第12話 龍城へ


 そう、あれは二つ目の世界を救った後の、飲み会の場の事だった…。


 いざ会計という時に、何故か酔い潰れる格闘家と聖騎士。 

 飲んでいないのに何故かトイレから長時間帰ってこない賢者。

 さっきまであった財布を無くす聖女と魔法使い…。

 そして支払いをする勇者ファルケンハイン…


 あの時を超える怒りがこの3つ目の世界で起きるとは思ってもいな……。


 「……ケン!…ファルケン!何をブツブツ言っておるのじゃ?そろそろ帰るとするのじゃ!」


 …はぁ。誰の童のせいで怒ってると思って…いや待てよ、さっき龍皇女だか何だか言ってたよな?

 

 これは一時的に立て替えとくだけで、後で倍にして返してくれるパターンか!

 

 なら誠心誠意お仕えします童!


 「申し訳ありません…少し考え事を…。お次は何処へ向かわれますか?アイス龍皇女様。」


 「なんか呼び方が仰々しくなったのぅ、まぁいいのじゃ。次は勿論、アイスの家なのじゃ!

ファルケンにはここの支払いを任せてしまったからのぅ、褒美を与えねばならんのじゃ!」


 思った通りじゃん童!下げてから上げてくるなんて、童もやるじゃないか!このこのー。


 「左様で御座いますか。私は見返りなど求めてはいなかったのですが…。流石はアイス龍皇女様で御座います……」


 「なに、信賞必罰は世の常なのじゃ!さぁファルケン!あの遠くに金色の龍の像が乗ったお城が見えるじゃろ?あそこに向かうのじゃ!」


 なんてゴージャスなお城なんだ…。

 誠心誠意お仕えしててよかった…。


 「畏まりました。ではアイス龍皇女様、また迷子になっては困りますので私の背中にお乗り下さい」


 童は子供じゃないなどブツクサ文句を言っていたが、無理矢理おんぶをして、ゴージャスなお城に向けて走りまくった。


 ようやくゴージャスなお城の門の前に着くと、門番という敵が二人も待ち構えていた。


 「アイス龍皇女様、敵です。危ないので離れて下さい」


 「ファルケンよあれは敵ではないのじゃ。

おーい!帰ったのじゃ!門を開けてたもれ!」


 童の声に反応した敵がゆっくりこちらを振り向く。


 『これは御姫様おひいさま!ようやっとお戻りになられましたか!』


 『御姫様おひいさま、シャーベット様がカンカンになってお待ちですぞ!ハハハハハ!ところで其方の御仁は誰ですかな?』


 おっと、次は俺の台詞の番か、よしここは恩着せがましく、盛大に今までの苦労を…


 「此奴は旅の執事のファルケンじゃ!途方に暮れてた所を拾ってやってのぅ…。まぁ、お主らも良くしてやってくれなのじゃ!」


 テメェ童!途方に暮れてたのは童だろうが!

 

 「ご紹介に預かりました、ファルケンと申します。アイス様には大変迷惑を…じゃなかった、大変お世話になっております」


 『おお、こちらこそ宜しく頼む!御姫様おひいさまはこんな感じだが、悪い方ではないのでな、良くしてやってくれ。』


 「こんな感じとはなんじゃ!アイスはいつだって清廉潔白!民の信頼も厚い、この国の模範となるべき人物なのじゃ!いいから早う門を開けい!」


 なーにが清廉潔白だぁ?模範だぁ?この童が!こうしてくれる!


 「ぷははは、きゅ、急にどうしたのじゃファルケン!くすぐったいのじゃ!や、やめるのじゃ!」


 『出会ったばかりだと言うのに、随分仲の良さそうなご様子。良き出会いがありましたな御姫様おひいさま。ささ、今門を開けますゆえ、すぐにシャーベット様の元へ向かって下され。』


 「わ、わかったのじゃ!これファルケン!いつまでくすぐるのじゃ!アイスが悪かったのじゃ!勘弁してくれなのじゃー!」


 そんな童の嘆願を無視し、くすぐり続けながら城の中へ入っていった。

 

 途中で出会った女中の人にシャーベット様の部屋まで案内してもらい、部屋の前に着いた頃には童は虫の息になっていた。


 『ここがシャーベット様のお部屋になります。アイス様、お覚悟めされよ。おほほほほ』


 「…わ、わかったのじゃ……」


 女中の人、案内ありがとう。そして童、随分元気がないじゃないか!ふはははは。


 童は2度ほどノックをして扉を開ける。

  

 部屋の中には、童とは似ても似付かぬ妖麗な黒髪の婦人が座っている。

 その頭には二つに枝分かれした小さな角が二本生えていた。


 「母様…ただいま帰りましたのじゃ…。でも遅くなったのには訳が……」

 

『お黙りなさい…。あなたは、何故いつもいつもいつもいつもいつもお勉強の時間になると「大陸を守護するのじゃー」とか言って逃げ出すのですか!今度と言う今度は許しません!お尻を出しなさい!」


 いいぞ!やれやれ、シャーベット様!今までの報いだ童!


 「い、いやじゃ!助けてたもれファルケン!」


 こら童!俺を巻き込むな!親子喧嘩は勇者も食わないって言うだろ!


 「お初にお目にかかりますシャーベット様。私は旅の執事のファルケンと申します。私が言うのもおこがましいのですが、アイス様を許してあげてもらえませんか?これでも中々大変だったので御座います」


 くそ!童、お前を助けるのはこれで最後だからな!だからキラキラした目で俺を見るな!


 『ふーん、旅の執事のファルケン君ねー。それでなにが大変だったのかな?』


 俺はこれまでの経緯を説明し、いかに童がバカ…じゃなかった、活躍したか力説した。

 

 童が俺を見る目はすっかりホの字だ。


 『なるほどなるほど。侵入者と戦ったり、よそ者から民の命を救ったと…いいでしょう!今回は不問にします!だけどアイス、次はありませんよ!?』


 「きゃー!流石は母様なのじゃー!話がわかるのじゃ!ファルケンもよくやったのじゃ!…安心したらお腹が空いたのじゃ、のうファルケン、母様にもドラゴン焼きを食べさせてあげたいのじゃが…だめかのぅ?」


 だからどら焼きだって言ってるでしょ!それにさっき豚の角煮食べたばかりでしょうが!


 まぁ、さっき見た感じじゃあこの国には甘味が全くなかったからな、デザートは別腹だし…食べさせてやるか。


 「しかたありませんね…。では、こちらがどら焼きとアイスクリームで御座います」


 「ふぉぉー!こっちは見た事もない菓子じゃ!雪のように真っ白でふんわりとろけそうな見た目じゃ!食べなくても分かる美味いやつなのじゃ!」


 『ふん、私の娘の名前を菓子なんかにつけるとは!これは厳しく採点しなければいけません!』


 ……ねえ、なんか喋って。無心で食べないで。童に至ってはどら焼きにアイスクリーム乗せて食べてるじゃえねか。

 そんな合体技教えた覚えはありませんよ。


 「ふぁー…美味かったのじゃ……」


 『ええ…幸せとはこう言う事を言うのね…。ファルケン君、なにか欲しいものはない?褒美をとらせるわ……』


 ぐふふ、そうこなくっちゃな!

 まずは童に立て替えた料理代だろ?それに…


『大変です!シャーベット様!城下が!城下街が!大変なことになってますー!』


 


 まだ俺が考えてるでしょうが!!

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