第20話 四天王と魔王


 「魔王が邪神の生贄だって!?一体どう言う事なんだタスカルさん!」


 「……言葉の通りだ。魔族が邪神の眷属なのは知っているな?……基本、魔族は邪神の命令に逆らう事は出来ない…百年前に加護を授かった第一世代は特にだ」


 …そんな。なら邪神をどうにかしない限り和平交渉なんて成立しないじゃ無いか…。


 「勇者…違うの…人類と和平を結びたい…この気持ちに嘘はないの、これだけは信じて欲しいの!」


 「……魔王、貴様がどう思おうが、所詮は邪神の掌の上の出来事だ。既に邪神は力をほぼ取り戻しつつある。精神体だが具象化に成功し、俺達に命令を下せるくらいにはな」


 そうか……もうそこまで猶予はなさそうだな。


 「そんな…もっと時間があると思ってたのに…。妾から父と母を奪ったくせに…最後の希望まで奪うなんて…。もう疲れたの……」


 魔王…お前も大変だったんだな…。


 「魔王様!元気だしいや!あんたにそんなのは似合わへんで!」


 「そうですそうです!だいじょーぶ!ヤメルトキモ、スコヤカナルトキモそして…死ぬ時も一緒ですー!


 こいつら…泣かせるじゃねぇか…。


 「せやせや!魔王様一人でなんて逝かせへんで!それにさっきからなんや勇者お前は!黙ってばっかで、我関せずかいな!お前も魔王様の部下になったんちゃうんかワレ!」


 そんな訳ないだろ!俺だって…!


 そんな時、不意に部屋の扉が勢いよく開かれた。


 「…………………エビも一緒」


 エビー!お前も居たんかい!いつもより高速で頭ふってるじゃねぇか!

 それに一人称エビかお前!


 「ふむ…アスタコスタ、貴方も来ましたか。魔王様…我等四天王がついておりますゆえ、例え勇者が力を貸してくれなくとも大丈夫でございます」


 なんだなんだ…さっきから黙って聞いてれば…!


 「…でも…でも、もう時間がないの。後は邪神が妾の命を取り来るのを待つしか出来ないの……」

 

 えーい!


 「お前の意志はその程度か魔王!このくらいの事で諦めるなら最初から夢を見るな!」


 魔王許してくれ…こんな言い方しか出来ない俺を。


 「なんや勇者おどれー!ようやっと喋ったと思うたらなんやその言い方は!お前には人の心っちゅうもんが無いんかい!」


 「見損ないました勇者!普段あまり怒らないリリスも、これにはプンプンです!」


 「…………エビもそう思う」


 うるせぇ!この三馬鹿トリオが!それにエビ!今日はよく喋るじゃねぇか!


 「しかし勇者殿…現実問題、魔王様に残された手はさほど多くはありません……。それとも貴方には何か策があるとでも?」


 「ああ、有る!取っておきの策がな!……殺るんだよ…邪神をな!そうすれば誰も不幸にならずに済む!」


 「無理よ……妾の父様とはは様が殺されたのよ?妾はまだ子供だったから実際に闘った所を見た訳じゃないけど……。魔族の中でも最強だった二人が一緒になって負けるなんて今でも信じられないの……」


 「……それは違うな、前魔王とお前の母は闘う以前の問題だ。お前の父と母…第一世代は特に強い加護を与えられていた、魔王の血筋なら尚更強くだ…。それを邪神に奪われたら闘いになどなるはずもない。前魔王と妃は生きたまま邪神に取り込まれ、糧にされた……」


 タスカル…俺が言えた義理じゃないがもう少しオブラートに包んで言ってくれ。


 「なんやおどれ!まるで生で見ていた様な口振りやな!どないやねん!」

 「そうです!そうなら何故助けてくれなかったんですか!魔王様が可哀想ですー!」

 「…………エビもそう思う」


 おいエビ!エビもそう思うbotになってるぞ!


 「皆んな、もういいの!父様と母様の最後が知れただけでも嬉しいの…。ありがとう、名前も知らない鬼さん。」


 「………タスカルだ。…お前等は直に邪神のあの凶々しい邪気に触れていないから、そう好き勝手言えるのだ。あれは一個人にどうこう出来るものではない…だが可能性があるとするなら……」


 へへ、タスカルさん、それ以上は言わなくていいぜ?可能性があるとすれば…この俺…勇者だろ?


 「可能性があるとすれば千年前に邪神様を封印したとされる女神くらいですかな?タスカル殿」


 違うだろ執事さん!


 「俺だろー!女神の召喚陣で召喚された勇者!女神の使徒とも言える勇者ファルケンハインだろ!逆に俺じゃなかったらこの物語はここでお終いだよ!?」


 「おいおい勇者はん、何をメタい事言うてはるんや……。少し落ち着きいや」

 「そうですそうです!血圧が上がりますよー?落ち着いて下さーい!」

 「…………そう思うエビ」


 エビお前!語尾がエビに!


 「……勇者、気持ちは嬉しいの…でも勇者がいくら強くても流石に神を相手するのは無理なの…。犠牲は私一人でいいのよ?」


 「うるさい!お前等勇者を舐めすぎだ!タスカルさん!邪神はいつ頃復活しようとしてるか正確な情報はないんですか!?知ってるなら教えて下さい!」


 「……太陽歴666年の月を10跨いだ時…太陽が黒に染まり、世界が闇に包まれるその刹那の時間に、邪神は最高の状態で復活する。先日手に入れたドラゴンハートにより、邪神の強さは封印前とは比べ物にならない程になるだろう。女神さえもう手出しは出来ないだろうな……」


 ドラゴンハートにそんな使い方が……。

 それに太陽歴666年か……。今何年だ?


 「そうか……。もう時間はなさそうだな……。状況は最悪だ。所で一つ聞きたいんだが………今、何年の何月だ?」


 「勇者おどれ〜!そんなのも知らんと深刻そうに喋っとったんかいワレ!」

 「そうですよー!そんなの子供でも知ってますー!」

 「……………勇者バカだエビ」


 エビてめぇ!普通に悪口じゃねぇか!


 「今は太陽歴666年の4月で御座います……。勇者殿、あと半年もありませぬな……」


 「しょうがねえだろ!俺はこの世界に来たばっか何だからよ!それより魔王!お前はどうしたいんだ?ここで全てを諦めるのか?それとも最後の時まで闘うのか?今決めろ!」


 魔王が折れても俺は闘い続ける。

 例え世界に一人しか助けを求める声が無くてもだ。


 「……勇者……妾だって最後まで頑張りたいの…人類と魔族が笑いあう世界が来ると信じたいの……。だけど……だけどそのせいでまた誰かが犠牲に……」


 あー!ぐだぐだうるせぇ!


 「魔王!お前は生きたいのか!?それとも潔く死にたいのか!?それだけ答えろ!」


 「そんなの……そんなの生きたいに決まってるの!」

  

 最初からそう言え!他の事は後で考えればいいんだよ!


 「魔王様…やっと素直になってくれましたな。このレイモンド……涙で前が……」

 「せやで!やるだけやって、ダメやったらみんなで死のうや!それだけの話やねん!」

 「うふふ、もし死んだら、また生まれ変わってみんなで幸せに暮らすですー!」

 「……………エビもずっと一緒」


 「皆んな!妾……妾嬉しいの!」


 魔王達はホームドラマ並みの熱い抱擁をしてみんなで泣いている。


 勇者も仲間に入れて!


 

 

 さて、これから邪神をぶっ飛ばす為の準備開始だな!

 


 

 

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