第27話 黒いペリカン


 クロイス達に帝国と聖国を任せ、俺はひたすらに西の大陸へと飛翔し続ける。


 「大丈夫…大丈夫だ。一度信じたんだから、これ以上心配するのはあいつ等に失礼だな。よし!俺はこっちに集中だ!」



 前の世界はエルフやドワーフなんて、人間と一緒に住んでいたのにな。


 こっちの世界は完全に別れているんだよな。

 まぁ、一人や二人なら、王国でも見た事はあるけど…それぐらいだしな。


しばらく水平線を眺めながら飛んでいると、段々と大陸の端の方が見えて来た。


 「よし、今回は変なドラゴンも来ないだろうし、少しは自由に行動できるかもな」


 龍国は大変だった…。

 

 変な童に無理やり執事にされ、どら焼きをたかられ、飯を奢らされ……思い出したらムカついてきた。


 『おい、貴様止まれ』


 いや、過去は過去だ。俺は今を生きる男。


 『おい!止まれと言っているだろう!』


 そう、俺は過去を振り返らない男!勇者ファルケンハイ……


 『おい!聞こえない振りを止めろ!いや、やめて下さい!お願いします!話を聞いてー』


 チッ!聞こえない振りをして、素通りしようとしたのに。


 俺の頭の上辺りを、黒いペリカンが飛びながら喋っていた。


 「なんでしょうか?私、爺ちゃんに知らないペリカンとは関わるなと、教育を受けているんですよね。それではそう言う事で」


 『いやいやいやいや!そんなペリカンだけピンポイントで拒否するジジイがおるかいな!後生だから、話だけでも聞いて下さい!』


 しつこい奴だ…。


 「分かった、分かったから。簡潔に話してみろ」


 『へへ、ありがとうございます。実は私、最近この大陸に引っ越して来まして。それでここら辺の魔魚を食べたら、喉にガッツリ骨が刺さってしまいまして。それを取って頂けないかなと思いまして…』


  なんだ……そんな事か。


 「それぐらいならお安いご用だ。ならまず、地面に降りよう。飛びながらだと逃げられ……いや危ないからな」


 『はい!いやー、助かります!喉が痛くて痛くて、困ってたんですよ』


 俺とペリカンはそのまま真下の地面に降り立った。


 「じゃあ、さっさと抜いてしまおう。口を開けてくれ」


 『はい、お願いします……』


 黒ペリカンはその真っ赤な口を最大まで広げ、俺の顔近くまで近付いてきた。


 「ん〜、暗くて見えないなぁ。ホントに刺さってるのか?」


 するとペリカンは更に口を広げ、人一人くらいな簡単に飲み込めるくらいの大きさになった。


 『馬鹿め!勇者!この邪神の使徒の一人、[丸呑み]のペリドットが飲み込んでくれ……ふがぁぎょえー!』


 俺はペリカンをこれでもかと言うくらいにボコボコにした。


 「お前馬鹿か?そんな隠しもせずに邪気を振り撒きやがって。最初からバレバレだっつの!」


 『ふ、ふゅみまふぇんす、すみません……。もふ、しなふぃんで、もう、しないんで、

ゆるひへくらはいゆるしてください……』


 ペリカンは身体中ボコボコになっており、既に虫の息になっている。


 俺は普通に喋れる位には回復してやった。


 「で?何で俺が勇者だって分かったんだ?」


 『あ、はい…。あの、貴方が龍国で戦ったマールムと言う使徒が、貴方の特徴とその鎧の紋章の事を話していまして……』


 マールム?ああ、あいつか。   

   

 「なるほどな…。よし、これでもう思い残すことはないな。覇王忍殺勇者式せめて安らかに……」


 『ままままま待って下さい!このペリドット!心を入れ替えました!だからお命だけは!』


 「お前なー、そんな簡単に態度を変えるんじゃないよ!悪には悪の!正義には正義の示す道ってものがあるだろが!」


 一度こうと決めたら、最後まで走り抜けよ!この世は気合いで何とかなるんだ!気合いだ!気合いだ!


 『な、なんか暑苦しいですね…。違うんです!俺も好きで邪神に従ってる訳じゃないんですよ!……聞いてくれますか?涙無くしては聞けない、私の人生を……』


 それからペリカンは長々と語り出した。


 三男一女の四人兄妹きょうだいの末っ子に産まれたペリドットは、他の兄妹きょうだいとは毛の色が違うと言うだけで、家族全員から虐められたそうだ。


 我慢の限界がきたペリドットは、思い切って家を飛び出して、流浪の旅に出たそうだ。


 しばらくは自由気ままに過ごしていたが、ペリドットは気付いてしまったそうだ。


 出会う生き物全てに嫌われていると……。


 あらゆる魔獣、魔族、動物、しまいには植物にまで悪意を向けられていると。


 それに耐えられなくなったペリドットは、魔大陸を飛び出し、北へ北へと飛んでいると、邪神の使徒の一人、ネブランに拾われ今に至ると……。


 「うっうっ…シクシク…ポロポロ…。そんな事があったなんてなぁ。辛かっただろぅ…これでも飲めよ」


 ペリドットの話に号泣した俺は、レモンティーを提供する。


 『いや、あの、そんなに感動して貰えると、話した甲斐があったと言うか…。あっ、レモンティー頂きます』


 「それで、拾われてからは、良くしてもらってるのか?」


 『あっ、はい。…いえ、やはりと言いますか、使徒の中でも嫌われてる感じでして、主に雑用や過酷な仕事を押し付けられる仕末です……』


 な、なんて不憫なペリカンなんだ。

 勇者泣いちゃう。

 

 「そうか……。でも原因は何なんだろうな。一生そのままなのは可哀想だろ、流石に」


 『あの、原因はもう分かってまして…。どうやら邪神様の加護が強すぎたみたいで。そのおかげで生まれつき魔力は多かったんですが、その反動……いや、代償でこうなったみたいです』


 なるほどな…。


 「そうか…。可哀想なペリカンに免じて、せめて苦しまない様に一撃で葬ってやるからな……。神滅鳥滅勇者式今日のご飯は焼き鳥に……」


 『ままままま待って!ストップ!ウェイト!何で今の流れでそうなるの!いい感じだったじゃん!『勇者が可哀想なペリカンの呪いを解除して、仲間にする。』みたいな感じだったじゃん!』


 いやでもだって、最初に丸呑みにしようとしたのお前だし…。

 

 「そもそも俺、お前のその呪いみたいなの効かないからなー。本当に全ての生き物に憎まれてるのかなんて分からな……いや!お前が憎い!喰らえ!神滅鳥滅勇者式やっぱり唐揚げに……」


 我ながら名案だ!このまま呪いにかかった振りをしてこのペリカンを……。


 『いやいやいやいやいや!効いてないですよね!?本当に憎いペリカンにレモンティーなんかくれないですよね!?やめてー!死ぬー!』


 チッ!勘のいいペリカンだ。


 「分かった、分かった。なら、見逃してやるから、さっさとお家に帰りなさいよ。お前みたいなポッと出のペリカンと長々話してても、読者は飽きちゃうんだよ!空気読めよ!」


 『そ、そんな冷たくしないで下さいよ!やっと私の、忌々しい邪神の加護の呪いが効かない人を見つけたんですから!』


 そうだった…こいつは可哀想なペリカンだったな……。


 勇者とした事が、人の心を無くしていたみたいだ。


 「すまない‥ペギリオン。俺は世界に平和をもたらす勇者だと言う事を忘れていた。お前は俺と来い!共に邪神を倒そう!」


 「…ペリドットです。あのー、流石に神様に人が勝つのは無理って言いますか…不可能だと思うのですが……」


 まだ長々と会話を続けるつもりか!


 「うるさい!ペッドライオネット!お前の返事は来るか、来ないかのどっちかだけだ!」


 『だからペリドットですって!行きます!行けばいいんでしょ!』



 ふん、最初からそう言え!

 

 さっさと行くぞ、ペルパルナ・サファリオン!



 

 

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