第14話 魔族の三人 (魔族視点)


 俺は邪神の加護を強く受けた魔族だ。 

 俺を舐める奴は誰であろうと許さねぇ。

 

 あのガキもこの街も必ずタダじゃおかねぇ、だがその前に俺達にはやらなきゃならねぇ事がある。


 「おい、エビルにタスカル!その似合わねぇ変装を解いちまいな」


 「えー、そりゃないよマールム。これでも結構似合ってると思ったんだけどなー。タスカルもそう思わないかい?」


 「俺は窮屈な人間の姿はもう懲り懲りだ。元の姿になって良いと言うなら助かるぜ」


 こいつらは俺と同じく、邪神に強く加護を受けた同胞だ。


 「えー?タスカルまでそんな事言うのー?もういいよ!はい解除ー」


 みるみる元の魔族の姿に戻って行くエビルとタスカル。


 エビルは悪魔の様な風貌に、タスカルは鬼の様な巨躯に体が変わって行く。


 「よし、それでこそ魔族だ。とりあえず邪神様に命令された物を獲りに行く必要がある。誰かなんか良い案は無いか?」

 

 「長生きした龍の魔石化した心臓…ドラゴンハートだっけ?やっぱこの国の女皇様から貰うのが手っ取り早いんじゃない?娘も居るみたいだけど、そっちはまだまだ若いみたいだしね。」


 「俺は野生の龍がいるなら、そっちの方が助かる。野生の方が強そうだ…」


 「バーカ、野生の龍なんて簡単に見つかるかよ。やっぱり面倒くせぇが城に乗り込むしかねぇな」


 「はいはーい!僕にいい案があるよ!まず街に火を放ちます、そしたら火を消すために兵や人が大勢集まります。そうすると城が手薄になりまーす、僕達の侵入が楽になりまーす!どうマールム?ナイスアイディアでしょ!」


 …そんな簡単に城の守りが薄くなるとは思えねぇが、何もしないよりはマシか…。


 それにこの街をメチャクチャにできるならそれだけでもやる価値があるってもんだぜ!


 「エビル、お前の案を採用してやるよ。タスカルは俺達が街を燃やしてる間は城の近くにいろ。適当に燃やしたらすぐ合流するからよ」


 「すまんな、俺は魔法が苦手だからな。助かるぜ」


 「そうと決まれば早く行こうよー!僕もう我慢出来ないよー!」


 ああ、俺もだよ。あのガキのせいでフラストレーションが溜まって仕方がねぇ。


 あいつ確か龍皇女だかなんだか言ってたな、あの時は嘘かと思ったが…こりゃ目的が一片に片付きそうだ。


 「よし、行くぞ!エビル、タスカル!俺も我慢の限界だ!」


 


 それから俺とエビルで街のあらゆる所を燃やして燃やして燃やしてやった!


 ははは!人間共が泣き喚いてやがる!

 

 それに都合良く本当に兵士が集まって来たじゃねぇか!

 エビルが賢いのか、この国の奴等が馬鹿なのか…まぁどっちでもいいな。


 「マールムー、もうそろそろいいんじゃない?タスカルも待ってるよー」


 「おうエビル、来たか。俺もそう思ってた所だ、行くぞ!」


 


 エビルとあの遠くに見える金色の龍の像が乗った城まで飛んで行く。


 下を見ながら飛ぶと、人間共が虫の様に蠢いてやがる。無様なもんだぜ。


 おっ、そろそろ城の門が見えて来たな。

 ん?タスカルのやつも我慢できなかったみたいだな。


 

 「おい、タスカル!そいつらちゃんと殺したのか?」


 「来たか…。ああ、ちゃんと地獄に送ってやったわ。こいつらも助かるだろう。」


 なにが助かるんだよ!まぁいい。


 血だらけの門番二人を後目にどんどん城の中に入って行く。


 流石に空っぽって訳にはいかねぇみたいだな。

 チョロチョロ兵士が出て来やがる。

 まぁ雑魚だけどな。


 「おいエビル、そろそろ歩くのも面倒になって来た。誰かから聞き出せ。」


 「んー、ちょっと待ってねー。っあ!この部屋に誰か隠れてるみたいだよ!はい、出て来てねー」


 エビルが引っ張り出したのは、いかにも戦闘力のなさそうな着物を着た女だ。


 「ねぇねぇ、お姉さん!この国の女皇様を探してるんだけど知らない?知ってたら教えてー」


 『誰が!あなた達魔族に話す事など何もありません!すぐ出ていきなさい!』


 「んー、そう言うのいいや。はい教えてねー」

 エビルは得意の洗脳魔法をかける。

 こんな女に逆らえるだけの魔力抵抗は無いだろう。


 『………この城の…離れの…大広…間にお隠れに…なってい…ます』


 「はーいありがとねー。じゃ、バイバーイ!ってタスカル!横取りしないでよ!」


 はは!タスカルもやるじゃねぇか!心臓を一突きか!


 「いいから行くぞエビル。タスカルも次は譲ってやれよ?」


 「……ああ。」


 なんだタスカルのやつ、元気ねぇな。

 まぁいい、えっと離れの大広間って言ってたな?まだ歩くのかよ、まぁゆっくり行くか。


 俺達が奥へ奥へ進んで行くと、金色の龍と銀色の龍の絵が描かれたデカい襖が見えてきた。


 「エビル、タスカル!どうやらここみたいだぜ。中から強い気配がしやがる」

 

 「だねー。早く入ろうよマールム!早く終わらせて帰ろうよー」

  

 分かった分かった、ったく飽きっぽい奴だなエビルの奴は。


 襖を開けるとどデカい部屋の真ん中に正座をしてる女が一人いるだけだった。


 「なんだ?沢山待ち構えてるかと思いきや…とんだ期待外れだな。お前が女皇か?」


 『…そうだ、私がこの国の女皇…シャーベトリア・ニンサス・ヴァッスである。魔族共…一応聞いてやる、何しに来おった?』


 「なに、我等が創造主がお前の心臓をご所望だ。大人しく渡せば痛くしねぇからよ!ハハハハハ!」


 『なんとも下賎な笑い声よ…。そうか遂に邪神が動き出したか…。この世は荒れような…。』


 「ねぇマールム!いつまで喋ってるのさ!早く殺っちゃおうよ!」


 ッチ、うるせぇ奴だ。っとグダグダしてたから誰か来たみたいだな。


 『シャーベット様から離れろ!魔族共が!』


 『我等が来たからには指一本触れられると思うなよ!』


 『シャーベット様!早くお逃げ下され!ここは我等に任されよ!』


 なんだなんだ?このトカゲ3匹は。

 

 『良く来てくれた、三龍士よ。此奴らはここで止めねばならぬ!心してかかれ!』


 『っは!我等も薄くではありますが龍人の血を引く戦士!』


 『必ずやうち倒してみせましょうぞ!』


 『龍都を燃やした報いを受けさせてやるわ!』


 ピーチクパーチクうるせぇトカゲだ。


 「おいエビル!お前やるか?さっき殺れなかった分まとめてやっていいぞ」

 「いいのかい!?丁度退屈してた所さ!ありがたくもらうよ!」

 「……待て、俺がやる。」 

 「…タスカル、いい加減怒るよ?さっきも盗ったよね?」

 「………サラマンダーの干し肉をやる。」

 「本当かい!なら譲るしかないね!先に言ってくれたらこんなに怒んなかったのにー、このこのー!」

 

 なんだ?タスカルのやつストレスでも溜まってんのか?


 そういえばこの城の奴等全員アイツが殺ってんな。まぁいいか…。


 タスカルとトカゲ3匹の勝負は一瞬だった。

 タスカルの愛剣牙王から放たれる魔力のこもった一撃、通称[鬼渡り]を喰らったトカゲは3匹共地に伏している。


「タスカル!相変わらずやるじゃねぇか!さて、女皇さんよ、もう助けは来ないのかい?」


 『…そんな。三龍士が一撃じゃと…?ありえぬ…。こうなったら私が相手をしてやるわ!うおぉぉぉ!……な、何故じゃ!?龍の姿になれぬ!』

 

 「ハハハハハ!残念だったな!お前が龍になれるのは知ってたからな、すでに対策済みよ!

 邪神様に授けられたこの邪の指輪でな!この指輪は様々な効果を持つが、わざわざ説明してやる程お人好しじゃないもんでな!早速死んでくれや!」


 俺は呆然としている女皇に向かって魔力の塊を放ち壁に叩きつける。


 そして魔力で手足を壁に縫い付け、磔にする。  


 『ぐっ…こんな事をしてタダで済むと思うなよ魔族共!』


 「あ?うるせぇよ。お前の娘もすぐに送ってやるから黙って死んどけや」


 『貴様!私の娘に手を出すな!もし手を出して傷一つ付けてみろ…この首一つだけになっても殺してくれる!』


 なんだこの魔力は!?ヤバい!


 「エビル!眠らせろ!今すぐだ!」


 「わ、わかったよ!…眠れーー!!……ハァハァ…ね、眠ったよマールム!」

 

 クソが!最後にビビらせやがって!

 

 「よくやった…。エビル、心臓からドラゴンハートを取り出せ。慎重にな」


 エビルが心臓にナイフを突き立て、中から真っ赤な魔石のような石を取り出す。


 ふぅ…とりあえず仕事は終わりだな。

 って、また誰か来やがったな。


 なんだ…お前かクソガキ

 

 


 

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