第13話 泣いた龍皇女
突然部屋に入ってきた兵士により、凶報が知らされた。
『シャーベット様!何者かによって城下町が襲われています!あちこちから火の手が上がり、対処が間に合いません!」
『すぐに全兵士を火の対処に回しなさい!暴れてる不届者には三龍士を当てなさい!すぐに動いて!』
命令された兵士は返事をする間も惜しみ、直ぐに駆け出して行った。
「母様!アイスも行くのじゃ!きっとさっきのよそ者の仕業なのじゃ!ここで黙って見てるなんて皇族の名折れなのじゃ!」
やる気のある童じゃないか。だけど親ってものはいつの時だって…
『ダメです!城下町では元の姿になるだけで甚大な被害がでます!そんな貴女を危険な場所に行かせる訳には行きません!偶には母の言う事を聞きなさい!』
…だよな。せめて龍の姿になれればまだ安心できるんだが。
「母様の分からずや!龍にならなくてもアイスは強いのじゃ!もう勝手にするのじゃ!」
待って童!せめてこの勇者ファルケンハインを連れて行け!
『…本当に全く言う事を聞かないんだから。執事のファルケン君…いえ、勇者のファルケン君と呼んだ方がいいかしら?』
な、なに!?何故バレた!さては貴様、忍びの者か!
「…よくお分かりになられましたね。そうです私は勇者ファルケンハインです。何故わかったのかお聞きしても?」
『うふふ、私の目は少し特別なの。貴方からうっすら女神様の神気が見えていたと言う訳。そんな勇者様に私の娘をお願いしても良いかしら?』
言われるまでもない。
俺のお気に入りの童だからな
「安心して下さい、無事に連れ帰ります。だけど相手の目的が分からない以上、シャーベット様も気をつけて下さい。ここが襲われる可能性もありますので」
『ええ、分かっているわ。城も守りを固めます。アイスを…民をよろしくね』
ああ、任せとけ!勇者ファルケンハインに敗北は無い!
俺はすぐに童の後を追い、城を飛び出すが、
童の姿は何処にも見当たらなかった。
「
空から見た方が早いと判断した俺は、すぐさま宙高く浮かび、街全体を見渡す。
「クソ!本当に火があちこちに回ってるじゃないか!童は何処にいるんだ!」
さっきのメインストリートにも火が回ってるな。
もしかして……いた、童だ!…まずは一安心だな。
童は民と一緒になって火を消そうとしているようだ。
待ってろ童!勇者がすぐ行くぞ!
俺は超特急で童の元まで飛んでいく。
「アイス様!ご無事ですか!?迷子になるから一人で歩き周ったらダメと言ってますでしょう!」
この童が!毎回毎回、俺を迷子にしやがって!
「ファルケン!手伝ってたも!アイスは水魔法が苦手なのじゃ!このままじゃアイスの愛する龍都が…龍都が…。ファルケン…頼むのじゃ…」
泣くなよ童…。お前は元気にはしゃいでるのが丁度いいんだよ。
「畏まりました…。アイス様、皆と後ろに退がってもらえますか?少し危険な魔法を使いますので」
「わ、分かったのじゃ!皆の者退がるのじゃー!危ないのじゃぞー!」
童の誘導で皆、大人しく退がってくれる。
流石、人望の厚い童だ。
皆の模範になるべき童だな。
「
俺は最上級の制限魔法を発動し、メインストリートの炎が燃えるのを停止させた。
水や氷で消す事も出来たが、この方法が一番建物に被害をださないだろう。
「アイス様、火の手はここだけではありません。すぐ他の場所へ向かいましょう、背中にお乗り下さい、アイス様の人望が必要な時ですから。」
実際、童の人望は大したものだ。
こう言う時に民が素直に言う事を聞いてくれるのはありがたい。
「す…すっっっっごいのじゃ!!!流石はアイスの執事なのじゃー!!さぁファルケン!まだまだ火の手は上がっておるぞ!すぐに向かうのじゃ!!」
うん、それ俺言った。
それから俺と童の連携で龍都の火はほぼ消し止められた。
だが肝心の火をつけた奴等が見当たらない。
「アイス様、ここでおおよそ火は消し止めたと思われます。ですがまだ賊が何処にいるか分かっておりませぬ、いかが致しますか?」
「ファルケン…本当にありがとうなのじゃ。アイスの龍都はかろうじて守られたのじゃ、そしてこんな事をしでかした愚か者を放っておく事など出来ぬのじゃ。…ファルケン、また力を貸してくれるかの?」
っふ、この世が誕生してから勇者をここまでコキ使ったのはお前で10人目位だ。
高くつくぞ?
「アイス様…今更で御座います。何なりとお命じ下さいませ。ですが問題はどうやって探すかですが、何か策がおありで?」
「策はないのじゃ…。だからファルケン、走るのじゃ!初めて会ったあの時の様に走ってたも!」
テメェ童!毎回毎回、俺をアッシー君にしやがって!
『
なんだどうした兵士!何があった!
「どうしたのじゃ!な、何があったのじゃ!まず餅つくのじゃ!」
お前が落ち着け。
『
な、なんだって!何故魔族が!
「なんじゃと!?母様は、母様は無事なのかぇ!」
『私は伝令ですので城の中の様子は分かりません!今は罠だと気づいた三龍士のお三方が急ぎ城に戻っています!アイス様もお急ぎ下され!」
「わ、わかったのじゃ!ファルケン…頼むのじゃ!」
えーい!世話の掛かる童だ!早く背中に乗れ!
童を背負った俺は、人生で一位二位を争う速度で城を目指して走った。
城の門に着くと、さっき会話したばかりの門番二人が血だらけで倒れていた。
「ファルケン!まだ息があるのじゃ!」
ああ、分かってるよ童、もう回復済みだ。
「アイス様、すでに治療は終わっています。先を急ぎましょう」
「流石はファルケンなのじゃ…魔法の発動に全然気づかなかったのじゃ。母様も城の皆んなも心配なのじゃ!先を急ぐのじゃ!」
城の中に入り、さっきまでシャーベット様がいた部屋の前に、先程案内してくれた女中さんが倒れていた。
「アヤメ!大丈夫かえ!しっかりするのじゃ!…ファルケン!」
あいよ童!回復完了だ童!
だけどもう少しズレてたら心臓だったな、危なかったぜ女中さん!
『…うーん、っは!私は死んだはずじゃ…あっ!アイス様!シャーベット様は離れの大広間に居ます!お急ぎ下さい!さぁ早く!』
「わかったのじゃ!アヤメ…ほんに生きてくれてありがとなのじゃ!母様の事は任せるのじゃ!お主は早う避難するのじゃぞ!ファルケンこっちじゃ、着いてたもれ!」
童急げ!なにか嫌な予感するぜ!
童に着いて奥へ奥へ走って行くと、とても大きな部屋の前にたどり着いた。
中は不気味なほど静かだ。
童が恐る恐る襖を開けると、そこには床に倒れ伏す三人の兵士がいた。
更に無傷の魔族三人が、壁に磔になってるシャーベット様の心臓あたりにナイフを突き立て、真っ赤な魔石の様な物を取り出す所だった。
「か、母様…?それに赤龍、青龍、緑龍も何をやっておるのじゃ?倒れてる場合ではないのじゃぞ?……ほれ母様を守らぬか。か、母様……ファルケン!……母様が……母様がー!」
テメェら!二度も童を泣かしやがったな!
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