第26話 最高の仲間


 城の地下牢で、魔力封じの枷を嵌められた二人の魔族が、とても厳しい尋問を受けていた。


 「オラァ!これでもまだ喋る気にならんのかぁ!」


 俺の前に並べられた、至高の甘味達が眩い輝きを放っている。


 俺はそれをとても…とてーも美味そうに食べる様を見せつける。


 『………………』


 「くうぅ!この脳にガツンとくる衝撃…クックック…どうやら言葉も出ない様だな……」


 いや、尋問する筈が、言葉も出ない様にしてどうする俺!喋らせなきゃダメだろ!


 『…甘味は苦手だ』

 『ええ、私もです…すみませんね勇者殿……』


 馬鹿な!この世に甘い物が嫌いな生物などいる筈がない!


 まさか…血糖値が高いのか?

 

 「貴様等…俺を騙そうなんて百年早いぞ。いいだろう…そこまで頑なに口を閉ざすのなら……」


 『……さっさと殺せ』

 『ええ…どのみち、我が神を裏切る行為をするつもりはありません……。時間の無駄ですよ?』


 なる程…。どうやら意思は固いようだな……。


 俺は穴の空いた金貨を取り出し、それに誘惑蜘蛛ピンクスパイダーの糸を通す。


 「お前ら!これをよく見ろ!ほーら、お前らは段々と喋りたくなーる。全部喋りたくなーる」


 振り子の様に揺れる金貨が、魔族の二人を深い闇の底へいざなうだろう…多分。


 『ぐおぉ…あ、頭が…』

 『わ、私の…揺るがぬ…意思が…ってこんな物効く訳ないでしょう……』


 ノ、ノリ突っ込みだと!?どこでそんな高等技術を…。


 「そうか…これでもダメか…。これだけは使いたくなかったが……。覇王滅殺勇者式催眠法今度は本当に喋りたくなーる!」


 俺の催眠魔法の前では、邪神の使徒といえど形無しよ!さあ!喋るんだ!


 『……神が復活する前に…この世に恐怖と絶望を……』

 『……既に帝国や聖国…西の大陸にも…使徒が向かっています……』


 なっ!そんな事をしたら、何も知らない国々は魔族だけを恨んでしまうだろうが!


 はっ!?龍国は!童は無事なのか!?


 「東大陸は!?龍国にも手は回したのか!?答えろ!」


 『……龍国は……既に女皇を殺した為……手は回していない……』

 『……ええ。その場には……勇者も居たと聞きました……』


 …コイツらシャーベット様が蘇ったのを知らないみたいだな。


 まぁ普通に考えたら、死者が蘇るとは思わんか…。

 とにかく…龍国が無事みたいでよかった…。


 いや良くないよ!世界中が大変だよ!

 なんだよコイツら!好き勝手やりやがって!


 こっちが平和の為に色々頑張っていると言うのに!


 それに一話目で"こうして人類と魔族の戦争は終わった…"みたいな事言ってたじゃん!

 

 全然終わってないじゃん!詐欺じゃん!

 このままじゃ勇者から詐欺師にジョブチェンジだよ!


 愚痴ってる場合じゃない……。

 すぐに対処しなければ。


 「おいお前ら、最後の質問だ。邪神の手駒とやらは後何人いる?そして邪神は復活した後何をするつもりだ?」


 『……我等と、貴様が殺したタスカルを除き……使徒が九人。……それと、邪神を守護する四人の騎士…』


 そうか…タスカルさんは死んだと思われているのか。


 『我が神の真の目的……それは……女神への復讐……。世界を……混沌に堕とし、再び女神を顕現させる……』


 そんな事の為に……。ふざけるな!   

  

 よし!もうコイツらに用は無い!


 「あっ!看守さん!コイツらの食事は塩辛い物にして血圧を上げてくれ!」


 ふふふ。将来病気になるリスクに震え上がるといい!


 俺は直ぐに地下牢から飛び出し、ガルランド王に報告する為に走り出す。


 すると丁度よく宰相のグスタフ殿が何人者秘書を連れて歩いてるのが見えて来た。


 『おお勇者殿!丁度今、尋問の様子を伺おうと思っておったのです。どうですかな、進捗の方は?』


 「宰相殿!丁度いいところに来てくれた!陛下に伝言を頼みたい!実はカクカクシカジカで……」


 『な、なにぃ!それはまっこと奇想天外奇々怪界この世は正に摩訶不思議きそうてんがいききかいかいこのよはまさにまかふしぎのアドベンチャー…って事ですな!分かりました後は任せて下され!』


 「頼んだ宰相殿!俺は直ぐに出発します!ではさらば!」


 俺は宰相が何を言ってるか、全く分かんなかったが、とりあえず行動する事にした。


 「くそ!勢いよく飛び出したはいいが、何処に向かえばいいんだ!」


 空を飛びながらそんな思考をしていると、俺の"魔糸電話まいとでんわ"が鳴り出した。


 この魔糸電話は、離れた相手と会話ができる優れものだ。


 俺は反射的に魔糸電話を取って、耳に当てる。


 「勇者様!聞こえておりますか?[賢者]ことクロイスです!聞こえておりましたら、返事をお願いします!」


 声デッカ!


 「クロイス!そんなに大きな声を出さなくても聞こえてるぞ!どうした?何かあったのか?」


 「失礼しました。なにぶん初めて使う物でしたので。勇者様に頼まれた、帝国と聖国の使者の大任……見事に果たしました!どちらも心良い返事を頂きました!」


 ……そうか、やってくれたか。

 だがそれも無駄になりそうだよ、クロイス。


 「大義だったなクロイス……。だが実はな……」


 俺はクロイスにこれまでの事をザックリと説明した。


 「ーーーーなんと……その様な事が……。勇者様!聖国と帝国の事は私とエマ、それにオリヴィエに任せて下さい!見事に邪神の使徒とやらを成敗してみせます!」


 「クロイス……。気持ちはありがたいが、危険過ぎる。俺が仕事を任せた以上、俺はお前らの命に対して責任がある。そんな事はさせられない」


 クロイス達と本気で戦った事はないが、使徒には敵わないだろう。


 「勇者様……。失望しました……。勇者様に信じて頂けない……自分自身に失望の念を隠せません!勇者様……!一度だけ信じて下さい!必ずや聖国と帝国を邪神の魔の手から救って見せます!」


 「………そう、勇者はもう少し人に頼るべき。私は頼りになる女1号……」


 エマ!そんな都合のいい女みたいに言ってはいけません!


 「そうよ!勇者の馬鹿!なんでも言ってって前に言ったじゃない!勇者は本当に馬鹿なんだから!」


 オリヴィエ……。馬鹿はお前だ……。

 

 「お前ら……。分かった!俺は仲間を信じるぞ!だけど絶対に無理はするな!危なくなったら直ぐに逃げろ!これだけは約束してくれ!」


 「勇者様……。ええ約束です!此方は我等にお任せを!それにこっちには聖女と、勇者様には及びませんが、大陸一と呼ばれたEX級の冒険者もおります!勇者様は安心して西の大陸へ行ってください!」


 「………そう、勇者は早くお土産を買って帰って来るべき…。エルフが作った杖なんかおすすめ……」


 エマ……。なんて強欲な娘!


 「はいはーい!私はドワーフが作った剣がいいなぁー!宜しくね勇者!」


 お前にはドワーフが作ったヒノキの棒でたくさんだろ。


 「ああ、直ぐに戻る!楽しみにしてろ!クロイスもな!いいか絶対に死ぬなよ!じゃあな!」


 俺はこの世界でも、いい仲間を持ったな…。


 

 俺は魔糸電話をしまい、西の大陸に向かってマッハで飛行する。




 絶対に誰も死なせない!絶対にだ!


 

 

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