第29話 レシュノルティア


 全ての料理を平らげた、エルフの二人は満足気にリラックスしている。


 「さて、エルフのお二人さん……この世にはこんな言葉があるんだ……。タダより高いものは無いってな……」


 『ちょ、勇者さん!二人に何をする気っすか!』


 黙れペカバラス!俺は今、この二人に世の中の厳しさを教えているんだ!


 『……お姉ちゃん!』

 『大丈夫よララノア!お姉ちゃんが守るから!……あなた!私達に何をするつもりよ!』


グヘヘ、そりゃあやる事なんて一つに決まっているだろうが!


 「お前達二人にはまず……名前を教えて貰おうか!」


 『きゃー!そんな変態な事……え?名前だけ?』


 一体何を想像しているんだ、この変態エルフは……。


 「そうだ!まずは俺達から名乗ろう!先程も言ったが、俺は勇者……勇者ファルケンハインだ!こっちの黒スーツはペリダンガバルだ」


 『ち、違いますよ!ペリドット、ペリドットですよ!あっ、エルフのお二人様も宜しくお願いしますね』


 そうか……そんな名前だったなペガリス。


 『……私はララノアです。美味しい料理をありがとう勇者様』

 『ふ、ふん!特別に名前くらいなら教えてあげるわよ!私はミーリエルよ!特別にミリーって呼ばせてあげるわ!』


 「ララノアにミーリエルだな!これから宜しくな!それでさっきも聞いたんだけど、近くに街はないのかな?」


 『ちょ待てや勇者さん!何一発で名前覚えてるんすか!苦手って言ってましたよね!』


 チッ!うるせぇペナルティストだ。


 『……ごめんなさい勇者様。ララノア達……迷子なの……』

 『べ、別に困ってなんかいないんだから!二週間も迷子になんかなってないんだからね!』


 迷子?エルフが?それは魚が溺れる様なものじゃ……。


 「はっ!そうか、お前らも方向音痴なんだな?たくっ……困るぜ。方向音痴ばっかでよー!』


 『……それは違うの勇者様。私達はまだ街の外に出れる年齢じゃないのです……』

 『シー!ララノア!それは内緒よ!……な、何よ勇者!別に親と喧嘩して、家を飛び出した訳じゃないんだから!』


 説明ご苦労。


 しかしこうなると、勇者としては見過ごせないな。


 「安心しろララノア、それにミーリエルも。この勇者が安全な場所まで送り届けてやる!…それでだ、大体どっちから来たか覚えて無いのか?」

 

 『ごめんなさい勇者様……。全く分かんないです……』

 『ふん!別に帰れなくてもいいんだから!……でもお父様が、森で迷ったら北に行けって……。魔物が弱くなるからって…でも北ってどっちなのよ……』


 今にも泣きそうなエルフの二人……。


 これは俺の好感度UPのチャンスだな!

 それにしても北か……ん?北だって!?


 出番だぞ!ペリゴーラ!


 しかし、ペリゴーラはいじけている。


 『……どうせ俺なんて、名前を覚える価値もないっすよね。死のうかな……痛い!な、何するんすか勇者さん!』

 

 俺はいじけているペナノスにチョップを喰らわせる。

 

 『馬鹿野郎!ペナノスイリフ!名前なんてタダの記号だ!気にすんじゃねぇ!それより、ララノアとミーリエルが北に行きたいそうだ!力を貸せ!』


 『誰のせいだと思って……。はいはい、北っすね。こっちですよ。エルフのお二人さんも、足元に気をつけて着いてきて下さいっす』


 『お、お姉ちゃん!帰れるかもしれないよ!』

 『そ、そうねララノア。ちょっとだけなら着いて行ってあげない事もないわ!』


 「ふふん!さぁ俺に……いやペリナーンに着いて来い!行くぞ!」


 


 それから俺達、勇者一行は北を目指して歩き始めた。


 本当なら飛んで行きたかったが、幼いエルフを二人も抱えて飛ぶのは危ないからな。


 ペリーもこの姿で飛べるのかもわからんしな。


 順調に歩いていた俺達だったが、急にララノアが叫び始めた。


 『お、お姉ちゃん!とっても強い気配がこっちに来る!』

 『え!またなの!逃げ切ったと思ったのに!』


 ミーリエルがそう言い終わると同時に、体長5メートルはありそうな巨大な虎が、黒い毛と金色の縞模様を携えて俺達の目の前に現れた。


 『ちょ!勇者さん!なんかヤバいの来ちゃいましたよ!どうするんすか!』


 落ち着けペオルゴン!まず死んだ振りだ!


 『お、お姉ちゃん……今までありがとう…。ララノア、お姉ちゃんの妹で幸せだったよ』


 『ま、まだよ!まだ諦めちゃダメなの!わ、私が家出したせいでララノアが死ぬなんて絶対ダメなのー!』


 バカヤロー!早くお前らも死んだ振りをするんだ!


 この世は大概、死んだ振りでどうにかなるんだ!気合いだ!気合いだー!


 『ちょ、勇者さん!そんな気合いが出てる死体なんか見た事ないですよ!早くなんとかしないとエルフの二人が!』


 何故か幼いエルフしか見ていない巨大虎が、今にも飛び掛かりそうな体勢をとりだした。


 「ふぅ、しょうがないな。喰らえ!覇王獣末勇者式調教法ペットにしてやるぜ!」


 俺の特殊な魔力弾を飲み込んだ巨大虎は、俺の前に来て伏せの体勢を取り出す。



 『きゃー!来ないでー!あっちいけー!食べるなら勇者にしてー!』

 『お、お姉ちゃん……。もう大丈夫みたいだよ……』


 どうやら目を瞑っていたミーリエルは状況を掴めていないようだな。


 そうかそうか、勇者を食べてか……。


 「よし!ブリガー!お前の最初の仕事だ!あの大っきい方のエルフの顔を舐め回せ!いけ!」


 俺にブリガーと名付けられた巨大虎は、すぐさま行動に移る。


 『ラ、ララノア!全然大丈夫じゃ無いじゃない!キャー!こ、来ないでよー!ちょ、なんで舐めて、たべ、食べられるぅー!』


 ブリガーはこれでもか!とミーリエルの顔を舐め回している。


 ミーリエルはもう虫の息だ。


 『勇者様……その辺でお姉ちゃんを許してあげて』


 どうやらミーリエルはショックのあまり気絶したみたいだな。


 「すまんララノア。少しやり過ぎたみたいだな。だが良い足が手に入ったぞ!これで帰るのも早くなる!良かったなララノア!そして安らかに眠れ、ミーリエル……」


 『ちょ!勝手に殺したらダメっすよ勇者さん!それにしても、こんな強そうな魔獣を簡単に調教テイムするなんてすごいっすね」

 

 まあな。俺にかかればこんなもんよ。


 『本当に凄いです。この魔獣は、エルフの戦士達も見たら逃げる程の魔獣なんです……。それを……』


 「まぁ、それほどでもあるな。とりあえず早く移動しようか。ここで長々と話してたら、また変なのが来るかもしれないからな。ララノアとミーリエルはブリガーに乗るといいさ」


 『それもそっすね。早く北へ向かいましょう』

 

 『は、はい。よ、よろしくね、ブリガーちゃん』


 ララノアを背に、ミーリエルを口に咥えて、俺達とブリガーは走り出す。


 ブリガーのおかげで先程とは比べ物にならないスピードで進む事が出来た。


 

 「おい、ペガルタ!あれは森の切れ目じゃないか!?』


 『間違い無いっすね!やっと森から出れそうっす!』


 『や、やった!帰れる!帰れるよお姉ちゃん!』


 喜びはしゃぐ俺達の目の前に、整備された街道と、多分、街を囲む木の壁が遠くに見えてきた。


 「ララノア!あの遠くに見える木の壁がお前の街か!?」


 『はい!あれが私達の街…レシュノルティアです!』


 どうやらやっと着いたみたいだな。


 この二人を安全に送り届ける任務は達成出来そうだ。


 俺達は更にスピードをあげ、レシュノルティアまで走り続けた。


 段々と見えて来る木の壁だが、どこにも入り口らしき物が見当たらない。


 しかも入り口を守る、定番の門番もいない様だ。


 勇者寂しい。


 「ララノア、これはどうやって中に入るんだ?」


 『はい、これはですね、一応この木の壁が結界みたいになってるんです!だからその結界を解除するための呪文を唱えれば……アポルタ開け!』


 ララノアが呪文を唱えると、木の壁が生き物の様に動き、人が通れるくらいの穴が開きだした。


 「おお、すごいじゃないかララノア!でも俺達に呪文を教えて良かったのか?」


 悪用するつもりはないが、少し不用心じゃないか?


 『大丈夫です!登録されたエルフの魔力にしか反応しないと、お母様がおっしゃっていました!』


 なる程……流石はエルフの魔法だ。


 『勇者さん…この穴じゃ、ブリガーさんがギリギリ通れませんよ。どうしますか?』


 ふむ、そうだな……。


 「よし、ブリガー!お前は少し縮め!大丈夫だ、気合いでなんとかなるから!」


 それに猫は液体でできてるからな。

 虎も同じ様な物だろ。


 ブリガーは驚き戸惑っているが、勇者に情けは無い。諦めろ。


 『だ、大丈夫ですよ!もう少し魔力を込めれば……ほらこの通りです!』


 そこにはブリガーも余裕で通れるほどの穴が出来上がっていた。


 これでみんな揃って入れそうだな。


 エルフの国か‥‥楽しみだ!

 

 


 


 


 

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