ディクトィル精霊に祝福あれ!』


 本日二度目の歓声と花火が鳴り響き、エルフの街レシュノルティアを揺らして行く。


 やがて、落ち着いた民衆は大広場を後にして、祭りの準備に取り掛かりに行ってしまった。


 「エーミリア!ララノア!上手く行って良かったな!仲直りも出来たみたいだし……。勇者も頑張った甲斐があったよ」


 『本当にありがとうございました勇者様……。なんてお礼を言ったらいいか……』


 『あ、ありがとう勇者……。わ、私が素直に感謝するなんて珍しいんだからね!』


 自分で言うな。


 すると王様が俺に近づいて、声をかけて来た。


 『君が娘を救ってくれたんだね……。是非お礼がしたい。私の家に来てはくれないだろうか、勇者殿……』


 うん、断る理由はない!



 是非ともお邪魔させて貰おうじゃないか!


 


 

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