第16話 祝福の宝珠


 魔族の襲来から二日の時間が経った。


 あの後、泣き疲れて眠ってしまった童のせいで詳しい話はまた後日となった。


 「まぁ、シャーベット様も生き返ったばかりで混乱してるみたいだったから、丁度よかったのかもな」


 あっ、ちなみにあの倒れてた兵士、もとい三龍士の御三方は治療が間に合い、今はピンピンしている。


 そして俺が切った鬼の魔族は、死なない程度に治療して牢屋に入ってもらっている。


 

 結果だけ見れば、龍都はあらゆる所が焼け、城も大広間が半壊したけど幸いにも死者は無し。

 まぁ、火事による混乱で怪我人は多数いるけどな。

 もう二度手に入らない祝福の宝珠を使ってしまったが…童のためなら惜しくは無いな…。

 

 うん、惜しくは無い。

 

 『勇者殿ー!勇者殿お待ちくだされ!勇者殿ー!』

 

 「うん?どうしました赤龍さん。何か用事でも?っは!まさかまた魔族が!?おのれ魔族!滅ぼしてくれる!」


 『ち、違う!違います勇者殿!早とちりです!シャーベット様がお呼びなのです!勇者殿と話をしたいと!』


 「なんだ、それならそうと早く言って下さいよ。危うく魔族がこの世からいなくなる所でしたよ。それより赤龍さん、もう身体は大丈夫なんですか?』


 『早く言うも何も勇者殿が勝手に……。いやー勇者殿の治療のおかげでこの通りですよ!まるで若返った気分ですな!』


 俺達は歩きながら会話を続ける。


 「それは良かったです。と言う事は残りの二人も大丈夫そうですね。ところで、三龍士と言うのはこの国ではどのくらいの強さになるんですか?」


 『お恥ずかしい話ですが、一応役職がある軍の中では最高位になります。…ですがこの大陸は広いですからな、荒野に下れば隠れた強者がいるやもしれません』

 

 …それは少し頼りないものがあるな。

 とても童を任せられるとは思えない。


 「…少し厳しく聞こえるかも知れませんが、国を守るトップがあの程度の賊に負けてもらっては困るんですよ。幸いにも今回は偶々…偶然にも私がこの国にいたからなんとかなりましたが、本来ならこの程度の被害ではすみませんでしたよ?」


 偉そうな事言ってすみません!でも次はすみませんじゃ、すみませんよ!


 『…返す言葉も御座いませぬ。我等も今回も失態を恥じ、腹を切るつもりでしたが…シャーベット様に叱責されてしまいましたわ。生きて挽回しろと……』


 「それは当然です。今は一人でも強者が欲しい時、死ぬなどもってのほかです。私も色々やる事がある身、いつまでこの国にいられるか分かりませんが…良ければ稽古をつけましょうか?あの鬼の魔族ぐらいなら欠伸をしてても勝てるくらいにはしてあげますよ?」  


 むしろ欠伸で倒せるくらいにしちゃうか?

 うん、そうしよう。


 

 『…それが誠なら断る愚か者はいないでしょう…勇者殿、お頼み申す』


 よし、頼まれた!そして丁度よくシャーベット様の部屋についたな。

  

 「ああ、任せてくれ赤龍さん。では俺はシャーベット様と話をしてくるので、これで失礼します。話しが終わり次第、稽古を始めるのでそのつもりで。ではまた……」


 俺は部屋を二回ノックする。

 

 女中さんがドア開き、俺達を入れてくれる。


 ってお前も来るんかい!

 ではまた。とかカッコよく別れたじゃん!


 『…はは、勇者殿、すみませんなぁ。私も呼ばれておりまして』

  

 さいですか…。そう言う事は早く言ってよね。

 ん?童なにしてんだ?


 「母様、ふーじゃ、ふーふーするのじゃ。病み上がりなんじゃから、たんと食べないと駄目なのじゃぞ」


 『もう、アイスったら!皆んなが見てるでしょ!ごめんなさいねファルケン君、この娘ったらすっかりベッタリになっちゃって』


 このベッタリ童が!母君が困ってるでしょうが!


 「いえ、自分の親があんな目にあえば仕方のない事かと…。シャーベット様こそ身体に不備はありませんか?」


 「え!?母様!どこか悪いのかえ?何故早くアイスに言わないのじゃ!アヤメ!早う龍都一の医者を呼ぶのじゃ!」


 この早とちり童が!こりゃ重症だな…。


 『ふふ、大丈夫よアイス…。この通り元気一杯よ!…ねえファルケン君、私の様な純粋な龍人族はね長い年月をかけて魔力を貯め、子を身籠るの。その時に大半の力を子に渡しちゃうのだけれど、今の私は全盛期より魔力が溢れてるの。これはどう言う事か説明してくれる?』


 ふむ、間違い無く祝福の宝珠のせいだな。


 「それについては祝福の宝珠について説明しなければなりませんね。シャーベット様に使った祝福の宝珠は、俺が前にいた世界の聖女に貰った物なのですが、それの作り方がとても過酷なのです。」


 本当によくやり遂げたものだ。


 『どう言う風に過酷なのだ?勇者殿』


 「まず、女神様が浸かったとされる池に宝珠を浸け、その場で祈りを捧げ続けると女神様が現れるそうです。その時に水も食べ物も口にしてはいけないのです。しかもいつ女神様が現れるか分からないといった状態の中、祈り続けなければなりません。そして一度でも、"現れないんじゃないか……"と疑ってしまえば、もう二度と女神様が来る事はないとの事です。」


 「そ、それで聖女様は大丈夫じゃったのかのう?どうなんじゃファルケン!」

 

 えーい!うるさい童だ!


 「はいアイス様、聖女は精も根も尽き果てた七日目、まさに死ぬか生きるかの瀬戸際に女神様が現れ宝珠に神気を送り込み、さらに脱水症状と飢餓の聖女を回復させ去っていったそうです。その努力の結晶が祝福の宝珠という訳です。」

 

 本当に何故あそこまで頑張れたのか分からないな…。


 普段はおちゃらけているくせに…しかもそれを俺にくれるなんて…。

 

 『……そう。その聖女様のおかげで私はこうしていられるのね……。お礼を言えないのが残念ね……』


 「何を言ってるのじゃ母様!そこにファルケンがいるじゃろう!ファルケンは母様のためになんの躊躇いもなく、その貴重な宝珠を使ってくれたのじゃぞ!…ファルケン!本当にありがとうなのじゃ!」


 わ、童!俺、童の事誤解してたよ!こんな素直にお礼を言えるなんて!


 『勇者様!私からも御礼申し上げます!』


 女中さんまで!勇者泣いちゃう!


 『我等軍部の者、一同からもお礼申し上げますぞ。よくぞシャーベット様を救ってくれ申した。』


 お前らはもっと頑張れ!これから地獄の稽古じゃ!


 『ええそうね……勇者ファルケンハイン様、この国の女皇として、心からお礼致します。よく私を……いえ、民を救ってくれました……』


 いや、全ては童のおかげだよ。


 「いえ、この度は全てアイス様の功績でしょう。勉強から逃げ出したおかげで私をこの国まで連れて来れたのですから!あはははは!」


 「こ、これファルケン!それは言わない約束じゃぞ!内緒なのじゃぞ!」


 この逃げ出し童が!シャーベット様も女中さんも赤龍さんも笑ってるじゃないか!


 


 聖女…お前のおかげでこの光景を守れたよ、ありがとな。

 

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