第23話 襲撃
俺は今ガルランド王国の会議室に座り、貴族達の話し合いに耳を傾けていた。
なになに?
"我が領が一番被害が多いんだ!"
"馬鹿者!国から減税や補助が降りてるだろ!"
"戦争を終わらせる事が一番の優先事項だろ!"
"そうだ!自分の利益ばかり求めるな!"
"ふざけるな!この百年、どれだけ苦渋を呑んだと思っている!"
"この守銭奴が!まだ言うか!"
"焼き芋〜焼き芋は如何っすか〜"
はあ〜、毎回毎回これのループだよ…あっ、焼き芋頂戴ね。
「勇者よ、すまぬな…貴族の不様な姿はもう見飽きたであろう?儂はこう言う話し合いの場では、あまり口を出さない様にしておるからの」
「まあ、一番偉い人が方針を決めると、嫌々でもそれに従わなきゃいけませんからね。下手したら、王と貴族の間に不和が生じるかもしれませんし」
「その通りだ…。しかし今までは人類の共通の敵…魔族がおったからのう、なんとか一枚岩でやってこれたが、魔族との戦争が終われば、今度は人と人とが争うのではないかと、今から胃が痛いわ」
人類の歴史は争いの歴史だからな…。
これはどの世界でも変わらなかったよ。
「陛下…実は、本当の敵は魔族では無く邪神だったのです。魔族は邪神に脅され、無理矢理従わされていたと言う事が、先日判明しました」
この際だ、魔族の罪は全て邪神に被って貰おう。
「…勇者よ、その様な大事な事を急に言うのはやめてくれ。邪神は儂でも知っておるぞ、確か千年前に悪虐の限りを尽くしたが、女神様によって封印された神の一柱じゃな?」
「その通りです、陛下。しかもそれだけでなく……」
俺は陛下に、龍国であった事、魔族が加護と言う名の呪いをかけられ、邪神が復活するためのエネルギーを集める為に戦争を起こした事など、詳しく報告した。
「……その様な事があったとはの…。しかもその邪神が復活するまであと半年も無いと申すか…。だが、勇者よ儂も一国の王じゃ、お主の言葉だけで、国の今後を左右する決断は下せぬ。何か儂や貴族達が納得する証拠はないのか?」
証拠か…確固たる証拠は無いな。
困った俺はとある調味料を陛下に差し出す。
「勇者よ…これは証拠ではなくて胡椒じゃ。今時子供でもこんな寒いギャグはせんぞ……」
「流石は陛下です…。語感が似てるからいけるかもと思いまして…。ですが陛下…証拠があるとすれば……俺です!女神の使徒たる勇者ことファルケンハインが証拠です!」
「………分かった、女神様に免じて儂だけは信じてやろう…。お主がこんな嘘をついて得があるとも思えぬしな。だが、貴族達はそうはいかんぞ?見ての通り、物分かりが良いとはとても思えぬ」
ついに来たな!秘策を投じる時が!
「それについては俺に策があります。陛下…少し茶番に乗っていただけますか?それと少々部屋が荒れるのも勘弁して下さい」
「……今更じゃ、好きにやれ」
陛下のその言葉を聞いた俺はすぐに合図を出す。
すると会議室の天井付近に設置されてる窓ガラスを突き破って、三人の人影が突撃して来た。
「おうおうおう!人類のクソどもやないか!こんなにぎょーさん集まってご苦労な事やのう!」
ノリノリだな。
「おーほっほっほっほ!無駄よ無駄よー!どうせあんた達は半年後に邪神に滅ぼされてしまうのよー!おーほっほっほっほっほ…げほごはぁ!」
むせるな。
「……………………」
喋れえび。
『何だお前達は!衛兵!何をやってるかぁ!早く捕まえろ!』
『陛下!早く避難してくだされ!危険ですぞ!』
王が先に逃げないと、お前らも逃げれないからな。
『こいつら魔族だぞ!戦争が終わったと言うのは嘘か!』
『勇者殿!情報と違うではないか!我等を騙したのか!』
よく回るお口ですこと。
部屋に突入して来た、数十人の衛兵と近衛兵が魔族の三人に襲いかかる。
「なんや……人類はここまで弱かったんかいな。拍子抜けやわ……。
「そんな事言っちゃかわいそうですよー、クラウ……ゴホゴホ、邪神ホワイト!私達は強くなり過ぎましたからね!喰らえ!
邪神ホワイトとリリス…もとい邪神ピンクによって衛兵は全員身動きが出来ない状態になってしまった。
なんとか技を回避した近衛兵は、エビ…邪神レッドによって全員気絶させられてしまった。
このエビは最近の研究結果によって、極度の人見知りだと言う事に気付いた。
知らない人がいると全く喋らないのだ。まぁ、どうでもいいな。
「これで終いやな!さて人類のお偉いさん…覚悟はええな?」
「どうせ死ぬのが少し早くなるだけですー!」
「………………………」
うん、やっぱりこいつらに頼んで良かった。
ピッタリな
『馬鹿者が!調子に乗れるのも今が最後よ!さぁ勇者殿!出番ですぞ!』
『そうだ!此方にはまだ勇者殿がおる!覚悟するのは貴様らの方だ!魔族め!』
それからも、やいのやいのと俺に戦えと囃し立てる貴族達…。
腹が立つが、作戦通りだと目をつぶろう……。
「貴様らの相手は勇者ファルケンハインがお相手つかまつる!だが戦う前に一つだけ聞かせろ!お前らの目的はなんだ!」
「ええやろ!こっちも名乗ったるわ!ワイは邪神ホワイト!邪神に選ばれし使徒の一人や!」
「おーほっほっほっほっほ!私は邪神ピンクよ!そしてこっちは邪神レッド!私達の目的は…人類の殲滅よ!」
「せや!百年前に起こした戦争も全て、邪神とワイら邪神の使徒による命令や!魔族の命は全員、邪神様の手の上やからな!」
「魔族全員に強制して、戦争を起こさせる様に命令したんですー!おかげで邪神が復活するだけのエネルギーが溜まりましたよー!おーほっほっほっほっほ!」
「………………エビ」
いい!お前は喋るなエビ!
「成る程な!魔族は脅されて、無理やり従っていただけと言う訳か!憐れな魔族に代わって、俺が邪神と邪神の使徒を滅ぼしてくれる!可哀想な魔族と魔王に代わってな!」
待って陛下!もうちょっとだから笑いを堪えて!
「ヒェヒェヒェ!勇者一人になにができるちゅうんじゃ!」
「おーほっほっほっほっほ!今なら簡単には負けませんよ勇者!」
「…………………恨み晴らす」
お前ら素が出て来てる!
「
俺の手から、当たった対象を決められた場所に転移させる魔力弾を三発撃ちだす。
「ま、待てや!もう少し遊ばせ……」
「あーん!この後観光の予定が……」
「………………エビフライ食べたい」
帰れ帰れ!お前等はすぐボロが出そうだ!
『おお!流石は勇者殿だ!』
『流石は女神の使徒様!助かりましたぞ!』
『しかし、やつら気になる事を言っておりましたな!』
『陛下!一体如何がなされるおつもりか!』
「静まれ!慌ただしく騒ぐな!王国の貴族としての矜持を忘れたか!」
王に嗜められた貴族達は、皆一様に落ち着きを取り戻した様だ。
「失礼致しました、陛下。これからの方針をお聞かせ願いますか?」
宰相のグスタフが一番に声を出す。
「……うむ。先程の邪神の使徒とやらの言葉が真なら、これはもう王国だけの話では無くなる。帝国、聖国、東大陸に在る大国と言われる、様々な国と連携をとらねばならん」
「……はい。邪神が復活するまで後僅かと仰っていましたな。魔族との和平交渉は如何なされますか?」
「儂は一度、魔王と会ってみようと思う。直に会い、話をし、そこで見極めるつもりだ。だから貴族達よ今は己の利では無く、世界の為に余に協力して欲しい。……この通りだ」
陛下は貴族達に頭を下げる。
『陛下!頭をお上げください!』
『そうです!我等一同全力で協力致します!』
『そうです!何なりとお申し付け下さい!』
『え〜焼き芋〜焼き芋はいかがっすか〜』
焼き芋空気読め!でも一本貰おうかな!
「ありがとう…それでこそ王国が誇る貴族達だ。余は誇りに思う。……場合によっては魔族とも手を組み、邪神に対抗するかもしれん…その事も頭に置いて行動してくれると助かる」
流石は陛下だ…。ダメ元の茶番だったが、上手く行って良かった良かった。
全てが上手く行き、もう解散と言う所で、一人の伝令が部屋に突撃して来た。
『伝令ー!伝令で御座います!陛下!邪神の使徒を名乗る者が、この王都ガルトニアで暴れております!至急、禁軍の出撃命令をお出し下さい!手が全く足りません!陛下!』
はい?
「な、なんだと…?」
陛下が俺を見るが、俺は全力で首を横に振る。
一体何が起こっているんだ!
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