第19話 魔王城
あれから五秒おきにオカリナを吹く童を虫の息にし、龍都に置いた後、待たせていたタスカルさんと合流して魔王城まで転移した。
俺が転移陣を設置したのは初めて魔王と会った魔王の玉座がある部屋…魔王の間だ。
あれからまだちょっとしか経っていないのに、随分と昔の事の様に感じる。
そう、人間大人になると一日が早く感じるものだが最近の俺は毎日がエブリデイ……
「……何をブツクサ言ってるんだ勇者。誰かを探さなくていいのか?」
っは!そうだった!こんなとこで時間を潰している場合ではない!
「…すみませんタスカルさん。すぐに魔王か四天王の誰かを探しましょう。着いてきて下さい」
俺達は魔王の間を出て誰か人が居ないか探し出す。
しばらくウロチョロしていると、ピンクの髪をした悪魔と道化師の格好をした魔族が歩いていた。
「おーい!お前ら四天王の二人だよな!?よかったぜ!誰も居ないのかと思ったよ」
「なんやなんや、この魔王城でけったいな声を出しおってからに…って勇者はんやないか!やっと来やがったんかいおどれ!今まで何処ほっつき歩いとったんや!」
「そうですよー!あまりにも勇者さんが来ないから、魔王様なんて『勇者に裏切られたの』って言って毎晩枕を濡らしてるんですからねー!」
まさかそんな事になっているとは…。
「すまない…色々あって遅れてしまった。すぐに魔王の所へ案内してくれないか?謝りたいんだ」
「謝ればええってもんやないでホンマ。上辺だけの言葉なんていらんねん!行動で示してもらわな許せるものも許せへんくなるで!」
「そうですそうです!魔王様は甘い物が好きですからねー、甘い菓子なんかがあれば一発ですよ!」
甘い物…甘い物か…。…これならどうだ!
俺は勇者専用アイテム袋から俺の一番の好物…チョコバナナクレープを取り出す。
「これなら魔王も許してくれるだろうか?」
「見た目は合格や…。だが問題は味や味!これでもワイは四天王や、安物の味には騙されんで!ほんなら実食や………あ、甘いーーーーい!!」
「なんですかこのお菓子は!こんなの食べた事ないですー!この白いふわふわと黒いソース、そして果物とこの薄い皮が四身一体になってますー!」
ベタ褒めではないか。
「ふふ、そうだろう。俺のマイ フェーバリットだからな!さあ、魔王の元へ案内してくれ!」
「こんなもんを出されちゃ許可せん訳にはいかんやろな…ええやろ、着いて来な。魔王様は執務室におる、こっちや」
「あれから魔族側も色々ありましたからねー!随分と話が進みましたよ?後は勇者さんが来るだけですー!はぁー、一体いつになったら来るんでしょうかー?」
いや、ごめんて。勇者来たから、勇者今来たからね。
それから道化師に着いてしばらく歩くと、執務室に着いてしまった。
道化師はノックもせずにドカドカと部屋に入って行く。
「魔王様!邪魔するで!ご希望のもんを届けに来たで!」
「私も失礼するですー!魔王様!早く顔を上げて下さいよー!ご希望の商品ですよー!」
誰が商品だ!
「一体何事か!クラウニーにリリス!魔王様はお疲れです、だから静か……おお!やっと来てくれましたか」
「みんなうるさいの…。妾はもう駄目なの…。妾にはもう夢も希望もないの…このまま儚く消えゆくの……」
ま、まさか…ここまで絶望の淵にいるとは。
ほら、最高級のチョコバナナクレープと心の清い人にしか見えない茶葉でいれた紅茶…クリスタリアンだ…堪能してくれ。
「なんなの…この甘い匂い…。っは!この如何にも甘そうな菓子はなんなの!?…お、美味しい…美味しいの!そしてこの甘くなった口をリセットするこの透明な紅茶がまた…ってタダの白湯なの。爺…また白湯を………勇者!」
俺に気づいた魔王が俺に向かって走ってくる。
それを俺は両手を広げて迎える。
「魔王!遅くなって悪かった!だがもう安心だ!俺が来たんだ……ふべぇら!」
魔王の会心の一撃が俺の頬を打ち抜く、そして倒れ込んだ俺にマウントを取りさらに拳を連打してくる。
俺はもう虫の息だ。
「魔王様……その辺でおやめ下さい。もう死んでおりますゆえ……」
死んでねぇわ!
「遺体はリリスが眷属にするので貰って行きますー!」
「いやいや待たんかいリリス……。俺の傀儡人形にした方が強なるねんて毎回言ってるやろ?いい加減学ばんかい!」
いやいや論点はそこじゃねえだろ道化師!
やっぱお前らは魔族だ!人類の敵だ!
「……魔王城の奴等は随分と余裕があるんだな。お前らにそんなふざけてる暇はないはずだが?」
鬼さん!やっと喋ったと思ったら喧嘩売らないで!平和に行って!勇者からのお願い!
「おうおうおう!なんやおどれは!さっきからなんやデカい兄ちゃんやなって思ってたら、空気読めへんボケカスやったんかい!誰やおどれは!」
「そうですそうです!これでも私達は四天王ですからねー!偉いんですよ!平伏して下さい!」
ほらー!売り言葉に買い言葉!喧嘩はやめて!
「その巨躯に赤黒い肌…貴方はオガール族の者ですね?魔王への忠誠を唯一拒否した一族の貴方が何故ここへ?」
「………俺は勇者に連れて来られただけだ。説明は勇者がしてくれるだろう」
する!するからみんな落ち着いて!魔王!早くどいてくれー!
「
「ふん!これで勘弁してやるの!大体魔法陣があるんだから毎日帰って来れるの!一体全体何をやっていたの!」
そう言って魔王は俺からどいて、椅子に座り直した。
「痛ててて、
俺はこれまでにあった事を懇切丁寧に説明した。
魔族の三人組の事、邪神の事、ドラゴンハートの事そして…
「魔王……お前、俺になにか隠してる事はないか?」
「……ふー。勇者……妾頑張ったのよ?魔大陸にいる主要な魔族は皆んな妾に協力してくれたの。話し合いも順調に進んで、後は人類がどんな交渉をしてくるかの回答待ちなのよ?妾…妾頑張ったよね?」
ああ、頑張ったな魔王…。だけど俺が欲しい答えじゃないよ。
「ふふ、そんな顔しないでなの。ちゃんと全部話すの……。勇者……先に謝っておくの、ごめんなさいなの……」
「き、急に謝られても、何がなんやらだ……。ちゃんと説明してくれるか?魔王……」
「………まだるっこしいな。勇者、魔王は邪神が受肉するための生贄だ。それは変えられない
……今日も一日が長く感じられそうだ。
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