第15話 勇者ファルケンハイン


 テメェら!俺のお気に入りの童を二度も泣かせやがって!


 「おい、お前ら!一体何をやってやがる!魔族と人類の戦争は終わったはずだぞ!魔王から聞いていないのか!」


 「ああん?なんだお前?雑魚は死んどけ」


 いきなり放たれる魔力の塊を俺は片腕で払う。

 

 「"換装 勇者シリーズ 光"」

 

 俺は今の執事服から白と青のバランスのとれた装飾に勇者の紋章が描かれた鎧に換装する。


 お前らは全力でお仕置きしてやる。


 「なかなかやるじゃねぇか、それになんだその鎧?お前誰だ?」


 「俺は勇者…勇者ファルケンハインだ。おい魔族、もう一回聞くぞ?魔王から戦争は終わりだと言われなかったのか?」


 「そうかそうか!話には聞いてたが、お前が勇者か!それに戦争が終わっただと?そういえばそんな戯言を聞いた様な気がするが…まぁ俺達には関係ねぇな!なぁエビル!タスカル!」


 「だね!僕達はあんなお人形に従ってる訳じゃないからね!」


 「…俺は強い奴とやれれば助かる」

 

 そうかそうか、お前等が誰に従ってるか大体分かったよ。

 それにお人形…か。魔王…大事な事は言葉にしないと伝わらないんだぜ。


 まぁ今はこいつ等のお仕置きが先だ。


 「よしお前等、一人ずつぶっ飛ばされるか、三人まとめてぶっ飛ばされるか選べ」


 「調子こいてんじゃねぇ…。エビル!タスカル!殺るぞ!ぶっ殺せ!」


 その言葉と共にまずデカい鬼が突っ込んで来た。

 鬼が持っているデカい剣を軽くいなし、腹を思いっきり殴り壁まで吹っ飛ばす。


 しかし瞬時に足元から黒い闇の棘が生えて、俺を襲う。


 それを間一髪でかわすが、その隙を見逃さずリーダー格っぽい男から大きい魔力弾が3発飛んで来る。

 

 俺はそれを持っている盾で防ぎ、エビルと呼ばれていた男の元に一瞬で移動し、腹を思いっきり蹴る。


 壁に激突したエビルに瞬き一つする間に追いつき、さらに顔面に拳をお見舞いする。


 「まだ息があるか…大したもんだ。後はお前一人だけど、今回ばかりは許す気はないよ。でも心を込めて謝るなら手加減くらいしてあげるけど、どうする?」


 「ふざけんな!謝るくらいなら死を選ぶわ!この化け物が!…邪神よ!邪の指輪よ!俺にもっと力をよこせ!」


 その言葉に反応したかの様に指輪からとてつもない邪気が男に纏わりついて行く。


 邪気が晴れると男の体に変化が起きていた。


 漆黒の二対四枚の翼、禍々しい一本の角、そして体に刻まれるおびただしい刻印。


 「さっきよりは強そうだな、一応警戒しておくか…。[覇王掃滅勇者式防御法守れ!]」


 俺は倒れてる三人の兵士とシャーベット様の亡骸を抱いて泣いてる童に防護壁を張る。


 「今の俺は無敵の気分だ…俺の名はマールム……全世界に名を轟かす魔族に、今なったのだ!とりあえず…お前は死ね!勇者!」


 マールムと名乗った男は先程とは比べ物にならない魔力弾を連打で撃ってくる。


 だがこの程度の実力で世界に名を轟かすだと?

 童を泣かせたくせに何を調子に乗っているのだこの男は…絶望を教えてやる。


 「神滅燼滅勇者式魔法停止法黙ってろ!」


 マールムが放った魔力弾も、その身に纏っている邪気も全てが消失する。


 「な…なにが?この魔法が撃てなくなる感覚…あの時と同じだ…。勇者テメェ!何しやがった!」


 「黙れ…。敵にベラベラ喋るほどお人好しじゃないもんでな。[聖剣召喚]創笑剣スマイル!」


 この聖剣は二ツ目の世界で伝説のドワーフに作ってもらった最後傑作だ。

 

 世界中の皆んなが笑って暮らせる世界を創ってくれと、そんな願いを込めて作られた作品だ。


 「 …せめて一太刀で終わらせてやる。

来世では笑って過ごせるといいな」


 「や、やめろ!まだ死にたくねぇ!クソ!まだ魔力が戻らねぇ!指輪よ俺を助けろ!誰でもいい!助けろ!」


 俺がマールムを切ろうとした瞬間に、横から聖剣を弾かれてしまった。


 「…マールム、エビルを連れて逃げろ。ここは俺が引き受ける」


 「タスカル!生きてやがったのか!助かったぜ!ああ、エビルは任せろ!ハハハハハ!」


 逃がすかよ!……チッ、邪魔くさい鬼だ。

 他の二人より邪気が薄いからと手加減したのが仇になったな…。


俺は瞬時に鬼の剣を根本から断ち切り、肩から腹にかけて大きく切り裂く。

 

 鬼はもう立ち上がれないだろう。


 「ハハハハハ!魔力が戻ったぜ!指輪よ!俺とエビルを拠点まで転移させろ!じゃあなタスカル!お前の事は忘れねぇ!」


 そう言うとマールムとエビルの姿は消えてしまった。シャーベット様の心臓と共に…。


 「クソ!俺の馬鹿が!油断しすぎだ!」


 いや、今は童のケアが優先だ…童!


 「母様…覚えておるかのぅ?最初にアイスが怒られたのも勉強が嫌で逃げ出した時じゃったのぅ…。こんな事になると知っておったら…も、もっと…もっと真面目に…言う事を…聞いておくん…じゃった…のぅ。母様…ごめんなさいなのじゃ…。どうにか…もう一度…起きてはくれんかのぅ……」


童……。勇者も後二、三年で三十歳のおっさんなんだぞ……泣かせるなよ……。


 前の世界の聖女よ……お前から貰った祝福の宝珠……ここで使ってもいいよな?


 このままじゃ魔族と人類は永遠に争う事になっちまう。


 だから使ってもいいよな?


 俺のためにと、宝珠をくれた聖女には申し訳ないが…許してくれるよな?


 「アイス様……何故私に命令しないのですか?母を起こせと……冥府より呼び戻せと……さぁ、お命じ下さい」


 「ファルケン……か。お主、勇者様だったのじゃな。今までの非礼を詫びるのじゃ……だが今は母様と別れをさせてくれなのじゃ……」


 えーい!まだるっこしい童が!こうしてくれるわ!


 「わわ、これファルケン!なぜアイスをおんぶしておるのじゃ!やめるのじゃ!」


 うるさい!童の定位置だろが!


 俺は勇者専用アイテム袋から"祝福の宝珠"を取り出し、シャーベット様の心臓があった場所に入れる。


 回復の魔法でその辺りの組織を回復しつつ、慎重に宝珠と繋げる。


 さぁ最後の仕上げだ!


 「さぁ、アイス様!魔力で心臓を動かしてシャーベット様を起こすのです!これはあなたの仕事ですよ!」


 「わ、分かったのじゃ!母様ー!いつまで寝てるつもりなのじゃ!起きるのじゃ!早く起きてたもれー!」


 童の魔力に反応した宝珠から虹色の魔力が溢れ出し、シャーベット様を包んでいく。


 それが段々収まると、シャーベット様の瞼がピクピク動き出した。

 

 『……う、うーん。もう朝なの…?あれ?アイス…そんなに泣いてどうしたのかしら?誰かにいじめられたの?』


 「か、か、か、母様ー!」


 童はシャーベット様に抱きつき、これでもかと泣いている。


 ええいーやあ、俺ももらい泣き。


 


 ああ…これでひとまずは一段落だな。

 

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