第11話 邪神の使徒?


 うぉー!すげー賑わってるぜ!

 やっぱり国が違えば、街の作りも違うなー!


 おい童!どこに連れてってくれるんだ?

 勇者ワクワクしちゃうよこんなの。


 「アイス様…いつまでも笑ってる場合では御座いません。これからどうなされますか?」


 「ふひっ…す、すまんなのじゃ…。そうじゃのう…アイスは小腹がすいたのじゃ!屋台巡りじゃファルケン!着いてたもれ!」


 待って童!異国の地で一人にしないで童!


 「ファルケン!こっちじゃ!ここの店の豚の角煮が最高なのじゃー!」


 おお!ここがメインストリートってやつか!

 凄い店の数だぜ!見た事ない物ばかりだな。


 「アイス様…勝手に走り回らないで下さい。迷子になってしまいますよ?」


 俺がな。


 「大丈夫なのじゃ!ほら、ファルケンの分もあるのじゃ!早く座るのじゃ!」


 ぐぬぬ…幼女に奢ってもらうのは俺のプライドが…。

 まぁいい、おんぶ代と言う事にしておこう。


 俺は仮面を外し、目の前のプルプルの角煮を咀嚼する。

 口の中に入れた瞬間、俺の衣服が弾け飛ぶ衝撃を感じる。


 「歯がいらない寒天スライムのような柔らかさ…だが確かに残る肉の弾力…辛子もキラービーのように口を飛び周り…最高だ……」


 「…そうじゃろ?ここは何回来ても最高なんじゃ!全く飽きが来ないのじゃ!…ところでファルケン、お主さっきと顔が…まるで最初に会った侵入者……」

 

 …っあ!やべ!仮面外してもうた!ど、どうする!どうするファルケンハイン!


 「バレてしまいましたか…。実はさっきアイス様が闘った侵入者は、私が幼い頃に生き別れた兄なのです。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません……」


 ヤバいよ!このままじゃ狼少年も信じてくれない人になっちゃうよ!


 「なんと…そうじゃったのか…。だが安心するのじゃ!ファルケンに罪はないのじゃ!お主の兄も悪いようにはせぬのじゃぞ!」


 …童!なんて心の清い子!

 それに比べて俺は…俺は!


 「…ありがとうございます、アイス様。私も兄を捕まえるのに全力で協力致します!」

 

 早く逃げて!まだ見ぬ兄さん!


「頼むのじゃ!では食事を再開するの…なんじゃ?騒がしいのぅ…。」


 …ん?っあ、本当だ。店主と誰かが言い争ってるな。


 『てめぇ!変な言い掛かりばっかつけてんじゃねぇ!』


 『ああ?こっちは客だぞ?客に対する態度じゃねぇな、クソ店主』


 『うるせぇ!こっちは料理を売ってんだ!礼儀は売ってねぇ!特にテメェみたいな奴に対する礼儀は非売品よ!』


 『あっそ、じゃぁもういいわ。死ねよ』


 そう言うと男は、手に魔力を集め、店主に向かって放とうとしていた。


 「あれは大変なのじゃ!アイスじゃ間に合わないのじゃ!!」


 こんな心の清い童にスプラッターを見せる訳にはいかない。

 この執事ファルケンにお任せあれ!


 「覇王終滅勇者式魔法停止法撃てません!」


 「おお!あやつ魔法の発動に失敗したみたいじゃぞ!行くぞファルケン!店主を助けるのじゃ!」


 ふふ、この執事ファルケンにかかればこんなものよ。

 だが、あいつのあの邪気はなんだ?

 魔王より禍々しい邪気をしてるじゃないか。


 「やめるのじゃ!これ以上はこの国の龍皇女アイスヴァイス・ビッス・ヴァッスが許さぬのじゃ!」

 

 『ちくしょう、なぜ魔法がでやがらねぇ…ああ?何だこのガキ?おままごとは家でやれ』


 そう言うと男はアイスに向かって蹴りを繰り出す。

 

 テメェ!こんなにかわいい童に向かって暴力を振るうとは何考えてんだ!


 …あれ?そういえば最初にこんなにかわいい童に拳骨を喰らわしたバカがいた…いや!今ははそれどころじゃない!……童!

 

「むふふ…これは蹴りのつもりなのかのぅ?全く効かないのじゃ!」

 

 こんなにかわいい童は男の蹴りを片腕で掴んでいた。

 

 『なんだこの馬鹿力は!離しやがれクソガキ!オラァ!』


 男は掴まれていない方の足でさらに蹴りを繰り出す。

 童は掴んでいた足を離し、冷静に対処していた。

 

 いいぞ童!行けー!やっちまえー!


 「お主、見たところよそ者じゃのぅ…。大人しくお縄につくのじゃ!誰か!衛兵を呼んでたも!」


 ところが男は魔力で宙に浮かび逃げようとしていた。


 『クソガキが!ツラは覚えたからな!この街もタダで済むと思うなよ!』


 ッハ!三下みたいなセリフ吐きやがって!

 さぁ童!出番でやんすよ!やってくだせぇ!


 「ぐぬぬ…逃げられたのじゃ!ここで元の姿に戻る訳にはいかぬからのぅ…。悔しいのじゃ!」


 あ、あれ?いつの間にか逃げられてた?


 「アイス様…お疲れ様で御座います。今は店主や他のお客さんが無事なのを喜びましょう」


 「そ、そうじゃのぅ…。腹立たしいが、今はどうしようもないからのぅ。店主よ、大事ないか?」


 『ア、アイス様!ありがとうごぜぇやす!あっしなんかの為に、あんな危険な目に合わせてしまって!』


 「むふふ…いいのじゃいいのじゃ!お主の料理にはいつも満足しておるからのぅ!他の客も無事でなによりじゃ!今日はアイスの奢りじゃ!存分にやってたもれ!」


 おおー!なんて太っ腹な童だ!

 あちこちから歓声があがってるじゃないか!

 俺も一生ついて行きます!童!


 「むふふ…皆が喜んでアイスも嬉しいのじゃ!…っあ、ファルケン!ここの代金を払っておいてくれなのじゃ!アイスはお金を持っておらんでのぅ!頼んだのじゃ!」




 …テメェ童!ツラは覚えたからな!この街もタダで済むと思うなよ!

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